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真木さんって、本当に綺麗ですね。一目見て驚いちゃいました。このピアス、素敵です。私の耳元で、彼女がそう言った。昨日はコンタクトを落としちゃって・・・・ その後踏みつけちゃったんだけど・・・・ こんなに綺麗で優しい人が後ろの席にいるなんて、ついつい驚いちゃったんです。・・・・ ごめんなさい。私メガネがないとほとんど見えないんですよ。まるで霧の中を歩いているみたいな感じなんです。けれどもう大丈夫です。これからはなにがあってもこのメガネを外しませんから! 彼女はなぜか少しだけ声を張り、片手でメガネを軽く持ち上げ、その奥の瞳を輝かせていた。そんな彼女の姿を見て、私は素直な言葉を零した。有希ちゃんって可愛いのね。すると彼女はまた大声を出して狼狽え、数十センチは背後に仰け反った。ななな、なにを言うのですか? 顔を真っ赤にした上に震えた声でそう言った。やっぱり可愛いなと思い、意地悪な気持ちも含めて、昨日の素顔も可愛かったわよ。そう言った。彼女の思考が固まり、頭の天辺からは湯気がモクモクと湧き出ていた。
彼女が思考停止している間に、散らばっている全てを片付け終えた私は、彼女の手を引っ張り起き上がらせ、自分の席に着いた。彼女は私が掴んだ手をじっと眺め、少しの間を置いて席に着いた。そして首を捻って顔だけを私に向ける。
本当にありがとうございます。真木さんならきっと、楽しめると思います。よかったらこれ、あげます。そう言って彼女から手渡されたのは、私が見たこともない形をしているキーホルダーだった。よく分からない文字の彫刻が施されていて、その裏には彼女が張ったと思われるけれど、これまた私が見たこともないキャラクターのシールが付いていた。汚れないようにコーティングされている。裏と表を交互に何度も見つめていた私に、彼女はこう言った。私も同じのを部屋の鍵につけてるんだ。そう言いながら笑顔を見せる彼女に対して、やっぱり可愛いわよねとの言葉を飲み込み、私も笑顔を作ってありがとうと言った。