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鉄屑拾いの剣姫  作者: エビマヨ
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二十八話 ハイエンドへ

これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗


これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。

 次の日の朝、いつものようにラシーさんの前の行列が居なくなるのを待っていると、今日はラシーさんが何度も入り口脇に座る私たちに視線を送って来た。指名依頼が来たのかな、と思ったらその通りだった。


 ラシーさんの前の最後の冒険者が居なくなってから、その前に立つと彼女は興奮しながら教えてくれた。


「ローゼンハイム様から新しい指名依頼が来ましたよ!」



***



 夜が明けて間もないというのに、ローゼンハイムのお屋敷では護衛兵団の兵士たちが慌ただしく出立の準備を進めていた。


 屋敷の前では、敷地の前の広い道をびっしりと埋めるように、百名を超える兵士たちが隊列を組んでいた。今回は大規模な移動になるとは聞いていたけれど、想像以上の兵士の数に驚いてしまった。



 この日、マリエラ様は護衛兵団に守られながら西隣のハイエンドという街へ赴く。ただ隣とはいっても、その間には私たちが西の森と呼ぶ広大な森林が広がっている。その森を抜ける道程の護衛が今回の任務だ。


「ハイエンドと言えば、ちょうど今、女神ジュノの生誕祭が行われていますね。」


依頼書を読みながら内容を確認していたラシーさんが教えてくれた。


「ローゼンハイムの御令嬢様もお祭りを観に行かれるんでしょうか?」


ジュノは豊穣の女神で、この大地が形を成した神代の時代の始めに、最初の花が成した種が地に蒔かれた時に生まれたとされる。それを祝って国内の各地で数日に渡ってお祭りが行われているのだけれど、中でもハイエンドの生誕祭が最も規模の大きなものの一つなのだそうだ。


「子供の頃行ったことがありますけど、楽しかったですよ。女神や神々に扮した人たちのパレードがあったり、神話を題材にした劇が上演されたり、街中に出店や屋台が出て、夜には花火が打ち上げられました。」


なんだか楽しそうだ。その街までの護衛ということだから、仕事が終わったらお祭りを見に行けるんだろうか?


「国中からお祭りを見に来るので、街中が人で溢れてとっても賑やかでした。」


でもそれを聞いて気持ちが急に萎んでしまった。人混みは大嫌いだ。


「毎年王族も行幸されてますし、国内の有力貴族の方々も参加されていて、城主様達も参加されるはずです。」


すると城代の男の顔が思い浮かんで、見に行きたい気持ちが一気に失せてしまった。



 ローゼンハイム屋敷の通用門の前で、相変わらずの重武装をした門衛に訪いを告げて案内を待っていると、敷地内から次々と馬が曳き立てられて隣の正門を通ってゆく。そしてそのまま路上で待機する兵士たちに引き渡されていった。


兵士たちはプレートの鎧を着こみ、手に槍を持ち背に大きな盾を背負っていた。でも彼らが手綱を受け取る葦毛や栗毛の馬たちは、鞍以外の余計な装備は一切付けられていない。


その落差を不思議そうに眺めていると


「馬の装備が貧相だろ?」


後ろに立っていた若い門衛が話しかけて来た。


「でもな、今回のご旅行は速さが勝負だ。だから馬は軽くしてるんだ。途中で何度も馬を換えるしな。それに事が起こったら、兵士は馬を捨てて歩兵としてお嬢様の馬車を守る。だから今回は、馬に鎧なんかいらないのさ。」


なるほど、彼らは騎兵じゃなく、馬で運ばれる重装歩兵という事か。でも兵士たちの装備の物々しさは、裸同然の馬の前で一層引き立てられていて、それは彼らが、何か具体的な脅威を想定していることを感じさせた。


案内の兵士に連れられて敷地に入ると、玄関ポーチの前に黒塗りの馬車が三台、横列で止まっている。四頭立の堅牢な造りで、快適性より速度に重きを置いた高速馬車だ。


その周りを、敷地内だというのに何人もの兵士たちが警備していて、彼らに取り囲まれる中、侍女や女中たちが出立の準備のために慌ただしくステップを昇ったり降りたりしている。


