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鉄屑拾いの剣姫  作者: エビマヨ
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二十九話 混成群

これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗


これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。

「前方に敵の気配がします!」


私は団長に向って叫んだ。でも彼は馬車の天井を見て怪訝な顔をしている。


「この上にレンジャーが乗っている。敵の気配があれば警笛を鳴らす手筈になっている。」


「でもこの先に確かに気配がします。もう距離は五百mメナリほどになりました。魔物の群れがこちらに敵意を向けています。」


その気配を確かめながら言うと


「魔物か。」


団長はそう言って少し緊張を解いた。


「魔物なら問題ない。だからレンジャーも警笛を吹かんのだろう。」


彼らが警戒しているのは魔物でないのは知っている。でも前方の魔物は、私たちに明確な敵意を向けている。まるで私たちがここを通る事を知っていたかのように。


敵の数も視えてきた。ゴブリンが三十匹、その距離は三百mを切った。それに、さらに後方に大きな人型の魔物の気配・・・オーガが数匹いる。亜人種の中でも大型で、膂力がとても強い上に、全身を硬い筋肉で鎧っていて刃を通さない。強敵だ。


ピィーーー!


すると屋根の上から警笛の音が響いた。前後で一斉に馬が嘶く声が聞こえ、同時に馬車も急停止した。


団長は立ち上がって天井板に顔を近づけた。


「敵か?」


「二百m先にゴブリンの群れがいますね。街道の左右を取り囲んでます。数は二十・・・いや三十だな。」


その上からくぐもった声がした。


「ゴブリンだけか?。」


「そうです。」


それを聞いて驚いた。ゴブリン単種の群れじゃない。


「その奥にオーガがいます。ゴブリンたちと距離が離れてますが、私たちに敵意を持ってこちらに移動して来ています。」


団長は天井板を見て、それから縋るような私の顔を見下ろして


「お前も一緒に来い。」


そう言って馬車の外に出た。


外には夕の薄闇が広がりつつあった。この辺りの街道は道幅が広くなっていて馬車が楽にすれ違えるほどの幅があり、更に道の両側の木は伐採されていて、それほど広くは無いけれど草地になっていた。屋根から革鎧を着た中年の男が、そして御者台からは紫のローブを着た初老の男が降りてきた。ローブの男は屋敷にいた結界師で、そのままこの馬車に乗ったようだ。


「敵はゴブリン単種の群れで間違いないのだな?」


すると革鎧の男が頷いた。この人がレンジャーのようだ。


「もう一度確認する。ゴブリン三十体のみでオーガはおらんのだな?」


「オーガ?そんなものいませんね。もしいたら混成群ですからオーガロードかオーガキングの統率者が居るはずです。でもこんな街道沿いにそんな群れが出た試しはありませんよ。」


前後の隊列からそれぞれ隊長が来ていて、馬車の隣に立って指示を待っている。団長は少し考えてから彼らに向き直った。


「前方部隊は一旦馬を後ろに下げろ。後方三名が馬を守れ。十名が馬車の警護、残りと前方部隊は前へ出て敵を排除しろ。」


「ゴブリン三十に兵士三十で当たるのですか?」


隊長の一人が不思議そうに確認する。確かにゴブリン三十匹なら重装歩兵が十名で足りるだろう。


「ゴブリンのみの群れではない可能性がある。慎重を期して討伐に当たれ。」


団長は私をチラリと見てから指示を出した。革鎧のレンジャーはそれを不満そうな顔で見ていた。


団長の指示を受け、前後の部隊は慌ただしく動き出した。


馬車の中には結界師が乗り込み、何かあった時には馬車ごと結界で守ることになっている。


「オーガロードかオーガキングは見えるか?」


出撃準備をする兵たちの背中を見ながら団長が聞いてきた。私は意識を集中して、街道の先の気配を可能な限り遠くまで探索したけれど、ボスらしい気配は視えなかった。


西の空低くを揺蕩う雲が最後の陽の光で真っ赤に燃えている。兵士たちは手に槍を持ち、背に大盾を背負い、前方部隊の隊長に率いられて隊列を組み、その茜の雲の方へと進んで行った。でも私とエルは馬車の護衛のために団長と共に残された。


