第二十五話 魔法講義(1)
これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗
これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。
「魔術師は体内魔力で魔法陣を描くけれど、気術使いはそれを気力で構築する。その違いはあるけれど、どちらもその術式を発動させて、周りの魔力に干渉しながら魔法を発現させる。」
それは知っているね?という目を向けられたので頷いてみせた。
「そこの所は同じだから、気術使いだって色んな魔法が使えるはずだ。規模の違いはあるけどね。気力は周辺魔力への干渉力が弱いから。」
「でも私、簡単な水魔法しか使えない。」
「どんなのが使えるんだい?」
「波をイメージして剣の突きに勢いを乗せるとか、気力に水の形を与えて斬撃にして飛ばすとか・・・」
「どちらも特性付与魔法だね。」
それはイメージした物の特性を付与する魔法だ。
「でもそれが出来るのなら、仕組みは同じなんだから他の魔法だって使えるはずだ。まぁその前に、魔法陣を構築できなきゃ話にならないけどね。」
そう言われて、私は左手の人差し指を机につけた。左手には、あの防具屋で設えた金属の手甲をはめていて、だから気力を指先までスムーズに伝えられる。
声を落として詠唱すると、机の上に青く輝く魔法陣が現れた。
「ほぅ・・・ウォーターボール。」
アンナは目を細めてその魔法陣を見た。でもそれはただ輝くばかりで、術式は一向に発動しない。
「構築は出来るけど発動しない。」
「でも魔法陣は正確に描けてるね。あんた、誰かに魔法を習ったのかい?」
私は子供の頃から母さんに魔術を教わっていて、母さんと一緒に様々な魔法陣を覚えた。そして気力を使ってその構築まで出来るようになっていたけれど、幼かったから父さんにその発動は禁じられていた。もう少し大きくなったら気術魔法の実践を、父さんと母さんと一緒に練習する事になっていた。結局その機会は訪れなかったけれど。
その事は話せない。私はまたすこし首を傾げて微笑みかけた。するとアンナは苦い顔をして両手を広げた。
「・・・まぁいい。これだけ描けてるのに、なんで発動しないのかね?あんた、この術式の意味は分かってるかい?」
魔法陣はニ重の同心円で出来ていて、外円と内円の間に古代ルーン文字で術式が書かれている。この文字を古代語で音読するのが詠唱で、それを詠ずる事で魔法陣を記憶の中から呼び起こし、それを魔力や気力で具現化する。
私は一文字つづつルーン文字を指で指しながら意訳していった。
「雨粒が地に落ちる理の軛を・・・開放して・・・大気の中の雨の残滓を・・・集めて球にして・・・宙に浮かせる。」
「優秀だね。あんたルーン文字を誰に・・・いや、まぁいい。意味はその通りだ。それだけ理解できてるなら尚の事、なんで発動しないのかね?」
そう言うと、アンナは魔術杖を机に向け、隣に同じウォーターボールの魔法陣を構築した。そしてそれをゆっくりと発動して見せた。
まず、魔法陣の上空が結界に包まれて、その中で重力の軛が解放される。そして何もない空間から次々と水滴が現れると、それが中心に向かって収斂しだす。そして最後に、魔法陣の上に丸い水の球が出来上がって宙を漂った。
普通は一瞬で水の球ができるのだけれど、それをこんな風にゆっくり発動する所を始めて見た。私は魔法陣の上をじっと見つめてその様子を見ていたけれど、中心に集まってゆく水滴は小さなスライムのようで可愛かった。
「こんなのを見るのは初めてかい?」
頷く私の顔を見て、彼女は何かに思い至ったように片眉だけ上げた。
「あんたは囚われ過ぎなのかもしれないね。」
リズは真面目が過ぎる、そう呟いて苦笑いした。
「詠唱を正確に発音しようとか、記憶の中の魔法陣を精密に描こうとか、そういうことばかり気にしてないかい?だからこれからどんな現象を起こすのか、それをイメージするに至れていない。魔術の初級者がそれでよく失敗する。」
そう言われてみて、その通りかもしれないと思った。母さんに教えてもらった事を教わった通りに実践する、その事に汲々となって、現象のイメージなんておざなりだった。
「今見せた現象をしっかりイメージしながら、もう一度詠唱してご覧。」
なんだか、なし崩し的に魔法の授業に参加させられてしまった。
”でも、今なら出来るかも・・・”
指先をもう一度机に付け、さっき見た水球が出来る様を思い出しながら詠唱した。でも水滴をイメージしたら、小さなスライムが勝手に動き回る姿をつい想像してしまって顔が綻んだ。
詠唱を終えると、描き上がった魔法陣の雰囲気が違っていた。
恐る恐る発動してみると、ちゃんと結界が出来て、その中に無数の水滴が現れた。飛び上がって喜びたかったけれど、でもそこから水滴は何故か中心に集まらず、水の球になってくれなかった。
「イメージが偏ってるのかね・・・どうしてこうなるんだろう?」
水滴は宙を思い思いに動き回り、まるで小さなスライムが呑気に遊んでいるように見えた。首を傾げるアンナの前で、こうなった原因が分かっている私は顔が赤くなった。
「今は不完全だけど、どうだい?出来そうだろ?」
現象を明確にイメージするというほんのちょっとした事で、これまで出来なかった魔法陣の発動があっさり出来た事に驚いたし、それ以上に嬉しかった。
でも・・・
「この魔法は戦闘には使えないよね。」
それに気づいたら、嬉しさがシュンと引っ込んでしまった。
「戦闘には不向きだけれど、生活魔法としては便利だよ。」
それでも不満そうな私の顔を見て、アンナは笑って言葉を続けた。
「この魔法は水魔法の基本だから、まずは完全に発現できるようにするんだね。それが出来れば他の水魔法も扱えるようになるかもしれない。」
「水魔法で攻撃に使えるものはある?」
「そうだね・・・水魔法はどちらかと言うと防御寄りだろうか。例えば水壁は水の盾として使えて、火炎系魔法に対して絶対的な防御力を持つ。威力が上がれば竜のブレスだって弾くよ。」
竜と聞いて、私はアンナの顔をじっと見つめた。
「アンナは竜と戦ったことはあるの?」
「何度もあるよ。殆どが劣種のワイバーンだったけど、真種の竜とも何度か戦った。」
彼女の首から下がる金のプレートがきらりと光った。
「じゃあその時、ウォーターウォールでブレスも防いだの?」
「あぁ。なんと言っても、竜種のブレス対策としての常套魔法だからね。なんだい?竜と戦ってみたいのかい?」
厄災の竜を倒したい・・・
そうとは言えないから、また微笑んで首を傾げようと思ったけれど今はやめた。
「興味はある。だからその魔法、習得してみたい。」
するとアンナは探るような顔をしたけれど
「まずは基本となるウォーターボールを練習するんだね。そしてそれを無詠唱で発現すること。イメージが強ければ、それが直接、記憶の中の魔法陣と連結するから構築に言葉は要らなくなる。そしてイメージが強固なほど、攻撃や防御の威力は高くなる。」
そのために、私の得意な付与魔法、アンナの言う水の特性付与の魔法をどうやって発現しているか、改めて見直すようアドバイスされた。




