散々転生してもセカンドパートナーってなんですか?
たぶん、今度は大丈夫だと思う。
頭の上に耳はあるから、よく音は聞こえるし、かといって肉球はない。
ぶんぶんと尻尾も触れるから、逃げられそうになったら巻きつけばいいや。
おっぱいは、
おっぱいはぺったんこだ。
これくらいは、まあ仕方ない。
前回は完璧な猫だった。
そりゃあ、ご主人様だって気づいてくれやしな
い。
だって猫だ。
そりゃあさ、ペットは家族だ、とかいう時代になって来て、ご主人様の為〜と思って、想ってだよ、『想って』だよ、ネズミをとって届けたら、
ぎゃ〜って、箒を持ち出されるような頃とは、今は違うよ。
ペット様みたいな言われ方だってあると聞く。
しかも宿敵のライバルのお犬様を数では抜いたらしい。
でもさ〜。『家族』っておい。
あたしは、あんた。ご主人様と恋に堕ちるために、何度も何度も死線をくぐり抜けて来てるんだってば。
え、誰が化け猫って。言ったやつ出てこい。化けて出てやるぞ。ったく。
あ〜、『死線』てのがいけなかったんだね。
そうそう、輪廻ってやつです。ハイ。
大好きなご主人様は、いつも『誰よりも好きだよ』って頭を撫でてくれたり、ゴロゴロしてくれる。
夜はふかふかのおっぱいにはさむ様にして、一緒に寝てくれた。
なのに 、なのにだよ。
なのになんだよ。
僕が大人になったらと思ってたら、お嫁さんにいっちゃうなんて。
『行かないで』ってしがみついたらさ
優しい顔して言ったんだよ。
『大丈夫。置いて行かないよ』って
『いつも一緒だよ』って
それなのにさ、誰かと結婚しちゃうのかよって言ったらさ
『大丈夫わたしはマリのものだよって』
『それからねぇ、マリもね、わたしのものだよ』って、抱きしめてくれた。
僕はさ、すごく嬉しかったんだよ。
でも、結婚しちゃった。
それでもずっと一緒にいたよ。死ぬまでさ。
最期もさ、泣いてくれてた。
『ごめんね』じゃなくて『ありがとう』だよ。
ありがとうって、こっちがだよって思った。
けどさ、ご主人様は知らないからさ。
最期に『ありがとう』って言ってもらえたらさ
ちゃんと次の輪廻に乗れる
また、巡り会えるんだよ。
次こそは、ご主人様の1番になってやるんだ、って思ってるんだけどね。
そう思ってたら、次はチーターだったんだよ。
生まれてしばらくは、何やらよくわからなかった。気づいたら何やら暗い場所でさ。
ゴトゴト、グラグラ。たまにギュイ〜って体がひっくり返って気分が悪くなった。
僕はさ、きっと神様に選ばれてると思うんだよね。
だから、きっとこうやって、輪廻だとか前世だとかを理解できていて、自分のことも理解できる。
うん。
だからさ、雰囲気は少し変わっていたけど、すぐにご主人様だって気づいた。
気持ち悪くて、暗い場所から随分とたったと思うんだけど、ギーって音がして、眩しい場所に出た。眩しいからか、長い間丸まってじっとしていたせいか、よくわからないけれど、立ち上がろうとしたら、ふらふらして上手くいかない。
なんでだろう、って思ってたら不意に抱きかかえられた。
気持ちいいなぁってすりすりしてみたら、懐かしいおっぱい。
あっ、ご主人様だ、って思ったら『まりちゃんいらっしゃい』って声をかけてくれたんだ。
ご主人様もわかってくれてるって嬉しくなった。
でも、その前の時と違って、ご主人様は滅多に会いに来てくれなくてさ。
たまに会ってもすぐに出ていっちゃう。
寝るのはいつもひとり。
それでも毎朝、顔を見せてくれては『あなたが1番』って言ってくれるから、それでしあわせ
ただ、きっとひとりで寝てたのと、布団もなかったせいかな。ずいぶんと寒くて、風邪をひいたかなと思ったら、あっという間だった。
最期にね、ご主人様が来てくれた時、隣にずっとご主人様の肩を抱いてる人がいた。
何で?って思ったけど、今回も『ありがとう』って言ってくれた。また2番かぁ、今回は時間がなかったから、しゃあないわぁとか思ってさ。
目を閉じて
今、目を覚ましたところ。
今度は、ここはどこなんだろう。
いつもより目線が高いし、二本足で立っている。
さっきも確認したけど肉球がない。
ご主人様のお気に入りだったのにな。
『にゃんだこりは』
おっと、ニャー以外の声を初めて耳にするにゃん。
『にゃん?』
『にゃんだそりは』
『上手くしゃべれないにゃん』
『にゃんじゃにゃいにゃん』
『だめにゃん』
目の前がキラリと眩しい
それでも今までみたいに目を縦一杯まで細めなくても見ることができるにゃん。
にゃ〜ん、頭の中までにゃんににゃるにゃん
『にゃにゃ、こいつ誰にゃん』
目の前には大きな姿見があってキラキラ光っている。
そこには、ご主人様によく似ているものの、ご主人様の頭にはない耳と、腰に巻き付いた尻尾と、ご主人様にあるおっぱいと違って平べったいおっぱいがちょこんとある生き物がいた。