兵士たちの前方では、ゴブリンたちが街道に出て来ていて、明確に通せんぼをして行く手を塞いでいた。


その皮膚は腐ったような緑色で、突き出た鼻に尖った耳、その耳元まで裂けた口からは、血のように真っ赤な舌がはみ出ている。瞳は白濁していて、人の死体が腐り乱れる直前のそれと同じ色。そのおぞましい目を見開いて兵士たちの動きを伺っている。


ゴブリンの群れまで五十mの距離まで来ると、最前列の兵士たちが大盾を構えて壁を作り、その後ろに残りが槍を持って隊列を組んだ。


知能の低いゴブリンは連携を上手く取れないから、そこで待ち構えていればただ闇雲に攻撃を仕掛けて来るはず。それを盾で受け止めながら撃破すれば良い。


私は意識を集中し、範囲を広げて気配を探った。すると兵士たちの左側の森で、知覚できるギリギリを気配が掠めた。更に意識を集中すると、何かが一匹、探索範囲の中に入ってきた。狼?でも魔力持ちだから魔物だ。すると別のもう一匹が現れた。


この間のフォレストウルフじゃない。獣の狼と同じくらいの大きさの魔狼、ワーウルフだ。


魔狼族としては最下位の部類で、単体ではそれほど強くないけれど、数が多く足が早い。


顎の力が強靭で噛みついたら離れない。全身を鎧っていてもその上から腕や足に噛みつかれ、動きを封じられて嬲るようにして殺される。私も、数に押されて何度も殺されかけた。


次々とその気配は増え、今度は右側の森でも同じ気配が見え始めた。


「罠です。横を突かれる!」


団長に叫ぶと、その隣のレンジャーが眠たそうな目を向けた。


「うーん、そんな気配はないねぇ。」


でも睨むような団長の目をチラリと見返して焦った顔をした。


「お嬢ちゃん、そんな大人を騙すようなこと言っちゃダメだよ。レンジャーでもないのに。あれかな?お嬢ちゃんは大人の関心を・・・」


「援護に出ます!」


彼の言葉が終わる前に、私は兵士たちに向って走り出した。その後をエルも続く。


兵士たちの盾は街道の先に向けられていて側面は無防備だ。ここを突かれたらこの陣形は崩壊する。


その時、街道のゴブリンが兵士たちに向かって走り出した。それと同時に、左右で遠巻きにしていたワーウルフも一斉に走り出す。足が速い。


「側面から来る!側面に備えろ!!」


私は走りながら大声で叫んだ。兵士が何人か私の声に気づいて後ろを振り向く。


「側面から来る!!」


更に叫び続ける私の声を聞いて、数人の兵士が左右に槍を向けた。でも意識は相変わらず前から迫る敵に向いていて、左右への警戒はおざなりだ。ワーウルフたちは足音を消しているから兵士たちはその接近に気付いていない。


既に前面でゴブリンとの緒戦が始まった。そこへ魔狼の第一波が近づく。


ついに先頭の一匹が、盾の後ろの兵士を目掛けて左の森から飛び出した。鋭い牙が覗く大きな口を開け、目の前の兵士の腕に噛みつこうとした。


でもその攻撃が届く寸前、私のレイピアがその頭を突いた。敵は脳を一突きで壊され、そのままの勢いで兵士にぶつかって果てた。


初撃には間に合った。でも新手が次々に飛び出してくる。


左に飛び出して来た敵の首を側面から貫き、それを引き抜きざま、右に出て来た一匹の首を裂くと、目の前に飛びかかって来た別の一匹の眉間を突いた。


その瞬間、ワーウルフの目から光が失われたけれど、その躯は飛び出した勢いのまま私にぶつかってきた。体を捻り辛うじて避けたけれど、傾いた体勢の私に、真横から別の一匹が飛びかかってきた。


