第四話 襲撃(2)
毎週、月、水、金曜日の0時更新予定です。
「いいか、短剣使いだけ最初に殺せ。女は殺すな。」
「どっちが女だ?」
「背が低い方だ。まずは捕まえてたっぷり楽しませてもらおうぜ。殺すのはその後だ。」
「へへっ、女はよぅ、どうぞ殺してくださいって懇願するくらいめちゃめちゃにしてから殺そうぜ。」
勝手に私の処遇を話し合ってる様だけど・・・ほんと最低・・・
それにしても、どうしてこんなに自信満々なんだろう。きっと、これまで確実に勝ってきた手を持っているに違いない。そして多分、その種は後ろの魔術師。
貧民街に住むようになって、人の気配、魔物や獣の動き、そして魔力の流れ、そういったものを敏感に感じ取れるようになった。
気術使いの中には気配察知に長けた人がいて、その能力は気力制御の訓練で得られると、以前、父さんに教えてもらった。私のこの能力も、きっと谷での訓練で得られたものなのだろう。
今しがたも後衛の魔術師の周りで魔力の動きを感じたけれど、ひそかに魔力を練ってローブの中で魔法陣を構築していたようだ。この魔術師は、確実にこちらの動きを止める魔法を何か習得しているんだろう。
エルと短く打ち合わせると、私は鞘を被せたままの剣を手に、彼らに向かって駆け出した。それを見て、角灯に照らされた禿げ頭の顔に喜色が広がった。私が出てきたのは思惑通りだったのだろう。
間合いに入ったら魔法を発動して私を絡めとる。禿げ頭の表情が叫ぶ。
”よしっ、いまだ!”
・・・が、魔法は発動しない。私との距離が縮まり、顔が悲鳴を上げる。
”おい、魔法はどうした!?”
そして禿げ頭の表情が、焦りから恐怖に変わった瞬間に私の剣が届いた。
鞘を被った剣が青い光を纏い、魔法陣と共に腹にめり込んであばら骨を粉砕した。そしてそのままくるりと体だけ反転させると、取り残された剣を思い切り振り抜き、隣の剣士の脇腹も砕いた。
所要時間は五秒。前衛は一瞬で崩壊した。
私が走り出した後、エルは縮地の魔法を使った。それは空間移動の魔法の劣化版で、移動出来る距離が短く、さらに移動先が視認できなければならない。
縮地の移動先は魔術師の目の前、彼が掲げる角灯が照らす地面。闇に浮かんで良く見える。
ローブの中の魔術師の右手には予想通り魔法陣が構築されていた。走りくる私の動きを止めようと魔法陣が張り付いた手を差し出した時、緑に光る風が立った。すると彼の目の前に黒い塊がいて、その緑の瞳と目が合った瞬間、短剣の柄で喉を粉砕された。声を発する暇すら与えられなかった。こうして、私が魔法の間合いに入る直前に魔術師は倒されていた。
残りは黒マントの小男。ダガーを手にしてエルと睨み合っている。突然後ろに現れたエルに驚いただろうに、戦闘態勢が取れているだけ他よりまし。
でも二対一の劣勢に変わったのを見るや、戦意を失くして逃げ出した。
ヒュッ!
エルが手刀を振ると、手先から小さな緑の魔法陣が飛び出した。それが黒マントの男の後頭部に当たると、グエッと短い悲鳴を上げて倒れ込んだ。
エルはローブの内側に持っていた小さな鉄の礫に、気力を乗せて投げつけたのだ。エルの得意技。でも本気で投げていたら、きっと頭を貫通していただろう。
こうして冒険者パーティーは全滅した。今は全員気を失っているけれど、日が高くなる頃には意識が戻るだろう。そのまま衛士の所に駆け込むかもしれない。
でも街を守る事が任務である衛士はここで起こることに関心を持たない。何故なら、貧民街はローグタウンの一部とは見做されていないから。だから禿げ頭たちが被害を訴えても、あんな所に行くお前らが悪いという事で片付けられる。但し死人が出たら話は別。その場合、憲兵が出てくる。
結局、ここでは殺しさえしなければやりたい放題という訳だ。
「だから言ったでしょ。私たちのテリトリーじゃ勝てないって。だってここなら、あんたたちが死なない程度まで本気を出せるんだから。」
地面に這いつくばり気を失っている禿げ頭たちに、私は親切に教えてあげた。