『にゃ〜』ち後ろに飛び退くと、向こうでも後ろに飛び退いて両手をあげている。
『威嚇にゃん。やつめ、あたいを威嚇しているつもりにゃん。にゃにを〜、あたいだって負けニャイにゃん』と両手をあげようとしたら
どうやらすでにあがっている。
『にゃっにゃっにゃ、さすが、あたいにゃん。咄嗟に威嚇体制に入っていたにゃん』
この時、驚きのあまりビックリして両手をあげてしまっただけということに、この猫もどきは、まだ気づいていない。
『にゃ?誰にゃ、誰が解説みたいにゃ事を?』
慌てて首を振る。
そうすると向こうでも首を振っている。
『にゃ?』
『右手あげて』右手を上げると、向こうでは左手をあげている。
『違うにゃん。あんたが上げてるの左手にゃん』
『左手上げて』
『そうにゃん。やればできる子にゃん』
向こうでも両手をあげている。
『ジャンプぅ』
『にゃっにゃにゃ〜』
大喜びである。
そのまま、くるくる回ってみたら、向こうでもくるくる回っているのが見えたので
『負けにゃれにゃいにゃん』と勢いをまし過ぎて
止まれなくなり、
『にゃ〜』という叫び声と共に、ベッドの角で頭をぶつけた。
『にゃ〜いたいにゃ〜』と叫んでいたが、向こうからは声が聞こえない。
顔をあげると、そこには誰もいなかった。
『にゃんだったのにゃ』
目の前には倒れた鏡があった。
足元の鏡を覗き込んで再び後ろに飛び退く。
『にゃ?』
『これはにゃんだ?』
恐る恐る近づいてみると、どうやら自分を再現するものらしいことがわかった。
『にゃるほどにゃん』
前に猫だった時は目が縦一直線になっていて
ご主人様があれを見て何かしていたけれど、何をしているのか、よく見えていなかった。
『これがあたいにゃのか』
『初めて自分を見たにゃん』
『ご主人様とそっくりにゃん』
そう言いながら鏡を見たら階下から
『誰〜、今度は誰がこっちに来たの〜?』
と、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
ぴーん、と尻尾が立つ
『ご主人様にゃん。間違いにゃいにゃん』
『ご主人様〜』と叫んで
慌てて階段から飛び降りる。
『にゃァァァ〜』
当然である。
マリは、今回はチーターでも猫でもない。
ただの猫もどき、である。
当然、二階から飛び降りてくるくるピタっと着地
なんて芸当ができるわけがない。
代わりに
そのまま、がっしりとした上半身が裸体姿の男の胸に、そのままの体制で飛び込む事になった。
『あはははは、タキ、君が彼女のご主人様だったのかい』
『いやぁ、俺も今初めて知ったよ。お前、名前は』
『にゃにゃ、にゃんだよ、離せよ』
慌てて、男の胸から逃れようとするが、がっしりと抱きしめられている。
『にゃにお、とかじゃないだろ。自分でご主人様〜と言って飛び込んで来ておきながら。』
『まり、だよ』
『まりだよね』
『リサ、知っているのか?』
『知ってるよ。まり。ずっとわたしの大切なパートナー』
『そうか、まりっていうのか。よろしくな。今日からお前は俺の1番だ。』
『にゃ、にゃ、にゃんだって〜、ご主人様〜』
『おいおい、どっちに向かって言ってるんだい。この世界では最初に出会ったものがあるじ(主人)になる。そうだろサキ?』
『そうだねぇ。そういうルールだ。間違いない。』
『でもまぁ、あれだ。俺はダンジョンの攻略で忙しい。明日からまた潜る。一度戻れば、そうだなぁ、しばらくは戻れん。サキのとこの旦那も同じだ。』
『にゃ?だんにゃ?』
『そうだ』とご主人様の後で腕を組んだエルフが、その腕をほどいてご主人様の肩に乗せる。
『にゃ〜』
もはや猫の鳴き声と区別のつかない泣き声をあげる。
『そういうわけで、俺たちがダンジョンに出かけている間は、留守を頼んだ。サキとパートナーになってくれ』
『にゃ?』
『そうだな、サキとマリは、セカンドパートナーという事になるな。契約しておこう』
そう言うと、サキがマリの前に近づいて来た。
『おいでマリ』
サキがぎゅっとマリを抱きしめる。
大きなおっぱいと小さなおっぱいが触れ合う
『これからもよろしくね』
そう言ってマリをしっかり見つめたまま、小首を少し傾げて優しく口づけられる
『にゃ〜、とろけるにゃ〜』
『ずっと一緒よ』
『これからもよろしくね』
そうして、
マリは、今日もご主人様の胸元で眠りにつき
朝を迎える
いつになったら
1番になれるのか。
もはや
セカンドというポジションを神様に定められた、
これも運命なのか
『うん?ご主人様、ダンジョンてにゃんにゃ?』
『マリ、あなたのご主人は、タキよ。間違えちゃだめよ。ここではね。また先を目指しなさい。』
『また、サキにゃ?』
『そう、また先』
『あなたは先を求めるひと。』
『ずっとわたしを追いかけてね』
『いつでも待ってる。きっとよ』
『あら、もう寝たの?おやすみなさい。良い夢を。また新しいサキで会いましょう。ありがとう』