ただいま
終業時間になった。
荷物をまとめて立ち上がり、お先に失礼しますとみんなに声をかけてから会社を出る。スマホをチェックしたあと、思わずにんまりと口が緩んだ。
俺の家の近所のスーパーに寄って、しばらく見てみる。
お菓子買いたいな。ポテチとか。
てんてんっとちょっとスキップしながら歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
「へへ、お疲れ様です」
光島さんがカゴを持って立っている。その手にはスマホ。さっき「スーパー寄る」というメッセージをくれたのは光島さんだ。
「ん、お疲れ。…なんか食べたいもの、あるか?」
「ええっと…」
ふいっと目がつい肉に引き寄せられる。値引きシールの貼られたそれを手に取り、光島さんが目を細めた。
「…今日は焼肉にするか?金曜日だしな、飲もうぜ」
◇◇◇
「ただいまーっ」
「えと、お邪魔します」
「ぜんぜん邪魔じゃないです!いらっしゃい」
俺がドアを開けて先に入ってもらい、鍵をかける。
「…お前、ただいまって言う人なんだな」
光島さんが、コートを脱いでハンガーにかけながら言った。聞き返すと、いや…、と言われる。
「誰もいなくてもただいまって言うんだなと思って」
「へ?…あー、確かに」
実家では毎回言っていたし、もう習慣のようなものだ。それを伝えて、ちょこっと付け足す。
「あとはまあ、家とか物に『ただいま〜』みたいな?」
付け足したくせに何言ってんだ俺はと思ったけど、光島さんはバカにするみたいに笑わなかった。ただ、ふぅん、と小さく返して微笑んでくれる。
「いいな。そういう考え方、俺も好きだ」
どき、と胸が熱くなって、耳も赤くなったのがわかる。慌てて気づかれないように冷ましながら、俺は耳に手を当てた。
…やばい。俺、光島さんのこと、めちゃくちゃ好きだ…。
◇◇◇
「一週間おつかれさまでしたっ!」
かつん、と缶が当たって音が出た。そのままぐいっと流し込む。二口くらい飲んで、いただきますと手を合わせた。
「わ、おいしいですっ!」
噛んだところからじゅわっと肉汁が溢れて口の中を満たす。口を押さえて光島さんに言うと、照れたような笑顔を浮かべられた。
自分の家で、誰かの手作りご飯を食べる日が来るとは思わなかった。もぐもぐと口の中の幸せを食べながら、目の前の人を観察する。
「…なんだよ。俺の顔、なんか付いてるか」
「いいえ〜?ただ可愛いなって」
「はっ!?…お前、酔ってるだろ…」
まだビールを半分くらいしか飲んでない。ただもうなんかふわふわして、気分が良かった。光島さんの可愛い反応がもっと見たいと思ったら、口が動いてしまうくらいには。
「…俺は可愛くなんてない…」
耳まで真っ赤にして、むぅ、と光島さんが反撃してきた。
…そういうところも、ちょっと猫みたいなところも、いつも頑張ってるところも。全部、好き。
「可愛いですよ〜、すごく」
もう一度言うと、飯食えよという返事が返ってきた。水取ってくる、と言って立ち上がった光島さんは、曲げた人差し指を口に当てている。
それが恥ずかしい時の光島さんのクセだって気づいたのは、つい最近のこと。
「ほんと、かわい…」
短編のつもりで書いたんですけど、思ったより長くなりましたね。
ちなみに季節はきっと現実とリンクしてます。たぶん。
○ぷち設定○
年齢…由良(斑鳩)は24歳、光島さんは28歳
お酒…由良は弱くて光島さんは普通(ちょっと強め)
ちなみに由良は酔ったら本心が出やすくなる人です