私たちはそこから少し離れた、屋敷正面の生垣の脇まで連れて行かれ、出立までそこで待つように言われた。


四半刻ほど、そこに立って馬車の準備を見守っていると、両手で木箱を抱えたセバスさんが玄関から出て来た。


「今回もお嬢様の事をよろしくお願いします。」


セバスさんは私たちの所へ来て目礼し、それに私たちも目礼で返した。


「今回の護衛の陣容はとても厳重ですね。マリエラ様が隣の街まで行かれると聞いていますが、一体何をしに行かれるんですか?」


門の外の兵士たちをチラリと見やってから尋ねてみたけれど、予想通り困ったような笑顔を返された。


「家業に関わる重要なご用事です。」


手に持った木箱を足元に置くと、ただそれだけを答えてくれた。


「それにしても、兵士の数が多いですが・・・」


また困った笑顔を返されるだけなんだろうなと思いながら


「今回のご旅行で、何か危険が予想されているんでしょうか?」


そう尋ねると


「はい。今回は襲撃を受ける可能性が非常に高いと思っています。」


意外にもあっさりと教えてくれた。


「今回のハイエンドの訪問はとても重要です。ですからそれを邪魔しようとする者が、高い見込みで動くと思っています。西の森を抜けるのに、高速馬車で街道を走っても丸一日かかりますが、その道程のどこかで襲撃があると考えています。」


でもこんな厳重な警備にも関わらず襲撃を企てる賊とは一体何者だろう。


「それを仕掛けてくるのは、以前私たちが戦った敵ですか?緋色のマントを着た襲撃者の仲間?」


セバスさんは少し考えていたけれど


「そうです。」


短く答えた。


「先日マリエラ様を誘拐した者たちの仲間で間違いないでしょう。」


そうであるならば、敵はかなりの手練れだ。そんな賊が妨害を試みるとは、マリエラ様の”家業の用事”とは一体何なのだろう?


次々湧く疑問に思いを巡らしていると、その私の目をじっと見据えて、セバスさんが殊更真剣な表情になって静かに尋ねた。


「お嬢様からもう一度確認を取るよう言われています。今申した通り、今回は危険な目に遭う公算が極めて高いです。それでも、本当にこの護衛の依頼をお受けになりますか?」


その口調は、ここで断る余地がある事を匂わせている。いや、その目は寧ろ、断る事を勧めているように見えた。


“マリエラ様が言ったんだろうか?今回は依頼を辞退させろって”


私の答えを待つセバスさんの瞳を見ていたら、そんな風に思えた。


彼女は今、自ら危険に飛び込まざるを得ない状況にあって、そしてそれを受け入れて立ち向かおうとしている。でも本来無関係な私たちに、その危険に付き合わせまいと思っているのではないか?


そう思ったら、逆に覚悟が決まった。


そもそも、マリエラ様とエルが取り決めをした時点で、私はあの敵と対峙する事を半ば覚悟していたし、それに指名依頼を受ける事を条件に今の身分があるのだから、元より依頼を断る余地は無いし、断るつもりも無い。


そしてマリエラ様の覚悟の裏に、私の知らない何物かを一人で抱える深い孤独が垣間見えた気がした。ならば、同じく孤独を知る私たちが寄り添い守ってあげよう。


”危なくなったら逃げればいい”


マリエラ様と交渉した夜、エルがそう言っていたのを思い出したけれど、それは本当に最後の手段だ。依頼を受けた責任を全うして、全力でマリエラ様を護ろうと心に決めて、私はセバスさんに頷いた。エルも同じく、セバスさんの目を見ながら頷いていた。


