一緒にご飯!
水曜日の、仕事終わり。
「…おい、斑鳩」
光島さんから呼び止められた。
「はいっ!」
最近は光島さんも残業しなくなってきてて嬉しい。そのままの勢いで近寄ったら、近いとデコピンされた。あて。
「…その、なんだ。いつも昼飯買ってきてもらっちゃってるし、…。今から飯、食いに行かないか」
「…!」
これは、ご飯のお誘い!
「行きますっ!行きたいです!」
「い、言っとくが俺が行きたいとこは定食屋だから期待すんな、よ…」
「光島さんと行けるってだけで最高なんで!」
めちゃくちゃ嬉しい。俺、それだけ信頼されてるってことなのかな。
「っふは、でかわんこかよ」
くしゃ、と光島さんが笑った。身長が同じくらいだから、目線がちょうど合う。意外と表情がコロコロ変わる顔を、屈んだり背伸びしたりしなくてもすぐ近くで見れるのが嬉しい。
キスしやすいんかな、なんて考えが頭をよぎる。このまましたら、どんな顔になるのかなって。
でも、キスは本当に好きになった人と…だよな。
俺はただの、パートナーだから。セフレとかと同じだよ。
もや、とする思いを見なかったことにして。自分で自分を誤魔化すように笑って、俺は光島さんの横に並んだ。
◇◇◇
「いらっ…しゃいませ!」
「ん!?」
店で出迎えてくれたのは、早乙女だった。一瞬詰まったものの、きりっと返してくれる。
「二名様ごあんないでーす!」
彼女がよく通る声で奥に言ってから、ご案内しますと微笑んだ。案内された二人がけの席に座る。
慣れた様子でメニューも見ずに光島さんが自分の分を注文した。決めかねていた俺は、いくつかおすすめを教えてもらってそれを頼んだ。
◇◇◇
「う、まっ!」
口の中でザクッと唐揚げがはじけ、肉汁が口に溢れる。
「ふん。だろ?」
心なしか満足そうに、光島さんが笑った。その目の前には肉野菜炒め。
「…一口分けてやろうか?」
「えっ」
光島さんが自分の箸で肉野菜炒めをつまみ、浮かせる。
「へっ、で、そ…っっ」
月曜日に、意図的ではないとは言え間接キスしたことを思い出す。口をはくはくさせる俺を、光島さんが声を出して笑いながら見ていた。
や、やり返された…っ!
◇◇◇
ご飯も終わり、お水のおかわりをもらおうと思って店員さんを呼ぶ。
早乙女じゃなく、黒髪の小柄な女の子が水入れるやつを持ってきてくれた。ウォーターピッチャーって言うのかな?
あれ、と一瞬思う。蓋がずるっと動いた気がした。でも何かする間も無く、次の瞬間にそれは外れていた。
「あっ!」
一瞬遅れて、自分の服が濡れたのに気がつく。女の子が出した声が、ちょっとゆっくり耳に届いた。
「…うぉ、びしょびしょ。光島さん、大丈夫ですか?濡れてません?」
じっとりとシャツとズボンが張り付いてくる。スーツの上脱いでてよかった。
「もっ、申し訳ありませんっ…!」
「あ、平気平気。あなたも大丈夫ですか?」
青ざめている店員さん。まあ熱くもなかったし、寒いだけだから平気なんだけどさ。
「タオル持ってきてくださいますか?あと雑巾とか」
光島さんが店員さんにそう声をかけて、俺の手を引く。
「大丈夫か?寒いだろう。とりあえずトイレで服絞れ」
「はーい」
歩きながら、嫌な予感がしていた。これ、中まで濡れてるよなぁ。
「えっと、どこまで濡れた?」
「んっと。シャツとズボンと、パンツが全滅しました…」
「マジか…」
とりあえずシャツは脱いで手を洗うところで絞る。男女兼用個室一個だから、他の方に申し訳ない。
シャツを光島さんに渡し、ズボンも脱ぐ。光島さんに思いっきり目を逸らされた。
マジですみません、お見苦しいものをお見せしました…。
「とりあえず、なんとかなる…か…?」
「漏らした感半端ないですね」
鏡に映る俺のズボンはぐしょ濡れだ。シャツは上からスーツ着ればなんとか…?
「じゃあ俺のやつ腰に巻いとけ」
「やっ、それは流石に自分の巻きます!でも貸してもらっていいですか…?」
シャツも犠牲になったので、このまま帰ると風邪引きそう。ありがたく光島さんのスーツを貸してもらう。
「…あのさ」
おず、と光島さんが言った。
「お前がいいんだったら俺の家来いよ。近い、から…」




