夢。 ☆
今回性的描写は含みませんが、【暴力的表現・DV要素】が含まれます。
申し訳ありませんが、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
心臓が暴れるように痛い。なのに、背や頬を伝う汗はゾッとするほど冷たくて。キリキリと締め付けられるような痛みに息も吸えない。
「…っ、ぁ…」
謝らなくてはいけないのに。北斗さんに、謝らなきゃ。
「ほくと、さ」
「おい、いつ話していいって言ったんだよ」
舌打ちと共に鈍い音がして、俺は床に倒れ込んだ。口の中にジワリと血の味が広がって、頬の痛みを認識してようやく、蹴られたのだと気がつく。
「お前さ…。疲れてるオレを労る気持ちとかねえの?」
もういいわ、と言って北斗さんが俺の前から動き、寝室に行ってしまう。痛みを主張してくる頬を押さえたまま、俺は蹲った。
ひっくり返されたご飯の器を拾い、掃除する。なんでそれだけのことなのに、こんなにも足が動かないんだろう。
また食材を無駄にしてしまったな、とじわりと罪悪感が募る。仕方ない。俺がお風呂掃除まで終わってなかったのが悪いんだ。お迎えに行けばよかったのに。北斗さんの好みをちゃんと覚えていたら、今頃一緒に笑ってご飯が食べられたのだろうか。
でも、でもさ…?
無理だよ。俺だって15分前にやっと帰ってきて、一生懸命唐揚げとかお味噌汁とか作ったんだよ?急いで電車に乗るために走ったんだよ。北斗さんが疲れてるの知ってたからさ、頑張ったんだよ…?
なんで、こうなっちゃったんだろう。
◇◇◇
「…っ、」
目を開けた瞬間、自分がどこにいるのかわからなかった。まだ荒い息を懸命に鎮め、震える手で頬が痛まないことを確認する。
「…はぁ、はっ…。ぅ、」
ぐっしょりと汗で濡れた服が気持ち悪い。今、北斗さんはいない。わかってる。この部屋には俺しかいない。
なのに罵声が飛んできそうで、怖い。
「なんで、この夢…」
最近はようやく見なくなったと思ったのに。あの頃の夢なんてもう、見たくないのに。
無性に誰かの声が聞きたくて仕方がなかった。もう自分でも深く考えないまま、縋るようにスマホに手を伸ばす。
トゥルルル、トゥルルル…。
呼び出し音が果てしなく長く感じた。時計をふと見ると、もう夜中の1時。いくら週末だからって、こんな時間に起きているはずがない。諦めて、通話終了を押そうとする。どうせこのままかけたって迷惑だから。起きてないのにかけてたら、心配させてしまうだろうから。そう思って手を動かしたいのに、動かしたくない。
「…はい、もしもし」
突然呼び出し音が終わって、声が聞こえた。自分で呼び出したくせに言葉なんて考えていなくて、返事ができない。
「もしもーし?光島さんですよね。こちら斑鳩です、何かありました?」
黙ってしまった俺を案ずるような声が、電話から聞こえてくる。答えなきゃ、と思うのに一向に口が動かなかった。
「大丈夫ですか〜…?」
少し潜められた声でもう一度聞かれる。俺はどうしてもらいたかったんだっけ?なんで電話なんかかけたんだろう。
「悪いっ、なんでもない…」
焦ってどうしようもできなくなって。反射的につい出てきた言葉はそれだった。あ、間違えた。そう気づいてももう、口が動かない。
「えっ、ちょっと待って!?切らないでくださいっ」
通話終了ボタンを押そうとした瞬間、スマホから斑鳩の声が響く。Commandを出されたわけでもないのに、咄嗟に指の動きが止まった。
「えっとですね、あの〜…。実は俺、ホラー映画見ちゃいまして…。ちょっと今一人で寝らんないんで、迷惑じゃなかったら切らないでくれませんか…?」
遠慮がちに言われたそれが、嘘かどうかの判断なんてできない。もしかしたら俺の様子を察して言ってくれたのかもしれない。
でも、もう考えたくなかった。ただそれに甘えてしまいたかった。
◇◇◇
「それでですね〜。俺、猫カフェ行ったんですよ。そしたら、なんとですね。猫全然来てくれなくて!いやまあそれはそれで可愛かったんですけどね」
…どんまいすぎる。なんか猫を眺めながらニコニコしてる斑鳩が脳内に浮かんできて、思わず吹いた。
「犬カフェに行ったらモテたりしないかなぁと思ってるんですよね。検証行きたくて、今度行きません?」
「ふは、いいなそれ」
ベッドに寝転がって、取り止めもないことをただ話す。それがどうしようもないくらいに心地よくて、楽しい。
夜が怖かった。真っ暗な中で、一人だけの世界だと気づいてしまうから。斑鳩の声は、あたたかくて、周りを照らす光みたいで。ゆっくり安心していい場所だって思える。
甘えていることなんてわかってる。自分でももうどうにもならないくらいに惹かれてしまっていることも。
大丈夫、ちゃんと俺は身を引ける。だから、お願い。
今夜はもう少しだけ、このままでいさせて__。
斑鳩は怖いものが苦手です。ホラー映画はマジでダメです。絶叫系は、まぁいける…?




