第二十一話 団長(2)
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「こいつらが例の冒険者か?」
しばらく経って周りを取り囲む者たちが大方掃けてから、団長がようやくセバスさんに言葉をかけた。
「はい。お嬢様の命により、この者たちをここへ連れてまいりました。」
「名は?」
そう問われ、セバスさんが礼をしながら私たちを振り返る。
「ローグタウン冒険者ギルド中央支部から派遣された、冒険者見習いのリズとエルです。」
私は一歩前に出て名乗りを上げた。
「冒険者風情の、しかも見習いだと?・・・それも片割れは女か・・・」
そう呟いてセバスさんを睨んだ。彼の敵意が思いがけなくて、私はたじろいで咄嗟に目を伏せた。
「それに聞いている。素性は卑賤な身分のものだそうではないか。」
そう言うと、忌々しそうな顔をして続けた。
「先日、我が兵団が不覚を取った敵を倒したと報告を受けたが、そんな身分の、剣の道もろくに知らん素人どもが賊を倒せるとは到底思えん。」
「それについてはお嬢様自らが目にしておられます。それに私も、このお二人は確かな実力を持った剣士だと思っております。」
「お前の意見など聞いておらん。」
そこで団長は初めて私たちを見た。
「大した腕でもあるまいに、何故お嬢様は・・・」
そう独り言を言うと、いきなり立ち上がった。
「よし。おまえらをお嬢様の近くに置く価値があるか、俺が直々に見てやる。十分後に裏の鍛錬場に来い。」
その言葉を聞いて、彼の隣にまだ残っていた官吏が青い顔をした。
「団長、でもこの書類を・・・」
すると団長は彼を鋭く睨んだ。
「後にしろ。」
官吏は、今度は青を通り越して真っ白な顔をして、礼をして後ろに下がった。そして団長は、そのまま大股で部屋を出て行った。
***
セバスさんに連れられて裏庭へ出ると、そこにはギルドハウスの地下にあるような丸く囲まれた鍛錬場があった。ただそこを仕切るのは背の低い土壁で、広さは中鍛錬場と同じくらい。ギルドのそれと同じ結界が張られているようだ。
「あの・・・これから何をするんでしょう?さっきの団長様とここで戦う、ということですか?」
「どうもそのようになりそうですね。」
セバスさんは腕を組んで鍛錬場の中を見ていた。
「あなた達については、この家から正式に依頼を出しています。ですからここでどんなことになっても、今回お嬢様の護衛をしていただくことに変わりはありません。」
そう言って笑顔を向けてくれたけれど、その表情には困惑の色が見て取れた。
「団長様はどんな方なんですか?」
「悪い方ではありませんよ。とても真面目で、真っすぐな方です。」
「でも、私たちのことを認めていなくて、お嬢様が雇ったことを面白く思っていない、ということですね?」
「えぇ、それにあなた達があの襲撃者たちを倒したことも、きっと面白く思っていないのでしょう。もしかしたら、それが嘘ではないかと本気で疑っているのかもしれません。」
そう言ってから、セバスさんは穏やかな顔で私たちを見た。
「ですから、お二人の剣の腕を見せて差し上げれば、問題はすぐに片付くと思いますよ。」
そこで私は、さっきからどうしても気になっていたことを聞いた。
「あの・・・戦ったとして、勝っても良いものなんでしょうか?」
するとセバスさんは微笑んだ。
そこへ団長が一人で入ってきた。マントは脱いでいて腰に長剣を佩いている。
私は今の問いに対する答えが知りたくて、セバスさんの顔を覗き込みたかったのだけれど、団長がズカズカと私たちに向って歩いて来るから許してもらえなかった。
「俺にお前たちの腕を見せて見ろ。」
私たちの前に立つと
「おまえ、中に入れ。」
そう言ってエルを指さした。
”まずい・・・エルだと相性が悪い・・・”
彼を戦わせたくなくて、私はエルを睨む団長の横顔に向かって恐る恐る声をかけた。
「あ、あの・・・お相手なら私が・・・」
すると団長は驚いたように私に顔を向けると、それからバカにしきった表情になって嗤った。
「相手?ベッドの上なら許してやるが、鍛錬場で女と戯れる趣味はない。」
一瞬何を言われたのか分からなくて団長の顔を見つめていたけれど、直ぐに私は俯いて顔を赤くした。
彼らは鍛錬場の中に入っていき、私とセバスさんはそれを入り口で見守った。
そこに入る前、エルはローブを脱いで私に預けた。
「ローブで剣を隠したら、あの団長、正々堂々と戦えとか言ってブチ切れそうだ・・・」
小声で言うエルに、私は気の毒そうな顔をして頷いた。
後ろの通路を兵士たちが行き来しているけれど、団長とエルを一瞥するだけで、足を止める者はいなかった。団長がまたやってる、という感じで、日常的な風景なのだろう。
団長が長剣を抜くと、その剣の美しさに目を奪われた。
「奇麗な剣・・・」
「あの剣はミスリルです。」
ミスリルは、他のどんな金属よりも硬く、しなやかで軽いと言われる最も貴重な金属だ。その名前を聞いたことはあったけれど、見るのは初めてだった。澄んだ灰色の鏡のように奇麗な刀身、そしてその剣そのものが、独特な存在感を放っていた。
流石にローゼンハイム家の護衛兵団長ともなると、扱う武器も高級なものだと感心したけれど、でもその剣を団長が構えたとき、それが単なるステータスや恰好付けのためではないことが分かった。
団長は高い技量を持っていて、その技を遺憾なく発揮するには、ミスリルほどにしなやかで強靭な獲物でなければならない、その事が剣を構える彼の気配から理解できた。