避けられない。


その時、横から槍が突き出されその穂先が魔狼の体を突き刺した。兵士が槍で倒してくれたのだ。それから槍が次々と突き出されて後続のワーウルフたちの体を貫く。


私が作った数秒で、精鋭の兵士たちは迎撃の体制を整えた。直後、私はローブの首を掴まれて槍襖の中に引っ張り込まれた。


「大盾で方円を組め!」


隊長が号令すると、側面で槍を振るう兵士たちの後ろから、別の兵が次々前へ出てその場に背中の大盾を据える。そして私たちを丸く取り囲む盾の壁が出来上がった。


「お前も中に入れ!」


兵士の一人が叫んでその盾を引くと、そこに出来た壁の隙間からエルが転がり込んできた。彼も右の森からの襲撃を抑えてくれたようだ。


「大盾の壁を堅持しろ。壁を越えようとする奴らに槍をお見舞いしろ!」


盾の壁を乗り越えようと飛び掛かってくるワーウルフは槍で突かれて倒されて、街道側から迫るゴブリンも次々に槍の餌食になってゆく。私も盾の上に顔を覗かせるワーウルフやゴブリンの急所をレイピアで次々と刺し貫いた。


「馬車は結界で無事だ!今はここを乗り越えろ!」


隊長が言うのを聞いて後ろを見ると、馬を外された馬車の周りに半球状の防御壁が出来ていた。結界師が張ったもののようだ。ワーウルフたちはその中に入れず周りに群がっている。


方円陣の外にはゴブリンとワーウルフの屍が積み上がって行く。でも兵士たちにも疲れが見え始めた。その時、今度はゴブリンの後ろから大きな体の魔物が近づいてくるのが見えた。オーガだ。


大男の兵士でも見上げるほどの巨体。それが灰緑色の硬い皮膚と、その下の隆々とした筋肉に覆われている。そしてその太い腕には木の幹のような棍棒が握られていた。


盾壁の前にオーガが立つと一斉に槍が出てその肉を抉るけれど、疲れのために精彩を欠き倒しきれない。オーガは棍棒を振り上げ盾壁に向かって振り下ろした。


両腕で大盾を掲げてそれを受けた兵士は、短い悲鳴をあげて押しつぶされ、ひしゃげた盾の裏から鮮血が飛び散った。


オーガはそうしてできた隙間から壁の中に入ろうとするけれど、それを許したら陣が中から崩される。押し止めようと槍が出されるけれど、致命傷には至らず倒せない。


そこへ叩きつぶされた兵士の死体を踏み越えて、別の兵士が盾を構えて果敢に体当たりした。それでオーガは盾壁の外に押し出されたけれど、棍棒を片手で振り上げて新手の兵士の上に振り下ろそうとした。


その時、屈んで盾を構えるその兵士の肩をエルが蹴り、膝を抱いてオーガの首の真横に飛び上がると緑に光る短剣を横薙いだ。すると真っ黒な血が首筋から噴き出して、オーガの巨体が後ろに倒れ込んだ。


そのままエルは壁の外に出た。でも後退りして盾の壁を背にしたその前面をゴブリンたちが取り囲む。これではエルを壁の中に入れたらゴブリンたちまで引き入れてしまう。


彼らが一斉に襲い掛かろうとしたとき、私は同じ兵士の肩を蹴り、体を落とし剣を構えるエルの頭上に飛びあがって、そこから水の斬撃を飛ばした。レイピアから半円状に飛ばされた青い斬撃は、ゴブリンたちの骨を砕いてなぎ倒した。


そのまま盾壁の外に並んだ私たちの前に、新手のオーガが二匹並んで現れた。


「戻れ!」


後ろで声がしたけれど、あれが来たらまた盾を構える兵士が殺されてしまう。


ゴブリン数匹を突き殺し、私は左のオーガの正面に飛び出した。


そこで低い姿勢を取ると、その体を吹き飛ばそうとオーガは腰を落として棍棒を横薙ぐ。でもそれを飛びあがって避けると数匹のゴブリンが私の代わりに吹き飛ばされた。


その瞬間、身を低くしたオーガの眉間が飛び上がった私の目の前にあった。すかさず、私は青い魔法陣を纏ったレイピアでそれを刺し貫いた。オーガは白目をむいて尻餅をつくと、鼻孔から黒い血を滴らせながら後ろにバッタリと倒れた。


隣を見ると、もう一匹のオーガの首が緑の斬撃で飛ばされるところだった。


オーガが次々斃されるのを見てようやくゴブリンの足が止まった。横から来る魔狼の勢いも下火だ。


「馬車まで後退!!」


隊長の号令一下、盾で壁を維持しつつ速足の速度で馬車を目指し移動を始めた。私たちも盾の壁の中に入れてもらい、兵士たちと一緒に後退した。でもその後には、数名の兵士の物言わぬ死体が取り残された。

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