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鉄屑拾いの剣姫  作者: エビマヨ
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第三話 姉弟の絆(2)

毎週、月、水、金曜日の0時更新予定です。

 そのまま、二人とも無言になった。


 自分でも、あそこでどうにも出来なかったことは分かっている。でも自分の非を認めて弱さを見せることに抵抗があった。私はエルの姉で、エルを守らなければいけない立場だから。


 エルを見ると相変わらずそっぽを向いていて、イラついたときの癖で、時々手で髪を掻き上げている。その度に、エルの奇麗な髪が輝く。


 銀色の髪、私と同じ髪色、私たちが姉弟であることの証・・・


 いや、嘘だ。そうじゃない。


 私は瞳の色を父さんから、髪色を母さんから受け継いだ。でもエルは違う。髪色が似ているのは偶然だ。


 それに同じ色じゃない。明るいところで見比べれば少し違う。私の髪は紫を僅かに含んでいるけれど、エルはもっと明るい銀色をしている。


 エルは私の本当の弟じゃない。



 私が七歳のとき、父さんと母さんが一人の男の子を家に連れてきた。これから、家族として一緒に暮らすのだという。


 父さんと母さんはその子をエルと呼んだ。


 私と同い歳だったのだけれど、痩せていて私より体が小さかった。女の子のようなすごくきれいな顔をしていて、明るい銀色の髪は眩しく、緑色の大きな瞳は宝石の様だった。はじめて会ったとき、神殿に祀られている天使の像みたいだと思った。


 すごくおとなしい子で、話しかけても返事をしてくれない。いつも無表情で、まるで感情が無いみたい。暫く一緒に暮らすと、この子は人間ではなく、彫像が動き出したものではないかと思うようになった。


 心のない動く彫像・・・この子のことがちょっと怖くなった。


 でもあるとき、母さんにその事を話すと教えてくれた。


「・・・あの子は可哀そうな子なの。ひどい扱いを受けたせいで感情が壊されてしまったのよ・・・」


 詳しいことまで教えてくれなかったけれど、エルがとても可哀そうな子である事を、そして優しく守ってあげなければならない子である事を教えてくれた。


「・・・あなたがあの子のお姉ちゃんになってあげて。そしてあの子を守ってあげて。この世でたった一人のお姉ちゃんとして・・・」


 この時、母さんと約束した。私はあの子のお姉ちゃんになる。本物ではないけれど、あの子のお姉ちゃんになって守ってあげると。


 それ以来、私はこの約束を守った。そして母さんが死んでしまったとき、この約束は永遠になった。


 でも弟になったばかりの頃に比べ、今のエルはだいぶ普通の子に近づいたと思う。


 私の前でなら感情も表に出せるようになって、さっきのように私にお説教すらするようになった。それはそれで、生意気すぎてムカつくんだけれど。背も私より低かったのに、この街に来てから追い越されて、今では顔を見上げなければならなくなったし。


 でもそうなれたのは、母さんとの約束を守って、私がお姉ちゃんとしてあの子を守って来たからだと思っている。そしてこれからも、私はエルを守らなくてはならない。この先も、姉としてエルを守ってあげたい・・・



***



 頬につめたさを感じて目が覚めた。エルが濡れた布を交換してくれていた。


「私、寝てた?」


 壁板の隙間から明るい光が差し込んでいる。


「夜は明けたの?」


「あぁ。もう昼に近い。」


「そう・・・長いこと寝ちゃったんだね。じゃあ今日は、気術の訓練できないね。」


「今日は寝てろよ。」


 エルが私の顔を見下ろしながら言った。


 背中から短剣の柄が覗いている。昨日は寝なかったようだ。あの冒険者たちの襲撃を警戒したんだろう。


 今までの経験から、あのまま終わるはずがないのが分かる。多くの人の前で恥をかかされた仕返しをするために、彼らは必ず襲って来るだろう。


 私は頬の布を押さえながら起き上がり、ベットの上に座ってエルに向き直った。


「よく寝たから、大分痛みも落ち着いたよ。」


 頬に鋭い痛みが走ったけれど、なんとか笑いかけることは出来た。


「だいぶ楽になったから起きていられそう。ねぇ、私起きてるから、寝ていいよ。昨日は寝てないんでしょ?」


 エルは私の顔をじっと見ている。


「長いこと寝すぎたから、もう寝てられないの。」


「また無理するんじゃないだろうな?」


「無理なんかしないよ。ずっと家にいて外には一歩も出ないから。だから寝てくれていいよ。何かあったら起こすから。」


 エルは暫く私の顔を不機嫌そうに見ていたけれど、しぶしぶ横になった。


「ほんとに、何かあったら起こせよ。」


 私を見上げながら言うので、うん、と頷いた。


 エルは目を閉じた。だけど、なかなか寝付けないようだった。昔から寝つきの悪い子だった。


 その様子をしばらく見守っていたけれど、その隣に座り直して頭に手を置いた。そして銀色の髪の毛に指を差し入れて、頭の地肌を優しく掻いてあげた。貧民に堕ちる前、家族で住んでいた家ではよくこうして寝かしつけてあげた。


 エルは目を開けて、すごく嫌そうな顔で睨んでいたけれど、私の手を払いのけることはしなかった。


 そのまま相変わらず不機嫌そうな顔をしていたけれど、やがて目をつぶって寝入ってくれた。


 その寝顔を見ながら、この世界で二人きりなんだと改めて思った。気にかけてくれる人は他に誰もいない。


「・・・ごめんね。それから、助けてくれてありがとう。嬉しかった。」


 エルの寝顔に、私は小さく呟きかけた。


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