第十七話 魔術師アナベル(2)
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女性も無言のまま、暫く私たちを見つめていたけれど、やがて短くため息をついた。
「おまえ達ならあんな奴、伸すのは訳無かった筈だ。あんた達の気配を観れば相当のやり手だって分かるし、何より力を持ってる。恩寵の力をね。」
それを聞いてエルが身構えた。その事はギルドでも内緒にしていたから。
「警戒しなさんな。」
すると女性は即座にエルを嗜めた。私たちの心を見透かしているようだ。
「いくら隠したって、見る者が観ればすぐ分かるさ。まぁ私の場合、知り合いに同じ力を持っている奴が居たから分かったんだけどね。」
そう聞かされて驚いた。隣のエルも顔を上げて彼女を見たのが分かった。
今まで、父さんとエル以外に恩寵を与えられた人に会ったことは無い。
街を歩く人の中にも、森で戦った狩人や盗賊達の中にも、私たちと同質な力を持った人など居なかった。だから私たち以外にも恩寵の授与者が居るなんて考えたことも無かった。
その知り合いについて色々聞きたいのだけれど、二人ともそれを言葉には出来なかった。
私には、よく知らないこの人に話しかける勇気は無いし、エルは力の事を見抜いたのを相変わらず警戒している。
「話が逸れたね。とにかく・・・」
そんな私たちの逡巡にも気づいていそうだけれど、女性は構わずお説教を続けた。
「さっきみたいな奴らには持ってる力を全て使って手向かいな。そうすれば、自ずとああいう手合いは近づかなくなる。」
彼女は机に身を乗り出して、私たちに顔を寄せた。
「間違っても、敵の前に進んで膝を着くような真似をしちゃダメだ。手向って抗って、そして全力で戦いな。あんた達の力を見せつける事が、あんた達自信を守ることになるんだよ。」
責められるのだと思っていたら思いがけずに諭されて、彼女を盗み見たら、その目には相変わらず怒りが湛えられていたけれど、でもそれは私たちにではなく、私たちに降りかかる理不尽に向けられているのが分かった。この人は正しい人なんだと思った。
でもその目がまた厳しくなって、向かいに座る私たちの顔を忌々しそうに睨んだ。
「それでそのフードだ。力を誇示しなきゃいけないあんた達が顔を隠してどうするんだい。今すぐ脱ぎな!」
急に強い口調で命令され、慌ててフードを外した。なんだか、武器屋の店主にどやされた時のことを思い出した。
すると女性は目をまん丸にして私を見て、そして遅れてフードを外したエルを見て、更にその目を大きく見開いた。
「これは・・・ラシーヌも言ってなかったね。」
そう言って、苦い顔をして額に手を当てた。
「目立つね、その髪と瞳は・・・まぁ、なんでフードなのかは理解した。」
それでもだ、そう言って女性は、また手を組んで私たちに顔を突き出した。
「あんた達の力もそう。その容姿もそう。厄介事を招くのは必定だ。でもそれを恐れて一生隠して通すのかい?それより、堂々と表に晒して戦いな。明るいところで真っ当に生きたかったら、それ以外に道は無いよ。」
マスクまでは取らなくていいから、ギルドハウス内ではフードは外しな、その場で彼女からそう言い渡されて、それに頷くしかなかった。
***
「アナベルさん、こちらにいらしてたんですか。」
女性のお説教はまだ続きそうだったけれど、ちょうどそこへ、朝の受付業務が一段落したラシーさんが来てくれた。私はほっとした顔で彼女の顔を仰いだ。
「こちらのお二方と、もうお会いしてるとは思いませんでした。」
「あぁ、さっきたまたまギルドハウスの入り口で拾ったのさ。」
でもあの騒動の事は何も言わないでくれた。
「すぐにこのお二方だと分かりました?」
「あぁ。こんな気配を纏った子供なんて、そうそう居ないよ。」
そしてラシーさんは女性の隣の席に座ると
「お二人にこちらの方を紹介したいんですが、ちょっとその前に・・・」
そう言って、手に持っていた金属製のプレートを女性に手渡した。それは金色の識別標だった。
「再発行しておきました。でもあんまり無茶はしないでくださいね。」
「無茶はしてない。前の街でコカトリス討伐の依頼を受けたんだが、奴らの気を引こうとこのギルドタグを投げつけたんだ。あいつら金が好きだからね。そのまま魔法で焼いてやったらタグまで溶けちまった。ただそれだけの事さ。」
女性はそう言いながら手渡された識別標を首にかけた。そんな彼女の言葉に苦笑いしながら、ラシーさんは女性を紹介してくれた。
「こちらはアナベルさんと言います。とても優秀な魔術師様で、Aランクの冒険者様なんですよ。」
金色のプレートなんて初めて見た。この人がAランク、最高峰の冒険者なのかと思ったら、警戒は緊張に変わってしまった。
掲示板でコカトリスの討伐依頼書が貼ってあったけれど、危険度クラスはBだっただろうか?そんな危険な魔物を倒してしまうなんてすごいと思ったけれど、確かに、ついさっき見せつけられた彼女の魔術の技量とその苛烈さは、並の魔術師のそれとは違っていた。
「アナベルさんが昨日、久しぶりにこのギルドハウスにいらして・・・そしたら、しばらくこの街に滞在してお仕事をされるという事だったので、あなた達の事をお話ししたんです。」
そう言って隣に座る女性を見た。
「お二方と、お話をされてたんですか?」
「あぁ、少しね。でも私が一方的に話しただけだよ。」
「じゃあ、昨日の件はまだお話しされてないんですか?」
「あぁ、まだだ。」
アナベルと呼ばれた女性は、腕を組んで私たちを見据えた。




