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教室の中での私は決して自分の本性を表さない。もしもオタク女子だってバレたなら、居場所がなくなってしまうから。現に私のクラスの子が一人、そうなりかけたことがある。その子は黒髪のおかっぱ頭で眼鏡をかけていて、見た目も私がイメージする典型的なオタクっ子で、カバンには深夜アニメのキャラクターキーホルダーがいくつかぶら下がっていて、文房具類も全てをキャラクターもので揃えている。Tシャツや靴下にも必ずなにかのキャラクターが描かれている。下着もそうだという噂があるけれど、確かめたことはない。
前田有希。それが彼女の名前だ。彼女を可愛いと思っていたのはきっと、私だけだったと思う。分厚いメガネの奥にある瞳は、思いのほか大きく輝いていた。
入学式の日の彼女は、メガネをかけていなかった。女の私から見ても可愛いと感じた。カバンにはまだ、キーホルダーもぶら下がってはいなかった。
校門の前で、大きく深呼吸をしている姿を見かけた。そんな後ろ姿がすでに可愛らしかった。私よりも頭一つ分背が低いのに、両手を開いて深呼吸する姿はとても大きく感じられた。タイミングよく朝日に照らされていた彼女は、まるで地上に舞い降りた天使のようでもあった。私はその横を通り過ぎる際、彼女に挨拶をした。おはよう! それだけしか言えなかった。天使のような彼女の顔を確かめたかったのと、挨拶をせずにはいられない衝動に駆られたはずだったのに、そのあまりにも可愛らしい顔と、私の挨拶に戸惑っている表情に一瞬で嫉妬してしまった。私は必死に笑顔を作って小さなお辞儀をした。そして彼女の反応を確認せずに前を向いて歩いていく。