第二十三話 城代様(1)
これまで書きなぐったものを垂れ流していましたが・・・いずれ機会があれば再編したいと思います。一旦、検索対象から外しました(汗
これまで読んでいただけた方が居られましたら、大変申し訳ありません。書いた分だけは投稿いたします。ありがとうございました。
一時間ほど馬車に揺られ、夜会の行われる屋敷に着いた。結局、ここまでの移動の間に襲撃は無かったし、害意を持った賊の気配も感じられなかった。
マリエラ様は馬車を降りると、団長と一緒に屋敷の中に入っていった。
ローゼンハイム家の護衛兵たちは屋敷周りを警備するようで、敷地内には入ってこなかった。私たちは馬車から降ろされ、どうしたらいいか戸惑っていると、ローゼンハイム家の伝令の兵士が来て門近くで待てと言われた。
「このあと別の兵団が来るので、そちらの指示を仰ぐように。」
そう投げやりに言われたので、しかたなく門番の詰め所に行くと、中には平服を着た年配の男がいて、恐縮して私たちに椅子を用意してくれた。
しばらくすると馬の嘶きの声がして、30騎ほどの騎兵に守られた馬車が入ってきた。
「鎧に紋章があるね。貴族かな?」
馬車の前後を守る兵士達の鎧には、胸に彩色を施された紋章の装飾があった。
「この街の貴族は城主一族だけだ。でも城主の紋じゃない。」
馬車にも同じ紋章が金泥で大きく描かれていて、屋敷の車寄せで止まると、中から白いタキシードを着た、背が高く遠目に見てもがたいの良い男が屋敷に入って行った。
騎兵たちの馬は屋敷の馬丁たちに裏に連れて行かれ、残った兵たちは2、3人単位で屋敷の周りに散らばって行く。
司令官らしき将兵が、手にした紙を見ながら兵士たちに指示をしている。私たちはその将兵のところに向かった。
「冒険者ギルドの者です。屋敷の警備にあたるようローゼンハイム様から申し付けられています。」
識別表を見せると、彼はそれをじっくり確認した。
「見習い?・・・」
一瞬怪訝な顔をしたが
「・・・そうか、ご苦労。何にしても人手が足らん。警備に回ってくれるというなら、君たちは・・・」
手に持ったこの屋敷の見取り図を示しながら
「ここと、ここに使用人が使う通用口がある。そこで人の出入りを確認してくれ。会談はすぐにも始まるかもしれない。とにかく今すぐ向かってくれ。」
私たちの持ち場を指示すると、司令官は隣で待つ兵士に向き直って報告を聞き始めた。
私たちもちゃんと戦力として扱ってくれて、貴族の私兵は横柄なのだとばかり思っていたけれど、この人はそうではないようだった。私たちは礼をして下がり、指示された通用口に向かって歩き出した。
会談というのが何なのかよくわからなかったけれど、夜会というのになぜこんな昼間に屋敷を訪れるのか不思議だった。きっとその理由が、その会談というものなんだろう。
それよりも、警備といっても、その通用口で具体的に何をしたらいいんだろう?エルの持ち場は屋敷の反対側で、この先でもうすぐ彼とは別れてしまう。
「ねぇ、人の出入りってどうやって確認するの?」
「通用口から入ろうとする奴に名前とか役職とかを聞けばいい。」
「入ろうとする人全員に?」
「全員だ。」
「でもそれで怪しい人ってどう判断するの?」
「姉貴が聞くか?姉貴なら気配でわかるだろ?」
「そうだけど・・・じゃあさ、もしも・・・」
そこでエルは私の腰をポンポンと叩くと、分かれ道を曲がって行ってしまった。
もう少し話を聞いてくれるだけの時間は確実にあったはずなのに、その後ろ姿を睨んでから、私もエルと反対方向に道を曲がった。
その通用口では、使用人達が次々と忙しそうに出入りしていて、声をかけられる雰囲気ではなかった。でも胸の登録証を握って深呼吸してから、通用口に向かって歩き出した。
***
日が落ちてから夜会が始まったようで、上の階から優雅な音楽が聞こえて来た。それからもうだいぶ時間が過ぎたけれど、その間にここを出入りする人は居なかった。
新月の夜で、明かりは通用口の扉の上に掛かる外灯のみ、二階に大きな広間があるようで、そこで多くの人の気配がするけれど、屋敷の裏手に人はおらず、明かりの点いた窓もなかった。
常に気配を探りつつも、夜空の星座を目で追ったりしていた。
でもさっきから気になる気配があった。おそらく男女二人、こちらにゆっくり近づいてくる。害のない人たちみたいだけれど、このままだとこの前を通る。もしも夜会の参加者だったら、身分を聞いたりしたら怒られそうだ。
もうその男女の声がすぐ近くに聞こえてきて、私は置物のように気配を無くした。
「ん?なんだ、お前は!」
真っ白なタキシードを着た男が、外灯が照らす明かりの中に入って来て、私を見つけて驚いた声を上げた。
「驚いた。人がいるとは気づきませんでしたわ。」
女性も口を扇子で隠しながら驚いている。男が守るように前に出て、その女性を振り返った。
「何、ご心配には及びませんよ。おい、お前、何者だ?俺が誰か知っての狼藉か?」
酒の匂いがすごい。だいぶ酔っているようだ。
「驚かせてしまい申し訳ありません。この屋敷を警備する者です。」
「何?警備?・・・おぉ、そうか、それはご苦労。」
そう言うと、再度女性を振り返った。
「ちょっとこの者と警備体制について話がありますので、少しここでお待ちを。」
そう言うと、ちょっと来い、と言って私を通用口の扉の脇に立たせ、耳に口を寄せて小声で言った。
「ちょうどいい、お前、使用人の部屋でいいから、どこか寝床のある部屋へ案内しろ。」
思ってもみなかった要求に私は慌てた。
「・・・申し訳ありません、この家のものではないので、ご希望には添えかねます・・・」
「では今、そこから入って探してこい。」
そう言って目の前の扉を指差した。そして、いきなり私の肩に腕をまわし、体を押し付けてきた。
「銀髪の女か、俺の好みだ。」
そして横から私の顔を覗き込む。
「良いか?首尾よく部屋を見つけて来られたら褒美をやろう。あの女の後でお前も抱いてやる。それで子でも成せば、お前は一生贅沢をして暮らせるぞ。」
その瞬間、私はまだ冷静だった。子を成せば、なんて、まるで貴族の台詞みたい。でも僅かに顔を横に向けたとき、体が凍りついて芯から震えが来た。
外灯に照らされた男の顔が目の前にあった。歳は30前半だろうか?赤みの濃い金髪に、ターコイズのように鮮やかな青緑の瞳、力強い鼻筋が外灯の明かりで濃い影を作っていた。
その英雄然とした整った顔が、脂ぎって欲望を剥き出しにした下卑た笑い顔をして、私の瞳を覗き込んでいた。




