月と電話
電車と違ってほぼ揺れることはない新幹線。景色が滑っていくのが毎度のことながら面白くて外を眺めていた。
三人席の窓側、つまり俺にとっては特等席。指定席で、まだ隣はいなかった。仕事も終わらせてきたから、この三日間ぐらいはのんびりできそうだ。
放送が流れ、新幹線が徐々に速度を落とし始めた。駅に止まると人がいっぱいいる。カップルでどこかに行く人も多いのか、二人組と家族連れが目についた。
…いやまあ一人の人もいるんだろうけどさ。誰かと行きたいっていう俺の気持ちが強いせいかもしれない。
俺の隣に乗ってきたのは、五歳くらいの男の子と赤ちゃんを連れたお母さんだった。
男の子が俺の隣に座り、興味津々で外を見ている。邪魔にならないように、後ろに人がいないことを確認して少し座席を倒した。
新幹線が動き出すと、テンションが上がったようだ。声が大きくなるのを、一生懸命お母さんが宥めていた。
…よく飽きないなぁ。まあ俺も見てるけど。
ワクワクした顔で外を見ていて、かわいいなと思った。光島さんがここにいたらどう思うんだろうな。
いきなり隣から聞こえた、ごぉっという音に思わず背筋が伸びた。ちょうど今、すれ違ってるんだ。
「わーっ、いま来たっ!」
「びえぇええん!!」
男の子が一際はしゃいだ声を上げ、それに起きたのか赤ちゃんが泣き出す。お母さんが慌てているのを見かねて、俺は男の子に話しかけることにした。
「いま窓ビリビリしたね」
「うんっ、した!」
「すごかったね。でも新幹線の中には他のお客さんもいるんだ。ちょっとだけ、声を小さくできるかな?」
そう言うと、できる、とすぐに声を小さくしてくれた。お、いい子。
「ありがとね」
ちょうどママさんと目が合ったので、ぺこりと頭を下げる。感謝する目で頭を下げられて、嬉しくなった。
「あ、俺怪しい人じゃないよ?」
「怪しい人は怪しい人じゃないって言うって本に書いてあったし」
「あらら」
教育がしっかり行き届いている子だった。そういうことを知ってるのはいいことだ。
…そして結局、俺が降りる駅まで話は続いたのだった。
◇◇◇
「ってことがありまして〜。めちゃくちゃ可愛かったんですよその子が」
『へぇ、楽しそうじゃんか』
「はい、楽しいです。…そうだ、いま何してます?忙しかったですか」
や、全然。そう言って光島さんが座った音がした。忙しい時に電話しちゃわなくてよかった。
「いまポチがいるんですけど、ビデオ通話繋ぎません?」
『…!したい』
ふもふもした頭を撫でながら、俺はビデオをオンにした。
「やっほー、見えてますか?」
『うん。…俺もつける?』
「えっ!?顔見た、あ、でも嫌だったら俺だけでも」
思ってなかったことをいきなり言われて、テンパってスマホを投げかけた。顔見たいが最初に出てきてしまって、慌てて本音をフォローする。
『酒でも飲んだか?…え、まあ、別に繋げても…』
「やった…!」
こんだけ遠い実家で光島さんを画面越しで見れるとか、最高すぎやしないだろうか。
「ほら、うちのポチです。ほら、光島さんだぞ…わぁ噛むな!」
スマホにポチを映すために顔に近づけると、徐に光島さんと見つめあったあと口を開けた。
「いくら光島さんがかっこよかろうと、俺のスマホを食うなよ。な?…すません、スマホ食われかけました」
『ふは、なんだよそれ…。ポチ可愛かったな』
「でしょ!?」
そうだ、と思ってベランダに出る。木と山しかないけれど、月が微かに夜を照らしていた。
「これ、見えてますか?月が綺麗です」
『うお…。すごいな。待って、俺も出る』
パタパタ、がらり。近い息遣いと共にそんな音がして、光島さんも外に出たんだなとわかった。
『わ…。お前のとこほどじゃないけど、すごい』
満月ではなくて、だいぶ細い一筋の光。夜空が布とするならば、その裂け目から漏れ出るような、そんな感じだ。
『…意外とロマンチストだな』
「うそっ、声に出てました!?」
ふはは、と笑い声が聞こえてくる。耳元でその声を堪能しながら、俺はもう一度月を見上げた。
だいぶ遠くて、たぶん寄せ合っている思いも違う。でも今、同じ月を見て、笑い合ってる。
そのことがひどく特別に感じて、俺の口からもまた笑いが溢れた。
大好きです、と、伝えられない思いを溶かすように。
大晦日の一日前の話ですね。
明日大晦日の話は投稿します




