光島さんの家。 ☆
「おじゃま、しまーす…」
「ん。風呂沸かすから、シャワー浴びてあったまってろ。あと服は俺のでいいか?」
「ありがとうございます」
下着含む全部の着替えはさすがに持ち歩いてない。ありがたく借りることにする。身長が同じくらいでよかった。
「じゃあ置いと、あ、悪い」
「ぎゃっっ」
ちょうど全部脱いだところで光島さんが服を置きにきてくれた。
「ほんといろいろごめんなさい!」
「や、今のは俺が悪いから…」
部下の全裸を自宅で見るとか罰ゲームレベルじゃないだろうか…。
「じゃあ、置いとく…」
逃げるように出てってしまった。すんません。
◇◇◇
お風呂のシャンプーがいい匂いする。光島さんの髪の香りだ、とふと気づいた。
当たり前だけど、光島さんここで生活してんだよな。なんか変に意識してしまいそうで、ちょっと熱くなった体にシャワーの水をかけた。
…あったまるためにお風呂に入ったのに何してんだろうね、うん。
湯船に浸かり、体が十分に温まったので脱衣所からタオルを取った。ふわふわのそれで体を拭き、借りた下着セットとニット、ズボンを身につける。
…わ、光島さんの匂い…。なんか安心する、いい匂い。
どき、と胸が速くなった。この服を着て、笑ったのかな。どんな顔したんだろう。これで仕事、してるのかな。
上がると、お茶と毛布を手渡された。1Kかな?意外とこじんまりしていた部屋だった。でもきちりとしている。
俺も入ってくる、と光島さんが服を持ってお風呂に行った。残された俺は、ソファに座って毛布を羽織る。
乱雑すぎない整った部屋は、なんとなく光島さん感がある。俺のいろいろ散らかってる部屋とは大違いだ。
はー、と息を吐いて寝っ転がった。毛布がもふもふしてて気持ちいい。このまま寝ちゃおうかな、という思いが頭をよぎった。たぶん光島さんの家にいるって思ったら寝られないけど。
すんすんと匂いをかいでニマニマする俺は、ちょっと側から見たら(自分から見ても)やばいやつだと思う。
なんか安心するんだよなぁ。
そもそも最初こそ怖い人だとは思ってたけど、光島さんは優しいし。
最後まで残業してるのも、それが俺たちの企画をチェックしてくれてるからだと前、気づいた。
同期の中で怖いと囁かれてもいるし、実際怒ったら怖いんだけど。でも、やっぱり優しい人なんだと思う。部下のこと家に泊めてくれるなんて。
「よしょ。お茶飲も」
光島さんが渡してくれた熱々のほうじ茶は、体の中からあっためてくれた。
「おいし…。…ん?」
ソファにちゃんと座ってはじめて、ふと気がつく。なんかあの本、Subと…Dom?って書いてある気がする。
ちょっと近寄ってみた。「SubとDomの営みについて」という題名だ。読んだりはしないけど、営みはおそらく夜のだろう。きっと、情事に関する本だ。
…光島さんもそういうことに興味、あるのかな?
一応えっちなことはしてる(まあ体の関係はない)けど、まだ全然光島さんのことがわからない。
…あ、めちゃくちゃ付箋貼ってある。ラベルとかないし、光島さんの本なんだろうな。
「おい」
本を手に取ろうか迷ってる俺に、後ろから声がかかった。
「お前、何見て…、あっ、おい!」
ぐいっと手が引かれて、光島さんが本と俺の間に滑り込んだ。
「…な、なかみまで、見た、か…?」
顔を真っ赤にして、俺と目を合わせないように俯いて。
光島さんが、呟くように俺に聞く。ぎゅっと手が握りしめられているのがわかった。
「いいえ、見てないです。…中身ってえっと」
「…お察しの通り。性的なこと、だよ…」
変なもん見せて悪い、と力無く俺の前でこぼす光島さんに、気がついたら手が動いていた。
「えっとっ、その!…そういうことに興味、あるんですか…!」
手首を掴んだ俺に、光島さんが驚いたのか目を丸くして顔を上げる。言葉が届くのに時間がかかったみたいで、しばらくしてからより一層赤くなって口をはくはくさせた。
「っ、と、その…。ある、…」
ごくん、と喉がなる。指をそっと絡ませると、びくっと光島さんが目を閉じた。
「…その相手、俺でもいいですか」
返事はすぐには返ってこなくて、代わりにトレーナーの背中が握られる。かわいい反応、と思ったけれど、少しいじわるしたくなった。
「言葉で教えてほしいな。…[Please]」
抱きしめて囁くようにCommandを出すと、ひくんと光島さんの体がちぢこまる。え…と戸惑ったような声が聞こえた。
「…っ、お、ねがいしま…す…」
半泣きの目で、耳まで真っ赤にさせながら、光島さんが声を絞り出す。その声が体を駆け巡り、一気に熱が爆発したような気分になった。
「…っ、[Thank you]」
手に力を込め、より強く抱き寄せる。俺の声はゆっくりと、夜に溶けていった。




