つけちゃった。 ☆
「んっ…、ふ、ぅ」
俺の背中に手を回しながら、光島さんが甘い声を吐息と混ぜてこぼす。
耳元で囁かれ続けて、その甘さに耳が溶けそうなくらい色っぽくて、愛おしかった。
「…」
くて、と寝ている光島さんを抱きしめたまま、俺はなかなか眠れずに光島さんの素肌を指でなぞる。
白い、胸の上あたりの肌を親指でなぞりながら、光島さんが時折考えているであろう人のことを思い出した。
それが誰なのかは知らない。ほくとさん、という人が誰なのか、問い詰めたことはない。自分にそんな権利がないこともわかっている。
…やっぱ元カレ、なのか?それとも、思い人?
たまに見せる怯えた表情や声もその「ほくと」さんのせいなんだろうか。まだ思い続けているのかどうか聞いてみたい気持ちはあるけれど、それで傷を抉るようなことになってしまうのが一番怖いから黙っている。
…その人もこの辺とか、触ったんだろうか。
独占欲といえばいいのだろうか。なんとなく、誰かが光島さんに触れているのを考えると、心の奥がざわざわする。
俺だけを考えていてとか見ていてとか、そういうのを常に思っているわけじゃない。俺のものになって、は傲慢な気がして、俺はあんまり好きじゃない。
全部じゃなくていいんだけど、ふとした瞬間に思い浮かべる人の何割かは、俺であってほしいんだ。
滑らかな肌にそっと唇を触れさせる。痛くないようにするには、どれくらいがいいんだろうか。
かり、と小さく噛んだ。ちらりと上を見ると、んぅ、と光島さんが軽く体を動かす。
「…みつしま、さん」
名前を呼ぶと、また、ん…、と軽く眠そうに声を出した。返事みたいでかわいい。
『ゆ、らっ…!』
首にしがみつきながら、何度も俺の名前を読んでいた声が蘇った。光島さんの匂いを感じながら、何度か吸い上げる。
綺麗に華が咲いたのを確認し、満足して抱きしめた。
とりあえず今はまだ、俺の腕の中にいてほしい。とくとくと穏やかに打つ心臓の音が、ここにいるよと教えてくれるみたいで嬉しかった。
気づいたら、どんな反応をしてくれるのか気になってしまったんだ。俺しか知らない光島さんをもっと、知りたい。
…いつ、気づくかなぁ。
◇◇◇
「…はよ」
むく、と起き上がった光島さんが、服を手早く直しながらキッチンに向かう。おはようございますと返して、俺も起きた。
翌日に影響がないよう、行為は基本土曜日。Playも兼ねる。そして、どちらかが申し出て双方同意したら平日にもPlayする。
これが、今の俺らのルール。逆に言えば、これ以外は自由だ。たとえば、デートに誘うのだって…!
誘いたい。とても。
行く場所を気づいたら調べてしまっている今日この頃なのだった。
「…っうわ、斑鳩お前!」
洗面所から呼ばれた。たぶん気づかれたな〜、と思いつつ向かう。
「はい」
「はい、じゃねえ…!これお前が付けただろ」
ぐいっと襟を下に引いて、光島さんが首まで真っ赤にしながら怒っていた。くっきりと想像以上に残った色が、白い肌に引き立てられて艶かしい。
ついそこに見惚れしまって、でも光島さんの顔が浮かないことがそれ以上に引っかかった。
「お前さぁ…。こういうの、本命だけにやれよ、全く。まあ、付けちまったもんは仕方がないけど、もうやるな」
頼むからさ…。
考えていなかったくらい寂しそうな笑顔に、胸が冷えた。傷ついたような、悲しそうな目。そんな目をしてほしかったわけじゃないのに。
「…あー、なんだ。俺の言い方も悪かったな。悪い。そこまで気に病むな」
俺の表情が翳ったのか、光島さんがぽん、と肩を叩いて出ていった。
「俺…、。ごめんなさい…」
「や、そんな強く言うつもりもなかったから。次から、な?」
後ろから声が返ってきて、でも振り向く勇気はなくて。ずる、とそのまましゃがみ込んだ。
光島さんの目が、頭から離れなくて苦しくて。こんなに傷つけてしまうなんて思わなかった、と言い訳にすぎない言葉が頭をよぎる。
「本命なんて、光島さんしかいないです…」
◇◯◇
風呂から出ると、鏡に俺が映る。ちょうどマークをつけられた側の方がよく見えて、つい目を逸らしてしまう。
…はぁ。
何度目かわからないため息をついた。そんなはずないのに、愛されているのかなとか思ってしまう。
少なくても、ちょっとは由良の中で俺は特別なんだろうか。こんなことをするくらいには、想われていると思っていいんだろうか。
好きになんてなりたくない。期待もしたくない。いつか、由良が早乙女や誰かと付き合った時に、辛い思いをするだけだ。
わかっているのに。何度も、手が残温を確かめるように、マークを撫でてしまう。
ああ、どうしよう。
もうどうにもできないくらい、本気で、好きになってしまったよ。
◇◇◇は時間などが変わることを、◇◯◇は時間と視点人物が変わることを表しています。