それを見て、セバスさんは優しく微笑んだ。その表情には安堵と、感謝と、そして私たちを案ずる気持ちがないまぜになっていて、ともすると泣き顔にも見えた。



 もう戻らなければならないと言って、セバスさんはその場に屈んで足元の木箱の蓋を取った。すると敷き詰められた藁の中に茶色いポーチが二つ梱包されていた。


「今回は、襲撃のリスクを避けるため野営はしません。休憩も最低限にして不眠の強行軍で踏破します。ですのでこれを持って行ってください。」


そう言ってそのポーチを私たちに差し出した。それを開けて見ると、何かの液体が入った小瓶がいくつか入っていた。


「これは酔い止めとその打ち消し用の解毒薬です。琥珀色の薬が酔い止めで、これは半日毎を目安に飲んでください。とりあえず今、飲んでみましょうか。」


言われるままに私たちは、小瓶の栓を抜き中の液体を口に流し込んだ。すると口の中一杯に強烈な苦味が拡がって思わず顔をしかめ、危うく吐き出しそうになったけれど、口を手で押さえて無理やり飲み込んだ。するとすぐ、体がすこし痺れて感覚が鈍くなった。


「即効性なのでもう効いて来たでしょう?この薬で体の感覚が少し鈍くなるので、馬車の揺れによる酔いを抑えてくれます。ですがそれでは戦闘時に困るので、その時はこの緑色の薬を飲んでください。」


そう言って別な小瓶を指差した。酔い止めは弱い麻痺毒で、緑の薬は麻痺毒含め神経系の毒を速攻で分解する解毒薬だそうだ。だからこの薬で体内の酔い止めの成分が分解される。


「私が冒険者をしていた時には、長距離遠征の際によくこれらの薬を使っていました。」


彼は少し懐かしそうな顔でポーチの中の小瓶たちを見た。


「特に解毒薬が恐ろしく苦かった記憶がありますね。」


と言うことは、この酔い止め薬よりはるかに苦いのか・・・琥珀色の液体の苦さで涙が滲んだ目で、緑色の液体が入った小瓶を眺めた。


「それともう一種類。この形が違う瓶。」


そう言って円筒形の細い瓶を指差した。コルクで栓をしてあり、中には灰色の液体が入っている。


「これは滋養効果のある薬で、飲むと元気が出て活力が回復します。あなた達の力の事を私なりに調べたのですが、この薬には気の力を回復する効果があると聞いたので用意してみました。もし使ってみて効果があるようだったら教えてください。」


私たちはセバスさんにお礼を言って、帯刀ベルトにそのポーチを装着した。



***



 セバスさんが去ってまたしばらく経った後、玄関が慌ただしくなり、簡素なドレスを纏ったマリエラ様が出て来た。その後ろに鉄兜を小脇に抱えた団長が付き従っていて、更にその後ろにはマリエラ様と同じ服装の女性が2名と、団長と同じ鎧姿の兵士2名が続いていた。


彼らは横列に停まった馬車の後ろに来ると、その場で立ち止まった。


すると紫の薄手のローブを纏った人たちが数人出てきて、その馬車とマリエラ様たちを取り囲むように等間隔で丸く並び出した。


そこへ先ほど私たちを案内してくれた兵士が大慌てでやって来た。


「こちらへ。急いでください。走って!」


急かされて彼の後を走ると、そのまま団長の傍らまで連れて行かれてしまった。


団長がエルを忌々しそうに睨み付ける。でもエルは知らん顔をするので、代わりに私が慌てて会釈をした。


「あら、リズ、エル、ご苦労様。今回も護衛の方、よろしくね。」


マリエラ様はいつも通り気易く声を掛けてくれた。でもその目には、私たちを見つけて驚くと共に、安堵する色も見えた。


「結界師殿、お願いする。」


団長が紫のローブの一人に合図を送ると、彼らは両腕を広げて低い声で詠唱を始めた。すると三台の馬車がすっぽり入るほど大きな魔法陣が足元に現れ、直後、その魔法陣の外周に沿って黒い壁が塔のように立ち上がった。


結界師というのは、魔術師の中でも結界や防御壁の魔法を得意とする人たちだ。彼らが張ったのは闇属性の防御壁だろうか?黒い壁で囲まれた塔の中から外の景色は全く見えないし、外からも中は見えないのだろう。上を見ても、ぽっかりと空いた丸い天井からは空しか見えなかった。


