第二十七話 下水道(3)
これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗
これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。
「おまえ、この辺りで水場を見たか?」
そんな私の驚きにお構いなくラウルは話を続けるのだけれど、言われてみれば、この街区に入ってから街の其処此処でみられる水道施設を見ていない気がする。
「ここはあの忌々しいスプーニルが最初に焼く場所だ。」
それはハイデルにも教えられた。
「何の恨みがあるのか知らんが、あのアホな竜が街に入って来ると、毎回まず最初にここで大暴れして焼け野原にする。だから地上の建造物は、襲撃の度に徹底的に壊される。さて、そんな繰り返し焼かれる所にお前は住みたいと思うか?」
そう問われてラウルの顔を見上げたら
「お前、上を向け。」
その通りに上を向いたら樽の水を顔にバシャリと掛けられた。ビッグスライムが体に取り込んでいた汚水の汚れがまだ顔に残っていたようだ。
「お前みたいな良いところのじゃじゃ馬娘には分からんだろうけどな・・・」
ラウルは私を良家の娘で、家の意向に逆らって冒険者をしている跳ねっ返りだとでも思っている様だ。
「繰り返し焼かれることが分かっている場所に金持ちは住まない。だからこの南西区には貧乏人と赤貧人しか住まない。そしてそんな貧乏人のために、大枚をはたいて水道を整備しようとはだれも思わない。」
つまり、と言ってラウルは苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「ここは見捨てられた、貧乏人たちの掃き溜めという訳さ。」
ローグタウンの街に、貧民街以外にもそんな貧しい人々が住む地区があるのを知らなかった。あの貧民のローブを纏っていた頃は、恐ろしくて街を自由に歩くことも出来なかったから、まがいなりにもその城壁内に暮らしながら、この街について何も知らなかったことを痛感した。
そう考えたら、私を世間知らずというラウルの指摘は全く正しいと思った。良家のお嬢様は多くの人に傅かれるから些末な情報を持つ必要がない。一方私たちは、人々から疎まれて、孤立して情報から隔絶される。その両極端な生い立ちを経て、結果的に同じく世情に疎い情報弱者が生まれる訳だ。
「あなたはこの街で生まれ育ったの?」
何となくそういう気がして聞いてみたら、ラウルは微かな笑みを浮かべながら私をじっと見つめた。
「お頭、作業が終わったぜ。」
その時、作業員の一人が声をかけた。するとラウルは声を張り上げた。
「何度言えば分かるんだ!お頭じゃねぇ、行政官様と呼べ!」
すると梯子を昇ってエルとハイデルが穴から這い出て来た。それを見て、ラウルは周りの男たちに指示を飛ばして撤収を指揮し始めた。
樽の前に蹲るエルとハイデルに、今度は私が水をかけようと手桶で水を掬ったとき、ラシーさんに渡されたスクロールの事を思い出した。
「みんな、ここに集まって。」
私たち三人は背中を合わせで集まった。そしてラシーさんからもらった羊皮紙の巻物をそこで開くと、足元に以前アンナが構築したものと同じ白く光る浄化の魔法陣が現れて、やがてそれが光を失うと、私たちの体の汚れはすっかり無くなって奇麗になっていた。
その様子を、男たちは珍しいものを見るような目で眺めていた。
「ほう、流石は冒険者様だな。浄化のスクロールとは、洒落たものを持ってやがる。」
そう言いながらラウルが歩いて来て私の前に立った。そして後ろの男たちには見えない様に、懐から布袋を取り出した。
「あんたにははした金かもしれんが三人で分けてくれ。ビッグスライムを討伐した特別報酬だ。」
袋を差し出して早く受け取れと顎を上げる。私がそれをローブの中にしまうのを確かめると、ラウルは私の耳元に顔を寄せた。
「砂の交換がそろそろなろ過槽も他にあるから、時期になったらまたギルドに依頼を出す。その仕事もあいつが受けるだろうから、その時はまた手伝ってやってくれ。」
ハイデルに聞こえないように囁くと、ラウルは撤収作業の指揮に戻っていった。
ギルドハウスに戻り、ラウルが渡してくれた袋の中を見たら小銀貨が十枚入っていた。依頼の報酬が銀貨一枚だからそれと同じ額だ。それに集めたスライムの皮に加えてビックスライムの皮と魔核。その皮は大きく破けていたから査定額は下がってしまったけれど、それらを売却し、収納袋のレンタル料を差し引いて小銀貨七枚を得た。
こうして得られたお金のうち、依頼報酬である銀貨一枚をハイデルが、そしてサポーターの報酬は依頼報酬の一割が相場だから、私とエルが小銀貨を一枚ずつ取った。そうして残りを三つに分けて、一人小銀貨五枚づつを受け取った。
私とエルの実入りは、丸一日働いて小銀貨六枚。でもラウルからのボーナスや、素材のお金が無ければ小銀貨一枚きり。それはさすがの私たちにとっても安すぎだ。でもそのまま席を立とうとしたら
「今日は・・・ありがとう。またサポーターとして・・・手伝ってくれるか?」
ハイデルが立ち上がった私たちの顔を仰ぎながら言うのだけれど、その顔を見たら
「タイミングが合えば手伝うよ。」
ついつい、頷いてしまった。するとハイデルは嬉しそうに笑顔を返してくれた。今日一日で笑ったのを初めて見たけれど、彼らしい素朴な笑顔だった。その純朴さ故に、なんだかんだ言ってラウルも彼を気にかけているのだろうと思った。
そして私たち三人は握手を交わし合い、それで解散となった。




