白き定石、黒き閃き
2作目。
モチーフが伝わるといいな。
歴史上、アウロレウムが後手に回ることはない。
これまでのどの戦いにおいても、戦場、心理戦、情報戦、あらゆる面において常に先をとってきた。
戦ばかりに明け暮れているわけではない。
しかし、いずれ戦わねばならぬと決まれば、その瞬間から勝利のために動き始める。
その白き国が、長きにわたり争いを続けているのが、南に位置するノクタリオンである。
ノクタリオンは、守り、分析し、隙を見つけた瞬間に機動力を生かして敵を鋭く切り裂く。
相手の攻めに動じることなく、むしろそれを楽しんでいる節が見られる。
攻めのアウロレウム、守りのノクタリオン。
その領土争いは、常に一進一退の状況にある。
そしてまさに今、何度目になるかもわからないほど睨み合ってきた両国の軍が、飽くことなくまた剣を交えようとしている。
「…ほう、あの小娘が指揮を執るか」
アウロレウムの白き王は、誰に告げるでもなく呟いた。
戦場で何度か見かけた娘。
若くしてノクタリオンに嫁ぎ女王となった娘は、どうやら王の飾りには収まらないらしい。
しかし、白き王はこれまでどおり堅実な用兵で巧みに先手をとり、戦を主導していく。
「まずは歩兵で陣地の中央を固め、盤面を制圧せよ」
「ふん、凝り固まったじじいのやることは面白くない」
ノクタリオンの黒き女王もまた、誰に聞かせるでもなく、心の声を我慢することなく漏らしていた。
「私が出る」
それは、王ですら止められぬ女王の意志であり、それが勝ちを手繰り寄せる最善手であることを、ノクタリオンの軍はよくよく知っていた。
「女王自ら出るだと?」
白き王は、驚きと、どこか沸き立つ心を抑えながら守りを固める指示を出した。
しかし、黒き女王はその守りを意に介することなく突破してくる。
その優雅さをまといながらの軽やかな身のこなしに、白き王は久しぶりに戦場での楽しみを見つけた。
「遅いわ。それで妾を止められると思うてか」
少数の精鋭を引き連れ、あらゆる角度から死角を突き王の首を狙う黒き女王。
「王の前に出るとは、身の程を知らぬか」
「ふん、戦場という盤の上では、王もただの駒よ」
「お前ひとりの身勝手さに付き合わされる側近の身にもなってみろ」
「毎回同じ動きしか求めぬ王など、誰が付き従うか」
白き王は、わずかな動きで黒き女王の攻撃を交わす。
しかし、黒き女王は、予測を裏切る動きで白き王に刃を振るう。
「先手を取るのは妾を恐れる証拠よ」
「強き者は勝つべくして勝つのだ。それだけのこと」
「それでどれほどの勝ちを拾った」
「数えるのを辞めたわ」
黒き女王の刃が今にも白き王の首に届かんとするそのとき、後方から歓声があがる。
「女王、撤退でございます!」
「なぜだ!あと一手で彼奴の首を刈れたものを!」
「白の象部隊がこちらの退路を断ち、戦車部隊が陛下を直接射程に収めました!これ以上の維持は不可能と判断され、退却を指示されました」
「く…またしても…王よ…」
黒き女王は、唇を噛み、悔しさを隠さなかった。
わずかながらの安堵を感じながら、久しく感じていなかった戦場での沸き立つ心を隠すことなく白き王は尋ねた。
「黒き女王よ、我のもとに来ぬか。悪いようにはせぬ。お主のその閃きと機動力、我が国において生かさぬか」
「ふん…あの王でも一度は愛を感じた男。妾がなびくことはない」
「それも一興。次は圧倒してみせよう」
「黙れ、定石しか知らぬ王が。退くぞ!」
退却の馬上、黒き女王は思う。
次は中央から崩す。
彼女にはすでに、次の盤が見えていた。
いくら短くても、物語の閉じ方って難しいですね。
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