表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

月と電話





 電車と違ってほぼ揺れることはない新幹線。景色が滑っていくのが毎度のことながら面白くて外を眺めていた。


 三人席の窓側、つまり俺にとっては特等席。指定席で、まだ隣はいなかった。仕事も終わらせてきたから、この三日間ぐらいはのんびりできそうだ。


 放送が流れ、新幹線が徐々に速度を落とし始めた。駅に止まると人がいっぱいいる。カップルでどこかに行く人も多いのか、二人組と家族連れが目についた。


 …いやまあ一人の人もいるんだろうけどさ。誰かと行きたいっていう俺の気持ちが強いせいかもしれない。


 俺の隣に乗ってきたのは、五歳くらいの男の子と赤ちゃんを連れたお母さんだった。


 男の子が俺の隣に座り、興味津々で外を見ている。邪魔にならないように、後ろに人がいないことを確認して少し座席を倒した。


 新幹線が動き出すと、テンションが上がったようだ。声が大きくなるのを、一生懸命お母さんが宥めていた。


 …よく飽きないなぁ。まあ俺も見てるけど。


 ワクワクした顔で外を見ていて、かわいいなと思った。光島さんがここにいたらどう思うんだろうな。


 いきなり隣から聞こえた、ごぉっという音に思わず背筋が伸びた。ちょうど今、すれ違ってるんだ。


「わーっ、いま来たっ!」


「びえぇええん!!」


男の子が一際はしゃいだ声を上げ、それに起きたのか赤ちゃんが泣き出す。お母さんが慌てているのを見かねて、俺は男の子に話しかけることにした。


「いま窓ビリビリしたね」


「うんっ、した!」


「すごかったね。でも新幹線の中には他のお客さんもいるんだ。ちょっとだけ、声を小さくできるかな?」


そう言うと、できる、とすぐに声を小さくしてくれた。お、いい子。


「ありがとね」


ちょうどママさんと目が合ったので、ぺこりと頭を下げる。感謝する目で頭を下げられて、嬉しくなった。


「あ、俺怪しい人じゃないよ?」


「怪しい人は怪しい人じゃないって言うって本に書いてあったし」


「あらら」


教育がしっかり行き届いている子だった。そういうことを知ってるのはいいことだ。


 …そして結局、俺が降りる駅まで話は続いたのだった。



◇◇◇



「ってことがありまして〜。めちゃくちゃ可愛かったんですよその子が」


『へぇ、楽しそうじゃんか』


「はい、楽しいです。…そうだ、いま何してます?忙しかったですか」


や、全然。そう言って光島さんが座った音がした。忙しい時に電話しちゃわなくてよかった。


「いまポチがいるんですけど、ビデオ通話繋ぎません?」


『…!したい』


ふもふもした頭を撫でながら、俺はビデオをオンにした。


「やっほー、見えてますか?」


『うん。…俺もつける?』


「えっ!?顔見た、あ、でも嫌だったら俺だけでも」


思ってなかったことをいきなり言われて、テンパってスマホを投げかけた。顔見たいが最初に出てきてしまって、慌てて本音をフォローする。


『酒でも飲んだか?…え、まあ、別に繋げても…』


「やった…!」


こんだけ遠い実家で光島さんを画面越しで見れるとか、最高すぎやしないだろうか。


「ほら、うちのポチです。ほら、光島さんだぞ…わぁ噛むな!」


スマホにポチを映すために顔に近づけると、徐に光島さんと見つめあったあと口を開けた。


「いくら光島さんがかっこよかろうと、俺のスマホを食うなよ。な?…すません、スマホ食われかけました」


『ふは、なんだよそれ…。ポチ可愛かったな』


「でしょ!?」


そうだ、と思ってベランダに出る。木と山しかないけれど、月が微かに夜を照らしていた。


「これ、見えてますか?月が綺麗です」


『うお…。すごいな。待って、俺も出る』


パタパタ、がらり。近い息遣いと共にそんな音がして、光島さんも外に出たんだなとわかった。


『わ…。お前のとこほどじゃないけど、すごい』


満月ではなくて、だいぶ細い一筋の光。夜空が布とするならば、その裂け目から漏れ出るような、そんな感じだ。


『…意外とロマンチストだな』


「うそっ、声に出てました!?」


ふはは、と笑い声が聞こえてくる。耳元でその声を堪能しながら、俺はもう一度月を見上げた。


 だいぶ遠くて、たぶん寄せ合っている思いも違う。でも今、同じ月を見て、笑い合ってる。


 そのことがひどく特別に感じて、俺の口からもまた笑いが溢れた。


 大好きです、と、伝えられない思いを溶かすように。



 









 

大晦日の一日前の話ですね。


明日大晦日の話は投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