痛いの痛いの飛んでいけ (短編)
「くっ…」
背伸びして、やっと資料に手が届いた。よし、合ってる。
体の前で両手で荷物を抱えているせいで、視界があんまり良くない。まあ席も近いしいっか、そう思って一気に運ぶことにした。
「…うわ、大荷物」
早乙女が俺を見て言う。よっぽど不安定だったんだろうな。
「ね、ちょっと斑鳩気をつけ」
「ぅわっ」
…遅かった。
何か分かる前に、俺の重心は傾いた。右足に何か引っ掛かる感覚を感じるとともに、鈍い音がする。
「あー…。もしもし、大丈夫ですか?」
「ダメですね…」
ずきずき痛む膝をさすりながら身を起こす。いてて。なんかのコードに足が引っかかったっぽい。
「え、誰かパソコン落ちたりしませんでした?大丈夫?」
「あたしのよ」
「えっ、ごめん千紗」
「問題ナシ。というか早乙女とお呼び」
千紗…じゃなくて早乙女が、呆れたように言いながらも散乱したプリントを集めてくれる。周りの人も手伝ってくれました。あざます。
「大丈夫ですか〜、斑鳩さん」
「いや〜、本当にびっくりですね」
まさかこれほど派手にコケるとは思わなかった。
「ほれ」
早乙女が主に拾ってくれて、綺麗にまとめて渡してくれる。昔からこういうところは変わらないよな。几帳面。
「よく俺がコケるって分かったな」
「高校生時代からの付き合いだからね」
その言葉に、周りの人が驚いた目線を俺たちに向ける。あー、まあそうですね。そうなるよね。
残念ながらキラキラした話はないんですけれど。高校生時代から会社まで一緒だけれど「運命」感は皆無である。
そもそも早乙女は彼女いるしなぁ。あと一回もお互いにそういう目で見ることはなかった。
やれやれ。二人で顔を見合わせて苦笑したら、周りから高い声が聞こえた気がした。早乙女、後で質問攻めにされそうだな。ファイト。
◇◇◇
「おい」
「はいっ!?」
休憩時間にコーンポタージュを飲んでいたら、後ろから声がかかった。
「…その、だな」
商談帰りか、光島さんがバッグを持って立っている。何回か話すのを躊躇ったあと、光島さんは気まずそうにぽつりと言った。
「えっと。…さっき転んでただろ?」
むう、と拗ねたように見えたのに、その顔は赤かった。さっき…転んだ…。やっと光島さんが何を言っているのかを理解して、びっくりした。
「えっ、あ、ああ!さっきのやつですか…、え、見られてました?」
コケ騒動の後に光島さんが帰ってきたからセーフかと思ってたんだけどなあ。かなり恥ずかしい。
「…大丈夫、か…って聞きたくて…」
大丈夫そうだよな悪い!と早口で言って離れようとした光島さんの手を、ぱしっと掴む。
「…おい、なんだ」
掴んどいてなんだけれど、また言葉が行方不明である。
…人間って、焦ると不思議なこと言うよね。
「えと、痛いから、飛ばしてください!」
「…はぁ?」
我ながら、なんでこんなことを言ったんだろうか…。顔が熱くなった。幼稚園児かと自分でも思う。
「ごめんなさい、変なこと言いました」
「いや、まあそういうこともあるよな…」
戸惑った光島さんからのフォローじゃないフォローが来てしまった。
「え…。こ、こういうことか…?」
ぽふ。頭の上に手が置かれ、そのまま撫でられる。
「痛いの痛いの、飛んでいけ…」
なでなでされながら、小さくそう言われた。光島さんが俺と視線を合わせないようにしながら、真っ赤になって俺の頭を撫でている。
「…だーっ、まじまじと見るな!」
「痛み全部飛びました!」
「ああそうかよかったな!そして忘れろっ」
かああと熱くなった耳を隠すように手を当て、光島さんが言い捨てて部屋に行ってしまった。
…なんかもう、その反応は反則だと思う。めちゃくちゃかわいかった。
ああ、俺やっぱり、光島さんが好きだ。
予告通り短編です。
○ぷち設定○
早乙女 千紗…斑鳩の高校時代からの同級生であり元カノ。斑鳩以外にはDomということにしているが、実はDom性の強いSwitch。斑鳩との間に恋愛感情は皆無。
光島さんは斑鳩と早乙女が現在付き合ってる(もしくは両片思い)だと思ってますね。




