第二十四話 揺れる心(1)
これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗
これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。
次の朝、私たちはローゼンハイムの家を辞した。昨晩は、馬車でマリエラ様が言っていた通り屋敷に戻ると食事が用意されていて、その夕食を取った後そのまま使用人の部屋に泊まらせてもらった。
屋敷を出たその足で、私たちは依頼が無事に完了したことを報告しにギルドハウスへ向かった。
「ご苦労様でした。初めての依頼はどうでした?順調に終わりましたか?」
「特に問題なく終わりました。護衛対象のお嬢様も、危険な目に遭うこともありませんでした。」
それを聞いてラシーさんは嬉しそうに微笑んでくれた。
「今回の依頼の報酬は、明日にはお渡しできると思いますよ。」
そして私たちは翌日の朝、またラシーさんの所に来ることを約束した。
***
「なんだかすごく疲れちゃった。多分初めての依頼で緊張したんだと思う。今日は家でゆっくりさせて。」
ラシーさんへの報告後、エルにお願いして、私たちはそのまま貧民街の家に帰った。部屋ではベッドに寝転がって過ごしていたけれど、気が付くとどこかへ出かけたのかエルの姿が見えなくなっていた。
やがて、お昼を大分過ぎた頃に帰ってきた。
「どこに行ってたの?」
ベッドに寝ころんだまま部屋の入り口に顔を向けると、エルは紙包みを二つ持っていて、そのうちの一つを手渡してくれた。
良い匂いがする。
起き上がって包みを開くと、リトルボアの肉を挟んだパンだった。
以前、中央広場に続く路地でエルと並んで食べたリトルボアのパンだ。わざわざ広場まで行って買ってきてくれたんだ。
「ありがとう。」
そう言って頬張ったけれど、あまり食は進まなかった。
またベッドに横になって過ごしていたけれど、そのうちに寝てしまったようで、目覚めたら壁の隙間から西日が差し込んでいた。
エルは私の横のベッドの上に胡坐をかいて座っていた。時々視線をよこすけれど、ずっとそれに気づかないふりをして、彼とは反対側の壁を向いて冒険者見習いのプレートを手にとって弄んでいた。けれどやっぱり許してもらえなかった。
諦めて、真っ白なプレートを横に置き、仰向けになって天井を眺めた。そして昨夜の出来事をエルに話した。
城主の息子に会ったこと、そして帰りの馬車でマリエラ様が、その男が先の襲撃で厄災の竜を撃退したと言っていたことを伝えた。
そして私の心の内も全部話した。
朝から、城主の息子のことがずっと頭から離れなかった。あの男が一人で厄災の竜に立ち向かい、そして撃退したということは、相変わらず信じられなかった。
でも、もし・・・もしもそれが事実だったら・・・
あの男が竜と戦ったというのなら、その時、父さんと母さんは何をしていたんだろう?
本当にあの男が一人で退けたのだとしたら、あの日、父さんと母さんは竜と戦っていなかったという事になる。
今まで信じていなかった、いや、信じたくなかったけれど、父さんと母さんは本当に竜と戦う使命を捨てて逃げたのかもしれない。そしてあの役人が庭で断じた罪は、誤解ではなく事実だったのかもしれない。
あの男の話は信じられない、でも、もし本当だったら・・・朝から頭の中で、その考えがずっと堂々巡りしていた。そしてそれに連れ、父さんと母さんを信じてあげられない自分が悲しくて、胸が押しつぶされそうになった。
そこまでエルに話したら、その苦しさがまた蘇って、涙が目じりを伝い落ちた。
そして考えが、竜のことにも及んだことを話した。
父さんと母さんの遺志を継いで厄災の竜を殺すことは、まだ幼かった私たち姉弟が交わした約束だ。
竜がこの街を襲ったあの日、家族四人の幸せな生活は終わり、そして貧民として迫害される辛く苦しい生活が始まった。そしてあの約束は、私がその悲しみに押しつぶされないための縁となり、そしてこの生活を耐えるための寄る辺になった。辛い思いをする度に、竜を殺すことを思い抱きながらやり過ごして来た。
でも本当に竜を殺せると思っていたんだろうか?そして今も、殺せると思っているんだろうか?
もし父さんと母さんの罪が事実なら、その贖罪のために、私たちは本当に厄災の竜を倒さなければならない。もし倒せなければ二人の罪は贖われず、だから二人はずっと罪人のままだ。
でも私たちは今、どれだけ強くなったんだろう?今の私たちはどの程度の強さで、竜を殺すにはあとどのくらい強くならなければいけないんだろう?
もっと鍛錬を重ね、更に研鑽に励めば、私たちは本当に竜を殺せるんだろうか?そんな事、ちっぽけな私たちには不可能なんじゃないか・・・
これまで極貧の生活に耐え、人々の嘲りや侮蔑にも耐え、身を裂くような悲しみを押し殺して必死になって研鑽を積んできた。でもそれは無意味だったのかもしれない。空に瞬く星を取ろうと、ただ空しく宙を掻いていただけなのかもしれない・・・
話すうち、また心を不安が覆って、手の甲で口を押さえたけれど、我慢できずに泣き声が漏れた。姉の矜持なんて何処にも無くなっていた。
こんな風になったのは久しぶりだ。この家に来たばかりの頃は毎晩こうやって泣いていた。
それでもエルはあの頃と同じように、そんな私を黙って見守ってくれていた。




