せふれ。
素肌が触れ合って、熱が溶け合っている。昨夜求め会ったような激しいものではない、柔らかな余韻。
俺が起きたのを感じたのか、光島さんがこちらを向いた。
「…光島さん、体調は」
「いい」
昨日、俺たちは一夜を共にした。つまり、性的に関係をもった。
望んだことだった。関係は進展した。なのに、やけに落ち着いている光島さんに、ざわりと胸が騒ぐ。
「じゃあ、これからもよろしくな。相性は良かった…よな」
ただ黙って頷く。なんとなく次はわかっていた。でも、聞きたくない。そんな気持ちが胸を掠める。
「じゃあ、これからはオトナのカンケイってやつで、よろしく頼む。…他の奴に言うなよ?」
「オトナのカンケイ」。所謂、セフレだ。パートナー兼セフレ。愛情を伴わない関係。
いいじゃないか、それで。光島さんのいろいろな表情が見れる。ただのパートナーより、他の人より、もっと。
「言いませんよ。…あ、そうだ。LINE交換してもらってもいいですか」
なんでもない。喜ばしいことだ。そうやって無理やり納得したふりをして、俺はなんでもないように連絡先の交換を提案した。
…結局、光島さんは俺に恋愛感情なんてないんだろうな。
わかってる。俺は欲求を満たし合うだけの都合のいい相手、たぶんそれだけ。
…光島さんには誰か好きな人でもいるのだろうか。
ふと、考えているような仕草を見せるときは、誰のことを考えているのだろう。その人が、好きな人?
だったらじゃあ、バレちゃダメだ。
光島さんが好き、なんて。
◇◇◇
「飯でも食っていくか?」
LINEを交換して、伸びをする俺に光島さんはそう声をかけた。
「食べたいですっ!」
光島さんの手作りご飯!
上手くねえぞ?と笑いながら、光島さんは心なしか楽しそうにキッチンに向かった。
とてて、と背中を追いかける。まじで大型犬じゃんと笑われた。
「俺の実家、でっかいゴールデンいるんですよ。デカくて、まじでかわいいです」
「マジ!?最高じゃん」
ふと話してみたら、光島さんの顔が綻ぶ。今度見に来ます?と言いかけて止めた。
重すぎるのは、ダメだ。
「犬、好きなんですか?」
「好き!というか動物は好きだ!」
キラキラした目で俺を見て力説し始める光島さん。これは意外な一面を発見した。かわいい。
「え、動画とか見てます?」
「まあ、アプリでたまに」
推しの(というか俺のインスタとかは動物系しかフォローしてないんだけどね)一覧をスマホで見せると、顔がぱああっと明るくなった。
「なんだこれっ、かわい…っ」
ほわぁ、と癒されている光島さんに俺はダブルで癒されてます。
「そういえば、LINEのアイコン変えたりしないんですか?」
「やり方がわからん」
なるほど。
これをこうして…。
俺のスマホで実演するついでに、自分のアイコンも母さんから送られてきたポチの写真にする。
「それがお前の家のゴールデンか?」
「はい、ポチです。ポチっていう感じの犬じゃないかもしれないんですけど」
「いや、むっちゃ可愛いな…!」
ちょっと反応が新鮮すぎて、しばらくポチの写真とか動画を見せては盛り上がっていた。
ああ、めちゃくちゃいいなって感じるような、久しぶりのあったかい朝だ。
◇◇◇
「…はっ、飯作るんだった」
ととと、と光島さんがキッチンに向かう。
「ん〜…。肉じゃがでいいか?余り物だけど」
「ありがとうございますっ!」
光島さんが用意してくれている間に、夜中乾かしていたスーツを着る。うん、いける。
「光島さんのお着替えってこれですか?」
「おう、ありがとう。…ってかお着替えって言うのか、丁寧だな」
「え、使いません?」
「いや、あんまり使わん。丁寧で優しい感じがするよな」
ふわ、と柔らかく光島さんが微笑む。褒められたのかな?嬉しい。
「いただきます!」
ワクワクしながら席に着き、手を合わせた。ほかほかと湯気を立てている。レトルトじゃない飯だっ!
「ん…。ど、どうぞ召し上がれ…?」
久々すぎる、とぎこちなく笑って光島さんも返す。
なんか同棲してるみた…っ、げほ。
「あふっ、ん!おいひぃでふ!」
味の染みたじゃがいもを食べると、ほろほろと口の中でほどけた。おいしい!
「…ふは。なんか、目の前でうまそうに食べられるのって嬉しいな」
くす、と光島さんがまた笑みをこぼす。
そっか。一緒に食べてるから、掛け算されておいしいんだ。
「…あの、さ。もし、お前が良ければ…。たまにお前ん家行ってもいいか?家賃がわりに飯、作る…」
なんて、何言ってんだろうな。途中で曖昧に濁して、光島さんがそっぽを向いた。
…ちょっと待って、俺ん家でご飯作ってくれるってこと?
「えっ、いいんですか!?」
「やっぱダメだよな…。っえ、いいのか!?」
「お願いしたいですっ!」
◇◇◇
こうして、少し距離の近い「セフレ」としての生活がスタートしたのだった。




