第二十六話 冒険者ハイデル(3)
これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗
これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。
目の前のハイデルは、終始おどおどしながら俯いていた。その机の向こうを冒険者たちが通るのだけれど、彼らの内でハイデルに気づいた者は、押しなべて馬鹿にしたような視線を向けていた。
”この人も、ここの冒険者たちに受け入れてもらえていないんだ”
今、私たちにはラシーさんとアンナがいてくれるけれど、二人が居なければ今の彼と同じように孤立していただろう。そう考えたら、父親ほどに歳が離れているけれど、それでも放ってはおけなかった。
「分かりました。サポーターとして同行します。」
ラシーさんに告げると、頷いて申し訳なさそうな顔をしたけれど、それには安堵の色もたくさん含まれていて、彼女がハイデルの事を気にかけていたことが分かった。
彼女はそういう人だ。遍く冒険者たちのサポートを、まるで使命のように捉えている。その熱量がどこから来るのか常々不思議に思っていて、一度それとなく聞いてみたのだけれど、あっさりと受け流されてしまった。
ギルドハウスを出立する前に、ラシーさんから麻袋を一枚手渡された。
「これは収納袋です。魔物のドロップ品を入れてください。」
それは先日アンナと薬草採取をしたときに使ったアイテムだった。
「スライムでしたら、魔核を壊した後に残る外皮を五十匹分集めれば、これのレンタル料が賄えます。魔核が集められれば三十匹分ですね。」
スライムの魔核とは、他の魔物なら魔石と呼ばれる石の事だ。一般に植物系の魔物が持つ魔石のことを魔核と呼ぶのだけれど、スライムは単純な構造をしているから動物と植物の境界、その植物寄りの魔物として扱われている。中の水を全部抜いて倒せば魔核を手に入れられるけれど、外皮を破いてもすぐ塞がるので、魔核を砕いて倒してしまった方が簡単だ。どの程度の頻度で現れるのかは分からないけれど、沢山倒して資材を集めるのなら外皮狙いだろう。
「それから・・・これはサービスです。」
ラシーさんはそう言って羊皮紙の巻物をそっと手渡してくれた。浄化の魔法のスクロールで、この巻物を開くと、それに仕込まれた浄化魔法の魔法陣が発動する。
「こんな高価な・・・いえ、こんなものをもらっても良いんですか?」
確か浄化魔法のスクロールは一枚の値段が小銀貨一枚だったはず。私にとっては高額だけれど、でも私の金銭感覚はずれているようなので、値段の事を口に出してから咄嗟に言葉を濁した。
「大丈夫、オファーを受けていただいた事へのお礼です。作業が終わったらこれで体を奇麗にしてくださいね。大下水道はすごく臭いがきついので・・・」
その心遣いに感謝しながら、手渡された収納袋と羊皮紙の巻物を、エルが背負う背嚢の中に大事にしまった。
***
ハイデルに引率されて私たちは街の南西に歩を進めた。
西の城門に至る主街道を途中で南に外れ、いくつかの路地を抜けてから南西地区と呼ばれる区画へ足を踏み入れた。
この地区に来るのは初めてだったけれど、街路を行き交う人々は裕福そうだとは言い難く、みな汚れた衣服を身に纏っていて、だから中央のギルドホールで貧相さが目立ったハイデルの服装も、ここでは馴染んで寧ろ目立たなかった。そんな街の人々の中に、褐色の肌の人たちが時々混じっていた。彼らは皆一様に、特に貧しげな格好をしていた。
そんな彼らを横目で追っていると、その後ろの街並みが目にとまり、他の街区に比べて簡単な造りの木造建築が殆どなことに気がついた。背の低いその建物たちの屋根の先には、城壁と、西を護る大城門の円塔が聳えて見えた。
返事は無いだろうと思いながらも、終始無言で前を歩くハイデルの背に向って話しかけてみた。
「このあたりは木造の建物が多いんだね。南西地区に来るのは初めてだけど、同じ街でも街並みは大分違う。」
すると意外にも、ハイデルはどもりも無く普通に、でも短く答えてくれた。
「スプーニルが街を襲うときは決まってここからだ。繰り返し焼かれるから、すぐに立て直せる事を優先している。」
”そうか・・・ここは厄災の竜が襲撃してきたときの、緒戦の主戦場となる場所なんだ”
前回の竜の襲撃で、街の南西で被害が大きかったと聞いていたけれど、ここがいつも最初に襲われる場所だとは知らなかった。でもそれならば、私たちが厄災の竜と対峙する時、この場所がその舞台となる。それに前回は、ここで父さんと母さんが竜と戦ったのかもしれない。
竜の前に立つ父さんと母さんの姿を想像したら、思わず立ち止まってしまった。両手をギュッと握りしめたまま周りの街並みを見つめていると、気がついたら、想像の中で竜の前に立つ人物が城主の息子の姿に変わっていて、鋭い痛みが走って思わず胸を手で押さえた。
私が立ち止まったことに気づいたハイデルは、歩みを止め、そんな私の様子を盗み見るようにして見ていた。




