水族館 with千紗
「ねえ斑鳩。水族館行かない?」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。早乙女がいちごミルクのペットボトルを上下に振ってシェイクしながらもう一度言う。
「だからぁ、水族館行こうよ。二人で」
「なんで俺なん?」
お前、彼女いるだろ。そう言うと、だからよと返事が返ってくる。
…??
「無料券を六枚もらったのね。それで、あたしは彼女と行きたいの。でも複雑らしいし、行ったことないからわかんなくて。今回は特に失敗したくないのよ」
誕生日デート…、だ、から…。珍しく、顔を真っ赤にしてモニョモニョと言う早乙女。おお、恋する乙女の顔だ。
ニコニコと見守っていたら、キッと睨まれた。笑うなっ!と照れ隠しのように言われる。
「ということで、あんたに下調べに付き合ってほしい」
「あーね」
やっと理解が追いついた。行ってくれたらお礼に二枚あげるから光島さんと行ってきなよと言われて、水筒のお茶を吹き出しかける。
「好きなんでしょ、光島さんのこと。なら行動を起こさないと」
…うう、ごもっともである。
恋愛相談相手になってくれている早乙女には恩がありすぎる。あと俺も光島さんを誘いたいから下調べに行きたい。
二人の意見が一致した瞬間だった。
◇◇◇
「ねーねーっ、見てよこの写真!可愛くないですかウチの彼女!」
「千紗、電車だから」
立ち上がりそうな千紗を一生懸命落ち着け、座らせる。スマホでずいずい画像を見せられそうになっているから、いったん静かにしてもらおう。
二人並んで座り、揺られる。写真は、黒髪ウルフカットのかっこいい女性だった。
「本当にねっ、たまに甘えてきてくれるのがすごい嬉しくて…っ、めっっちゃかわいいの!」
「へぇ、かっこいい人だね。綺麗」
「でしょっ!」
さすがに電車内では声を潜めている。ずいっと魅せられた写真を見て、素直に綺麗な人だなあと思った。ふと、第二の性はどれなのだろうと気になる。
「…気になるって顔してるね?Switchだよ、真帆は」
「…!バレたか」
千紗はSwitchだ。一回高校生時代に付き合ったことがあるが、結局お互いを恋愛的には見れないということで別れた。俺がDomで、千紗もDom属性の強いSwitchだったということもある。
そもそも普通に考えて、千紗にマッチングアプリの使い方とか教えたの俺だし、そこで会ったって言ってたから、Switchの人だよな。顔出しした写真じゃなかったけど、千紗がマッチングした人ってたぶんこの人だ。
「たまに変わるけど、基本あたしがDomよ」
「あーね。…相性の合う相手がいるって幸せだよな」
「ホントそれ!」
ふっと光島さんの笑顔が脳内に浮かぶ。ちょっとエロめの顔も釣られるように思い出してしまって、ぼあっと耳が熱くなった。
「…なんかやらしーこと思い出してるでしょ、光島さん関連で」
「お前エスパーかよっ…」
◇◇◇
「うお、でけぇ」
「わぁ!水族館、久しぶり!」
ん、とつい、昔のくせで手を差し出してしまった。昔は身長差もあって(今も)、逸れないようよく繋いでいたから。
うわ〜…と冷めた目を千紗に向けられる。
「あんたが人たらしと言われる所以よね…。そういうの、好きな人以外にしない方がいいわよ?誤解招くから」
そう言われて、ハッと気がついた。そうか、そういうことがあるのか。
「あとあたしはDom性が強いんだからね?リードして甘やかしたい側なの、どっちかっていうと。あんたよりは弱いけど」
「ご、ごめん…」
「それやるの光島さんだけにしなよ、ね?」
そう言って、千紗は金髪を揺らして楽しげに歩く。彼女もいる人にこういうこと、しちゃダメか。
「ねー、早く行こう!」
受付を指差して駆けていく千紗を追いかける。
ふと、光島さんが隣にいたらどういう表情なんだろうなと思った。こういうところ、好きなのかな。それともお魚食べたくなっちゃう人か?
…ああ、一緒に来たいな。
その思いを胸に、俺は千紗の横に並んだ。
日別39位感謝です!
【告知】
あと四話で投稿を一旦完結します。月曜日と金曜日の週2投稿になります。
最後までお付き合いくだされば幸いです。




