第二十五話 魔法講義(2)
これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗
これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。
あの魔法は海の荒波や川の濁流をイメージするだけで詠唱はしていない。本物の海の波は見たことがないけれど、本の挿絵で何度もその恐ろしげな姿を見てきた。そういう意味で私は、強烈なイメージから魔法陣を構築する無詠唱をすでに実践していた。
でもそこでアンナは、少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ところで、どうして水魔法に拘るんだい?魔法には色々属性があるだろ?」
水の恩寵の力は、水属性の魔法と親和性が高い事を説明すると
「そうだね。気術は属性依存が強いと言われてる。魔術師だって、体内魔力の質によって魔法に得手不得手が確実に出る。でも魔術師は普通にいろんな魔法を使うだろ?」
確かに魔術師や、それから高位の魔物たちも、様々な属性の魔法を多彩に扱うのが普通だ。
「体内魔力で魔法陣を描いて、その術式が起す現象を明確にイメージできれば、どんな魔法でも発現できる。それなら気力で描いた魔法陣だって同じはずだろ?もし出来ないなら、それはきっと、他属性の魔法が使えないと思い込むから使えないんだ。」
そう聞かされて驚いた。”水の恩寵”と呼ばれるくらいだから、水以外の属性は相性が悪くて使えないのだと思っていた。
「縮地は何属性だっけ?」
エルにチラリと視線を送ってからアンナに聞いた。縮地はエルが得意とする魔法の一つだ。
「空間移動の劣性魔法かい?空間操作は皆、闇属性だね。」
じゃあエルは風属性以外の魔法も使ってるという事。
もし私が、水属性に限らず多彩な魔法を使えたら、私たちが取り得る戦術は間違いなく広がる。
色々な属性の魔法・・・そう考えたら、魔狼の魔法でつけられた頬の傷をアンナが治してくれたことを思い出した。
「じゃぁ、治癒魔法も使えるようになるのかな?」
「出来る。」
アンナはそう言い切った。
「但し肝を押さえなきゃならない。その肝とは、正しい体の状態を知る事。」
怪我を直すとは、怪我をする前の状態に体を直すこと。そして思い描いたとおりに体を直すのは治癒魔法の術式がしてくれる。
「治癒のためには、怪我をする前の正しい体の状態を正確に思い描けなければならない。そしてそのためには、体の構造や仕組みについての深い知識が必要になる。その膨大な知識は、神殿のように専門の教育体制を整えた所で学ばないと習得できない。だから治癒は神官の専売と誤解されてるのさ。」
でもね、そう言ってアンナは不敵な笑みを浮かべた。
「傷や怪我を治すくらいなら、治癒魔法は神官でなくても使える。実際私は使えるからね。だから魔術師や、それからあんた達のような気術使いにも使えるはず。治癒に必要なのは神殿が言うような神への信仰なんかじゃない。」
私はビックリして周りに人が居ないか急いで確かめた。こんな言葉を神殿関係者に聞かれたら神の敵とされてしまう。でもそんなことにはお構い無しで、彼女はローブの袖を捲って腕の内側を私に見せた。その白い肌には青い静脈が浮かび上がっていた。
「魔力や気力の経路は血の通り道でもある。」
そう言って青い血管を白く細い指でなぞった。
「怪我で命を落とすのは、その道が絶たれて血が廻らなくなるからだ。でも体内の魔力や気力の経路を捉えることが出来れば、どこで道が断たれていて、それをどう直せばいいかが分かる。だから治癒魔法の術式を使って、血の通り道を正しく直して怪我を治すことが出来る。」
そのためにアンナは瞑想を通じた修練を行ったことを教えてくれた。瞑想して意識を集中し、体内の魔力の流れを感じ取りその経路を捉える。そしてその錬度が上がるほどに、より微細な魔力の経路まで見えるようになる。
「まぁ、本当にリズが治癒魔法を使えるのかは分からないけどね。なんにしたって気術使いは数が少ないから未知な事ばかりだ。それでも、瞑想による修行をすれば、きっと気力の制御力が格段に向上すると思う。」
アンナの経験では、瞑想による修行を通して体内の魔力の流れが感じられるようになる事で、魔力制御の錬度が飛躍的に上がったそうだ。だから私も、気力の流れが視られるようになれば、同じように気力制御の精度が今より向上するかもしれない。
「リズ、あんたの気力の量はエルより大分少ない。きっと、ちょっと入り組んだ魔法なら魔法陣も描けないだろう。」
まさにその通りだった。中級魔法になると気力が足りなくて魔法陣の構築すら出来ない。だから私には、下位の中級魔法である縮地の魔法が使えない。
「でも、私の見立てだけれど、リズの気力制御はエルと同程度に精度が高い。いやむしろ、より繊細だと思う。魔力と同じで気力もすぐには増やせられないだろうから、あんたが強くなるために採るべき戦略は気力制御を極める事だ。そうすれば魔法の威力も上がるし、何より少ない気力で高度な魔法だって使えるようになる。」
そういう意味で、瞑想はうってつけの修行法だとアンナは言った。
「私は魔力でしか試せていないけれど、気力でも理屈は同じだ。瞑想で気力制御の錬度を上げられる。それに、もしかしたら治癒魔法だって本当に使えるようになるかもしれないよ。」
「その推論には何か根拠があるのか?」
隣でいきなり声がしてビックリした。エルがアンナに話しかけていた。エルは未だにアンナを警戒していると思っていたから、彼から話しかけるなんて意外だった。
アンナはエルに改めて向き直って、表情を殊更柔らかく作った。
「まぁ、全く無いことはないね。」
「その根拠というのは、前に言ってた知り合いの気術使いって奴の事か?」
うふふ、とアンナは、首を傾げて意味ありげに笑った。それは、私が答えたくないと言う代わりにした仕草を真似たようだけれど、でもエルには通じなかったようだ。
「まぁ、焦りなさんな。」
エルが問いを重ねようとしたのを間髪入れず、でもやんわりと言葉を畳み込ませてやり過ごした。
「あいつとはそう遠く無い内にきっと巡り合えるさ。私からは何をどこまで教えていいか判断つかないからね。」
そして私たちを順番に見やりながら
「でも間違いなくあいつはあんた達を気にいるだろう。きっと余計なことまで色々と教えてくれるよ。」
そう言ってエルを煙に巻いてから、アンナは徐に立ち上がった。
「さぁ、座学も良いけれど大事なのは実践だ。何よりもまず実践あるのみだ。」
二人ともついて来な、そう言うと階下へ通じるホール奥の扉へと一人で歩き出した。それを唖然として見送っていたら、アンナが立ち止まり振り向いて首を傾けた。早く来いと言っている。
私たちは急いで席を立ってアンナの所まで行くと、彼女はじっと私の目を見て静かに言った。
「私の事情を深くは教えない代わりに、おまえの事も詳しくは聞かない。聞いたからって、きっとどうにもしてあげられない。お前の問題は、お前自身で折り合いをつけて乗り越えな。でも強くなりたいっていうなら、私なりにそれを手助けする事は出来る。」
強くなりたいならついて来な、そう言ってまたスタスタと一人で歩き出した。隣のエルを見たら頷いてくれて、私は急いで彼女の背中を追いかけた。




