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鉄屑拾いの剣姫  作者: エビマヨ
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第二十六話 冒険者ハイデル(2)

これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗


これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。

 数日後の朝、いつものように鉄屑を背負ってギルドホールへ来た。一昨日からアンナは用事があると言って街を出ていて、だから今日は魔法の訓練を受けられない。この後をどうやって過ごすか考えながら、ラシーさんに指名依頼が無いのを確認し、それから裏の事務棟へ鉄屑を持ち込むために籠を背負おうとした時、彼女から遠慮がちに声を掛けられた。


「あの・・・実はある冒険者様から、あなた達にサポーターとして依頼に同行して欲しいと言うお話しが来ているんですが・・・」


 その依頼は下水道のメンテナンス、要するにドブさらいだそうだ。話を持ってきた冒険者がその依頼を受けたのだけれど、スライムが湧いて作業の邪魔になるので、サポーターとして同行し、魔物を退治してほしいということだった。


 この街の地下には蜘蛛の巣のように走る複雑な下水道網が整備されていて住民の生活から出る汚水がそこに排出される。


「でもこの方のランクはCなので、ご自分で魔物退治もできるはずなんですけどね。それに本来なら、その依頼はCランクでは受けられないものなんです。」


 この依頼は定期的に出されるのだけれど、報酬も安く人気がなくて受ける人がおらず、本来のランクはFで駆け出し冒険者向けの依頼であるところを、仕方がないのでランク制限が撤廃されているそうだ。


「それにサポーターとして誰かを指名するというのもあまり聞きませんし・・・でもこの方は、無口で人づきあいは苦手みたいですけど、でもとっても真面目な方なので、その点は安心なんですけどね。どうします?一度お話を聞いてみますか?それなら私も同席しますけど。」


 貧民街では下水道への導水管の敷設は許されず、そのため汚水はそこらに捨てられて、街の中はすえた匂いで充満している。そういう意味で、私もエルも下水道から何の恩恵も受けていないし、寧ろ私たちが街から棄てられている事の象徴でもある。


 そんな下水道の掃除なんか手伝いたいとは思わないけれど、でもこの後何をしようか考えていたところでもあり、エルと目でコンタクトを取り、話だけでも聞いてみる事にした。


「じゃあ資材の売却が終わったら戻ってきてください。実はその冒険者様が今ホールにいらしてるので。」


 そう言ってラシーさんは、カウンターの跳ね上げ扉を引き上げて私たちを奥の事務棟へと送り出してくれた。



 ホールの奥の一番隅の長机に、男が座って硬そうなパンを齧っていた。あれはきっと食堂前のゴミ箱から拾ってきたものだ。お金を払ってお店で食事を買うようアンナに言いつけられるまで、私たちもあれで命を繋いでいた。


 四十過ぎと思われるその男は、鎧は装備せずにうす汚れた平服を着ているだけで、首から下げた黒い識別標が無ければとても冒険者には見えない。


「ハイデルさん、ご指名のお二方を連れて来ましたよ。」


 ラシーさんが声をかけると、男はカチカチのパンを口にくわえたまま驚いた顔を上けて、それから私たちに視線を移すと、急いでパンをポケットの中に押し込みながらぎこちなく礼をした。


 ラシーさんがハイデルの向かいに座り、その隣に私たちが座った。


「こちらのお二方にサポーターとしての同行をご希望との事ですが、依頼内容は下水道の清掃でしたね。」


「・・・ろ過槽の・・・ろ材の交換だ。」


 ハイデルは訥々と依頼の内容を説明してくれたけれど、私たち三人にはそれがどんな仕事なのか分からない。それを察して、ハイデルは更なる説明を補足した。


「・・・ろ過槽の砂を・・・入れ替える・・・バケツに入れて取り出して・・・新しいのに入れ替える・・・臭いしかなりの重労働だ。」


 相変わらず内容は良く分からなかったけれど、大変な作業らしい事は分かった。


「でもこちらのお二方のお仕事は、その作業中の魔物の退治ですよね。大下水道の魔物にはどんなものがいるんですか?」


 ラシーさんが重ねて問うと


「ドブスライムと・・・魔物ではないけれどゴキブリの群れ。この位の・・・」


 ハイデルは親指と人差し指をいっぱいに広げて見せた。するとヒィーという耳慣れない掠れた悲鳴が聞こえて、ビックリしてその声の主を探ったらラシーさんだった。青い顔で顔をしかめて両手で口を覆っている。どんな魔物について問うても真剣に、寧ろ目を輝かせて説明してくれるラシーさんだけれど、魔物では無い巨大ゴキブリはその限りではないようだ。


 ドブスライムというのは通称で、魔物としては普通のスライムと何も変わらない、相変わらず最弱の魔物だ。


 スライムは外皮の中に水を溜め込んでできている。以前戦ったフレイムスライムは、その外皮がオレンジ色をしていたけれど、普通のスライムの外皮は透明で、だからその姿は、外皮の中に溜め込む水の色になる。そしてその水は彼らが住む環境下で調達するから、清らかな水が豊富な場所のスライムは奇麗で透明な姿になるし、泥水ばかりの渇水地帯では茶色くなる。そして下水道では、悪臭を放つ汚水をその内に蓄えて、黒に近い灰色の、スライムとしても奇異な姿を呈するらしい。


「でもその程度の魔物なら、ハイデルさんご自身で十分対処できるんじゃないですか?」


「俺は武器は・・・持っていない・・・」


 そう言って、そのまま机を見ながら固まってしまった。彼は確かに武器はもっておらず丸腰だ。生活に困窮して武器も防具も手放してしまったんだろうか?そうなると、戦闘を伴う割の良い依頼を受けられなくなり、やがて冒険者を続けられなくなって、私たち貧民の仲間入りをしたり、或いは路地裏で行き倒れたり・・・実際、そういう行く末を辿る冒険者も多いらしい。


「でもどうしてこのお二人を指名なされたんですか?」


 するとハイデルは、俯いたまま小さな声で答えた。


「認定試験で・・・スライムを・・・倒したと聞いた・・・」


 でもあの試験で戦ったのはフレイムスライムで、普通のスライムとは大分違う。魔法も使わないから、下水道のスライムの方が討伐は簡単だとは思うけれど、でもスライムに詳しい訳でも、討伐が得意な訳でも無い。


「どうします?環境的にちょっと過酷ですが・・・勿論、断ってもらっても良いんですよ。」


 ラシーさんは私たちの顔色を窺うようにこちらを見た。エルも私を見て、その表情はこの男に悪意や害意などの負の感情を感じるかを聞いていた。私が微かに首を横に振ると、興味を失ったようで目を閉じて俯いた。判断は任せるという事の様だ。そういう所だぞ、と言ってやりたかったけれど、今は睨むに留めてあげた。


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