第二十話 重来(2)
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「いいか、女相手でも手加減するな。必ず気絶させろよ。」
カイエンが命令する。隣のヴェルテがロープを手にしているから、結界の中で致命傷を負わせ、気絶したところを捕らえるつもりなんだろう。
「手早く済ませろよ。あのとんがり帽子のババアに見つかったらヤバいことになる。」
ババ・・・そのキーワード自体がかなりやばいと思うけど・・・兎に角、私を人質にしてエルに何か無理を要求する腹積もりのようだ。
”つまり、エルより私の方が弱くて下しやすいと思っている訳だ。まぁ、間違ってはいないけど・・・”
でも馬鹿にされたようで腹が立った。対人戦では基本、ローブで剣を隠して戦うのだけれど、一切の小細工なしで当たってやろうとその場でローブを脱いだ。すると私を囲もうと近づいてきていた男たちが足を止めた。
「黒いローブの下も真っ黒なのかよ・・・」
「どんだけ黒が好きなんだ。」
彼らの憐れむような視線を浴びて見る見る顔が赤くなったのが分かった。黒ずくめが可愛く無いことを、私だってずっと気にしてたのに・・・もう許さない!
「やぁっ!」
隣で間抜けな声がしてから剣が振り下ろされてきた。そこにプレートアーマーが居るのは分かっていたけれど、その剣筋がここまでへなちょこなのは意外だった。その場で体を少しずらしてその剣を避けると、そのまま左手を柄頭に添えてレイピアで胸を素早く突いた。プレートを貫く一瞬だけ気力を纏わせたけれど、一瞬過ぎて周りにそれは見えなかった筈。
プレートアーマーの男は胸に手を当てて、呻きながらその場に倒れた。
”大丈夫、致命傷を負わせても死んでない。本当にただ気絶するだけだ”
ヴェルテの誘いに乗ったもう一つの理由は鍛錬場で模擬戦をすると言ったから。相手が死なないことを確認できた今、もう何の遠慮もなしに叩きのめすことが出来る。
「おいっ!こいつ、プレートアーマーを貫いたぞ!」
男たちは、自分たちの重装備が私の剣の前で無力だと知って動揺した。
それからは全く戦いにらなかった。まだ大勢いるのだから連携して動けばいいのに、私の動きを呆然と眺めながらその場に立ち尽くしている。そして目の前に走り込まれてはじめて、慌てて剣を構え、反撃できても雑な剣を振るうばかり。重装鎧でも革なら気力を使わなくても貫くことが出来るから、簡単に胸を突かれて次々昏倒していった。
一分も経たず、気が付いたら立っているのはプレートアーマーの二人だけ。金属鎧は貫くのに気力がいるけれど、慎重にそれを隠さなければいけないから最後に残していた。けれど、体を落としてその一人に向けて走り込もうとしたら
「うあぁぁ!」
叫び声をあげて、カシャカシャと金属の擦れる音を立てながら二人とも鍛錬場の外へと逃げて行ってしまった。倒した相手は殆どがFランクだったけれど、紫のEランクのプレートを下げた者もいて、駆け出しを卒業したとされる冒険者でもこの程度なのかと、ものすごく意外に思った。
レイピアを鞘に戻すと、鍛錬場の中心に脱ぎ捨てられたローブを拾い、砂を落としてゆっくりとそれを纏った。
板壁の外に出ると、残りの冒険者たちは後ずさって私を遠巻きにした。でも怪物を見るような視線を向けられるのは、それはそれでちょっと傷つく。あんた達が弱すぎるんでしょ!そう言ってやりたかったけれど、それを口にする代わりに小さなため息で済ませた。そのまま立ち去りたかったけれど、せっかくなのでもう一つダメを押す事にした。
真っすぐカイエンの前に歩いて行くと、隣のヴェルテは血相を変えて逃げていって、私の前は恐怖で顔を引き攣らせた彼だけになった。
その目をじっと見つめながら、そこで何を言おうかハタと考え込んでしまった。何か怖がらせるような殺し文句を言って、この後ちょっかいを出さないようにしなければいけない。でも今までずっと脅される立場だったから、逆に脅す立場に立ってみたらどうしていいか分からない。
「あなたは模擬戦には加わらないの?」
迷った挙句、何となく疑問に思っていたことを口にしてしまった。私たちのことを疎ましく思っているのなら自分で叩きのめせば良いのに。でも返事は無い。私たちと直接剣を交えるつもりは無いようだ。
「・・・せっかく立派な鎧を着ているのに。」
煌びやかな胸当てを見て素直な感想を言ってから、また彼の顔に目を戻してみたら赤黒い顔で憤怒の形相をしていた。怒らせてしまったようだ・・・
こちらは冷汗をかきながら内心焦りまくっていたのだけれど、考えてみれば私の言葉は、自らは手を下さない卑怯さを揶揄したとも取れる。カイエンの怒りの訳を一人で納得して、でも今更どうしようもなく、せめてこちらの狼狽を悟られぬようにと必死で無表情を装いながらそのまま地下室の出口へ向かった。
ホールへ戻ると、受付前の行列はまだ半分ほどしか掃けていなかった。エルの隣に腰を下ろしたけれど何も聞いてこなかったし、それに取り立てて話すことも無かったから何も話さなかった。やがてラシーさんの前の行列が無くなったけれど、階下からカイエンたちが上がって来ることは無かった。
「お待たせしました。そういえばさっきリズさん、冒険者の方達と下へ行ってたみたいですけど、お友達になれましたか?」
私たちが地下へ行くのを見ていたようだ。でもきっぱりと首を横に振ったら不思議そうな顔をされた。
「そうですか・・・あぁ、それはそうと、今日はニュースがあるんですよ!」
ラシーさんは嬉しそうに言うと、カウンターの下の引き出しから一枚の封書を取り出した。
「お待ちかねの指名依頼です!」
そう言って私たちの前に掲げて見せた。それは鮮やかな赤い封蝋で封じられていて、そこにはローゼンハイム家の紋章が押されていた。
明日、マリエラ様がある家で執り行われる夜会に参加する。依頼の内容はその家までの往き返りの護衛、そして夜会が行われている間その屋敷を警備する事。その封書には、明日の朝ローゼンハイムの屋敷に二人で赴くようにとセバスさんの名前で指令が書かれてあった。




