違和感。
注意:【暴力的な描写】を含みます。
最近、光島さんの様子がおかしい。いや、ここ数日なんだけど。
なんとなく顔色が悪い気がするし、ご飯全然食べてない。それにめちゃくちゃ避けられてる。
俺、なにかやらかしただろうか。
もしかして、あのとき手を繋ぎたくなかったとか!?
確認しようにも話せないから、一人で悶々としてるだけだ。近づくとすすすすっと逃げられる。
何かしましたかと聞いても「別に」しか返ってこなくてとても怖い。
でも本当にご飯も全然食べないのは心配だ。
俺の家にも来てくれなくなってしまったし、ここ数日飲食する光島さんを見ていない。
迷惑かもしれないけど、今日あたり光島さんの家に行ってみようかと思う。追い返されたらそれまでだけど、とりあえず俺が避けられてる理由を聞かせてもらいたい。
◇◯◇
斑鳩が最近、ちらちら俺を見てきている気がする。助けてと言ったらきっと助けてくれる気がした。そこに縋りたい思いもあれど、迷惑になるのがただただ怖い。
俺なんかのために、あいつを巻き込んではダメだ。
お腹も全然空かなくて、斑鳩の顔が浮かんでは何かを口に入れようと思うけれど、すぐ戻してしまう。
寝ても北斗さんの夢ばかり見てしまい、ここ数日はろくに寝れてもいない。早く決めなければと焦るほどに、心はどんどんと重たくなっていった。
北斗さんと会ったのは月曜日の夜。もう金曜日になってしまっているから、早く北斗さんのところに行かなくてはならない。頭でわかっていても、足が動かなくなってしまうのだ。
アパートに帰ると、また、集合ポストの前に北斗さんが立っていた。チッと舌打ちが人のいない空間に響く。
「おせぇんだよ。相変わらず鈍いんだな。成長したかと思ったのに、変わってねぇ」
お前、今付き合ってるやつでもいんの?その問いかけに、反射的に首を振る。Glareに押されて、じり、と外に後退した。
「っは、ダッセェ。オレのとこからいなくなるから、あてがあんのかと思った。つぅか、お前は誰かと付き合うなんて無理か。邪魔にしかなんねえもん」
「…っ」
思っていたことを、抉られた。図星?とまた、北斗さんが嗤う。
「ほら、だから早く来いって言ってんだよ。お前のイバショ?になってやるからさ。ああ、それとも」
これ、公開してほしい?
北斗さんが、スマホを突きつけてくる。画面を見て言葉を失った。動画が再生されると、卑猥な言葉と音が聞こえだす。
「なんでっ、それ…」
「あ?お前が撮ってって言ったんだろう?」
言ってない、そんなこと。画面に映る俺は、ひどい痴態を晒していた。解説をする俺のそんな姿なんて見たくなくて、目を逸らす。
だって、[Taken]って言ったのは北斗さんじゃん。[Show]も[Present]も全部、俺、嫌だって言ったじゃん。何回もSafe word言って、それでもやめてくれなくて。消すって、言ってた、のに。
「これ、お前の会社の人に送ったらどうなるだろうな?」
「やめっ…!」
それだけは、嫌だ。斑鳩に見られたら、軽蔑されたら。会社の人にだって、Subであることは言っていないのに。切羽詰まった俺の様子が面白かったのか、北斗さんがまた笑った。
「どうする?オレの家で家事をするか、このまま帰るか。選べよ」
選択肢を与えてやる、と言っているけれど、こんなのもう選べるものは一個しかない。
「…っ、ついて、いきます…」
◇◇◇
目の前がライトでチカチカする。いわゆるラブホ街で、目が回りそうだ。
家事をすればよかったんじゃないんですか。そう思って見上げても、一向に速度を緩めてくれなかった。
「おい、来いよ」
あるホテルの前で、手が引かれた。咄嗟に反抗するように足を突っ張る。
ああ?と舌打ちする北斗さんにまた、体がびくんと反応した。
「…イカルガ、ユラ?だっけ?お前が仲良いの」
「っは」
斑鳩の名前が、なんで、ここで。なんで北斗さんがその名前を知って、…?
「あいつが心残りかぁ?二人仲良く水族館まで行って…。恋人ゴッコ、お疲れ様」
体がかっと熱くなる。
くすくすとバカにしたような嗤い。それが斑鳩に向かったことが、なぜかどうしようもなく許せなかった。
「斑鳩を悪く言わないでください…!」
「ハハッ、恋人のふりは楽しかったか?…あいつにあれを見せることだってできるんだぞ」
がっと肩を掴まれ、強く下に押しつけられた。
「[Kneel]」
その言葉がずんっと重くて、膝が崩れ落ちる。よくもオレに歯向かいやがって、手加減してやろうと思ったのにどうしようか、と北斗さんが俺を見て呟いた。
「とりあえず、電話をしろ。イカルガに。で、嫌いだと告げろ。いいな?」
「…やっ」
理解して反抗する前に、叩きつけられるようにCommandが重ねられた。
「[Call]、[Say]」
そう言われると、手を止めたいのに、勝手に手が動く。嫌だ。斑鳩に嫌いだなんて言いたくない。嫌だ。
『…っもしもし、光島さん!?どうしました!?』
電話から勢いよく斑鳩の声が返ってくる。心配するような声が、優しくて。助けてって言いたい。でも、俺に今、許可は出てない。
『最近大丈夫ですか、体調とか』
「なぁ」
心配してくれる言葉を無理矢理遮る。俺の声から何かを感じ取ったのか、ぴたりと斑鳩が黙った。その顔とか、そんなの想像したくない。できるのが嫌だ。傷ついた顔なんて、知りたくない。
「お前のこと、きらい、だからさ。もう、関わんないでくんない…?」
『…え』
固まった声が、小さく、響く。胸が引きちぎれるように痛くて、でもこれで斑鳩を巻き込むことはなくなったはずで。これでいいんだ。
そう思って、北斗さんを見上げる。
「うぜぇ…」
その声が上で聞こえた瞬間、スマホが吹っ飛んだ。手に強い衝撃を感じて、持っていられなかった。咄嗟に胸に当たるのは庇ったものの、蹴られた力に抗えなくて地面に倒れ込む。
『光島さんっ、なんの音』
「…助けて、由良っ!」
じわりと手から血が滲むのを感じた瞬間、由良の声を聞いた瞬間。抑えきれなかった悲鳴が助けを求める言葉となって溢れ落ちる。同時に、体が浮いた。
「てめぇ、許可してねぇって何度言ったらわかる?脳みそはあるか?躾がまだ、足りてないんか」
胸ぐらを掴まれて、息が苦しくなる。苦しくて涙がこぼれても、北斗さんは手を緩めない。
「ゃ、めっ…」
「やめろっ!」
突然衝撃を感じて、首から手が離れる。息が楽になると共に、周りが真っ暗になった。
「光島さん!」
ぎゅっと抱きしめられて、反射的に抱きしめ返す。
聞き慣れた、安心する声。包まれたらほっとする匂い。
斑鳩だ。
ぎり、と小さく歯軋りが聞こえた。俺には向けないようにと抑制された強いGlareが放たれている。
斑鳩が俺の視界を塞ぐように抱きしめて、北斗さんを睨みつけたのがわかった。
「お前っ、何しやがる」
「そちらこそ、光島さんに何をしていらっしゃるんでしょうか」
今さらですが
▪︎語句説明▪︎
[]の中の英語は「Command」です。上に振ってあるふりがなが日本語での意味になっていて、英語が同じでも人によって微妙な差があります