マリエラ様は馬車を一台一台見て回りながら、中の座席や車輪の様子を丁寧に見ていたけれど


「これにするわ。」


そう言って真ん中の一台を選んだ。


「あとの者はペアになって残りに乗車しろ。」


団長が言うと、残りの人たちは男女の組になって両側の馬車に乗り込んでいった。私はそのどちらかに付いて行きたかったのだけれど


「あなた達、早くしなさい。」


真ん中の馬車からマリエラ様の声がして、しょうがなくそれに乗り込んだ。



 馬車の中は全く、この間と一緒だった。


座席の奥にマリエラ様が座り、その隣に団長、そしてマリエラ様の前に私、団長の向いにエル。違いと言えば、馬車の窓がしっかりと木の板で塞がれていて、外から中が全く伺えないようになっているくらい。でも団長がエルを睨み、エルはそれを無視して目を閉じて俯くのは前回と一緒だった。


”これで丸一日か・・・”


その二人の様子を見るだけで心が重くなり、車内の雰囲気に胃がシクシクと痛みだした。



***



 馬車は森の街道を速い速度を保ちながら走ってゆく。


私は目を瞑り、周りの気配に意識を集中する。出立前のセバスさんの言葉を思うと、自然と気配察知も慎重になる。時々、森の中に何かの気配を感じるけれど、どれも獣か魔物の小さな群れで、特に危険な気配は今までのところ感じられなかった。



 森に入って暫くは、3台の馬車は一緒に街道を走っていたのだけれど、分かれ道で一台が別な路を選び、次の分かれ道でもう1台が別を行き、3台の馬車はバラバラになってしまった。その度に、兵士たちの一部が付いて行き、今この馬車の前後を騎走する兵士は合わせて40人程度であることが気配で知れる。


「そうだ。残りの二台は囮だ。」


馬車の中でマリエラ様は早々に寝てしまい、エルをいつまでも睨んでいる団長に恐る恐る尋ねてみたら面倒そうに答えてくれた。


ハイエンドの街までは森の中の街道を行くのだけれど、それには迂回路を含めて三通りの行き方があるそうだ。


西の森にはあの厄災の竜が飛来するエマン湖があるけれど、主街道はその一帯を北へ、そして他の二つは南へ大きく迂回しているらしい。それはもっともな事で、街道がその付近を通っていたら、竜が留っている間は使えなくなってしまう。


敵の戦力を分散させるため、こちらは囮を含め馬車を三台用意してそれぞれ別の道を進む。そしてどの馬車にマリエラ様が乗るかを厳重に秘匿するため、乗り込む際に黒い壁を張り、家中の者にすら分からないようにしたのだ。


ちなみに、今私たちを守っている兵たちが正規の護衛兵で、残り二台を護るのは、今回のために雇われた傭兵団の兵士だそうだ。副団長が分かれ道で分兵を差配したのだけれど、彼だけがマリエラ様の乗る馬車を知らされていて、更に敵の目を欺くために彼自身も囮の馬車の護衛にまわった。



 私は2本目の酔い止め薬をポーチから取り出した。朝飲んだ薬が切れて体の痺れは無くなっていた。


この強行軍では、ほぼ連続して馬車に揺られ続けている。街道には所々に駅がありそこで馬を替えるのだけれど、予め替え馬を手配していたようで、馬替えはあっという間に終わりわずかな時間しか止まらない。薬を飲まずに我慢しようと思ったけれど、馬車が揺れる度に頭がグラングランと揺らされてすぐに胃がムカついて来た。

 

窓が塞がれていて外の様子が一切分からないけれど、2本目の酔い止めを飲む時間なら夕刻か。


マリエラ様はクッションを抱えて壁にもたれかり、街を抜ける頃からずっと寝ている。きっと過酷な旅のダメージを減らすため、眠り薬を飲んでいるんだろう。その寝顔は少し苦しそうだ。


瓶の蓋を抜いて琥珀色の液体を口に流し込もうとしたその時、異常な気配を行く手に感じた。



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