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鉄屑拾いの剣姫  作者: エビマヨ
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第二十七話 下水道(2)

これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗


これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。

 その作業を延々と繰り返しているうち、気がつくと黒い汚泥は無くなっていて、代わりにハイデルは枡の底に顕になった汚れた砂を掻き出していた。


 昼をかなり過ぎた頃になって枡の底はだいぶ深くなり、枡の側面の壁が露になってきた。するとそこには金泥で魔法陣が描かれていて、その術式で浄化のパッシブ魔法が発現しているのが分かった。この升の砂を通り抜ける汚水を、これで奇麗にしているらしい。


「一旦上がって来い。」


 外からラウルの声がして休憩になった。


 外に出ようと床のローブを拾い上げてみたら何だかずっしりと重たい。顔の前に掲げたら、ローブの黒い生地が目の前でモゾモゾと動き出した。生地だと思ったのは巨大なゴキブリたちだった。


 直後に、大下水道内に私の悲鳴が響き渡った。



 ローブをそのまま羽織る気にならず、腕に抱えながら梯子を昇ると、外では男たちが遅い昼食を食べていた。


「お前らは臭いからあっちの方で食べろ。」


 汚水にまみれた私たちの姿を見たラウルに、昼食のパンが入った籠を渡されて広場の端に追いやられてしまった。そこには水が満々とたたえられた樽があって


「そこにしゃがめ。」


 エルと並んでその前に蹲らされて、ハイデルに手桶でバシャバシャと水を頭からかけられた。


「この樽の水は・・・飲料用じゃないから飲むなよ・・・こっちのを飲め。」


 ハイデルはそう言って籠の中の水が入った瓶を手渡してくれた。私たちは三人で樽の前に座り、その瓶の水を回し飲みしながら昼食のパサパサのパンを無言で頬張った。


「あんなにいっぱいスライムが出る中で、いつもどうやって作業してるの?」


 昼食のパンを食べ終わった後にハイデルに尋ねると、彼は最後のパンの欠片をゆっくりと咀嚼していたけれど、地面を見つめながらそのパンを飲み込んで


「いつも・・・スコップで叩き潰している。」


 ボソリと呟いた。


「それなら私たちがいなくても良かったんじゃないの?」


「お前らを呼んだのは・・・主が出るかもしれないから。」


 でもそのとき、休憩は終わりだとラウルが告げて、その主というのが何者かを聞きそびれてしまった。



 昼食後、地上の作業員の数が足りないと言うのでエルが助っ人に出ることになり、下水道には私とハイデルの二人で潜った。戻ってみると枡の中にスライムがいっぱいいて、でもハイデルはスコップでそのスライムを潰しながら砂を掻き出す作業を始めた。


 私は排水溝の中に立ち、アーチ状の穴から出てくる新手のスライムだけを相手にした。そうしているうち、背後でボットンという鈍い音がして、ハイデルのうめき声が響いた。


 振り向くと、砂が抜かれて空になった枡の中に巨大なスライムがいて、ハイデルが枡の壁との間に挟まれて苦悶の表情を浮かべていた。


 その巨大スライムは普通のスライムの何十倍もの大きさで、気がつかないうちに後ろのアーチ状の穴から這い出てきたようだ。


「ハイデル、待ってて、今助けるから!」


 屈んで上からそのスライムにレイピアを突き立てるけれど、外皮が厚くて刃が通らず、剣が弾かれてしまう。ハイデルは依然壁に挟まれたまま苦しそうな顔をしている。


 私は刀身に気力を流し込み、スライムの上に飛び乗りざま、その青く光るレイピアを突き込んだ。


 するとその外皮が弾けるように大きく裂けて、大量の汚水が一気に噴き出して枡の中で渦巻いた。私はその流れに巻き込まれて汚水の中でひっくり返ってしまった。天地が逆になったまま溺れそうになっていた所を、ハイデルに腕を掴まれて引き上げてもらった。でもその時のハイデルの顔があまりにも必死だったので少しびっくりした。




 その後私は外に出され、今度はラウルに樽の水を頭から何度もかけられた。


「よくあの主みたいなスライムが倒せたな。その細い剣で一体どうやってあの分厚い皮を破ったんだ?まぁ何にしろ、あいつを倒してもらって助かった。危害を加えるわけじゃ無いんだが、下水道を清掃するのにも邪魔になるし、時々下水を詰まらせたりもしてたんだ。」


 スライムも長く生きる事で上位種に進化する。ただ他の魔物と違ってその進化の仕方は多様で、同じ進化のタイミングでもフレイムスライムのように魔法を使う種になることもあるし、今回のようにただ大きいだけのビッグスライムになることもある。その進化の多様性は植物の魔物の特徴と同じで、だからスライムが植物系魔物に分類されるのだろう。


 ラウルには巨大スライムの外皮と魔核は持って行っていいと言われた。今は男たちが土嚢袋の砂を穴から升の中に入れていて、それを下でエルとハイデルが均す作業をしていた。


 ラウルという男は、最初の印象こそ最悪だったけれど、でもその気配を視る限り存外悪い人ではない様だ。


「あの砂は何に使うの?」


 私が問うと


「なんだ、そんなことを今更聞くのか?」


 そう言ってラウルは呆れた顔を返した。


「お前たちが今朝から掃除してたのは汚水の汚れを取るろ過装置で、あの砂はそのためのろ材だ。升の中に砂を入れて、汚水をその砂の層に通して汚れをろ過して取り除くんだ。そうして奇麗にした水を地下の貯水槽に貯めてこの辺りの井戸で使っている。」


「下水を再利用するの?」


「あぁそうだ。さすがに飲料には使わんけどな。」


 ラウルは脇に鎮座する樽の中の水を見た。この水はそうやって再利用された下水なのだろう。だからハイデルは飲むなと言ったんだ。


「この街区の奴らは河に水を汲みに行かないといけないんだが、掃除や風呂に使うような飲料用以外の水を賄えられれば住民の負担はその分減る。大下水道が建造された時にこういう施設が街中に作られたんだが、今も使ってるのはこの南西区くらいだろうよ。」


「みんな水道は使わなの?」


 この街の西には水量の豊富な河が流れているのだけれど、巨大な魔道具でそこから揚水して街中に水を引き込んでいる。それが上水として利用されていて、街路の辻々から裏路地まで、至る所に公共水道が整備され、住民はそれらの水場から生活用水を得ている。


 そして使われた水は下水道を通して集められ、それも魔道具で浄化されて河に戻される。これらの魔道具の維持と、そして動力となる魔石を賄う財源として、全ての住民は水道使用料を支払わされる。街の住民に住民登録が課せられているのは、この徴収を確実にするというのも目的の一つだ。


 でも貧民は上水道も下水道も使用することが許されず、だから水道使用料は徴収されないし、住民登録も課されない。そもそも貧民街には、町名も番地も割り当てられていないから登録のしようが無いのだけれど。


「・・・おまえなぁ、いったい何処のお嬢様なんだ?世間知らずも程ほどにしろよ?」


 ラウルにお嬢様と言われて心底ビックリした。私はお嬢様と呼ばれる高貴な女の子たちとは対極にいる、卑しく穢れた小娘だというのに。

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