人生を卒業したら次は?
老衰で亡くなった老人の前に、手に大きな鎌を持った黒衣の男が立ちふさがった。
黒衣の男は老人に「卒業おめでとう」と声を掛け大きな鎌を振り下ろし何かを断ち切る。
「私は此れから天国に行くのですか? それとも地獄に?」
老人が黒衣の男に問う。
「否、今までの人生を卒業した貴方には次の生が与えられ、与えられた生の世界で生まれるのです
今まで貴方が生きていた世界では輪廻転生と言われていた筈ですが?」
「輪廻転生ですか?」
「ハイ」
「今までの記憶を持って?」
「それは無理です。
今私が鎌で断ち切ったのは、貴方の今までのしがらみや記憶ですから。
だからもう思い出せないでしょ? 今までの事を」
「言われてみれば思い出せない……。
次の世界で私は何に生まれ変わるのでしょうか?」
「安心してください。知的生物は知的生物にしか生まれ変われませんから。
それに覚えていないだけで、貴方はもう数千万回以上輪廻転生を繰り返しているのですよ」
「そうなんですか……」
老人は安心したのかホッとした表情になる。
「それでは次の世界に行きましょう」
黒衣の男に促されて老人だった魂は次に生を受ける世界に旅立った。
禍々しい森の奥に醜い小人の集落がある。
醜い小人は老人が卒業した前世ではゴブリンと言われていた生物。
集落の真ん中付近に立つ掘っ建て小屋の中には、多数の出産を控えたメスや出産中のメスがいた。
今もまた1匹のメスが10体程の仔を産んだ。
産まれた仔らは本能に従い、一緒に産まれた兄弟姉妹やちょっと前に他のメスが産んだゴブリンの仔たちと押し合いへし合いしながら、オスが小屋の中に放り込んでいった何かの肉に齧り付くのであった。