第十五話 装備の新調(3)
戻ってきたとき、店主は腕にニ人分の装備を抱えていて、それをカウンターの上に並べだした。
タイツの上下とシャツ、それと私にはショートパンツ、エルには半ズボン。
防具はグローブ、肘当て、膝当てに胸当て。私の胸当ては、ちゃんと胸のふくらみに沿う形になっていた。
靴は膝下までのブーツ。店主はその靴底を私たちに見せた。
「お前たちの靴底はエッジの摩耗が有り得ない程激しかった。でもこいつの靴底には、ほら、これ。」
靴底の、馬蹄のような形の黒い金属を指でなぞった。
「アダマンタイト鋼が打ってあってな。それにほら、鋼に溝が掘ってあるだろ?これでエッジが効きやすくなってる上に、摩耗もかなり抑えられる。」
そう言って、私たちにそのブーツを渡してくれた。
更衣室でそれらを装着してから店主の前にまた座らされ、そこで私は一番気になっていたことを恐る恐る聞いてみた。
「あの・・・これ、どうして全部真っ黒なんですか?」
革の軽鎧一式に、タイツ、シャツもパンツも、その上ブーツまで全部真っ黒で、装備し終わった私たちの姿は、誰かの影かと思う程に黒かった。
「あぁ?そりゃおまえ・・・」
店主は、何をつまらんことを、という顔を向けた。
「ローブとマスクが黒だったし、黒が好きなのかと思ったんだが?」
いえ、そんなに好きなわけじゃないです、と言いたかったけれど言えない。折角機嫌がよくなったのに・・・
でも、ふと横の陳列棚を見ると、若草色の革の胸当てが飾ってあった。可愛い色だし、今着ているものと形もそっくりだ。
「あの・・・あれと交換できませんか?」
その若草の鎧を指さすと、店主はあきれ顔で言った。
「見て分からんか?あれは男もんだ。おまえ、締めつけすぎると大きくならんぞ。」
何が大きくならないのかピンと来なかったけれど、店主は、それにな、と言って顔を寄せてきた。
「男ものを着て無理に締めつけ過ぎるとな、下手すると左右で大きさが違って来ちまうそうだぞ。」
そう言って両手を胸に置き、片手で大きな、そしてもう一方で小さなお椀を作って見せた。
「これでいいです。」
私は即座に今着ている装備に決めた。
それから、店主が鎧やブーツの具合を見て、脱がされて色々な器具で調整を入れ、また着せられては脱がされて・・・を何度も繰り返した。
そうして仕上がった装備は、体にぴったりフィットして動き易く、そしてすごく軽かった。これなら今まで以上の動きが出来そうだ。
最後に、私は剣を腰に、エルは短剣を後ろ腰に差した。エルのソードベルトも新調したけれど、短剣を納めるサックだけは前の物を使った。
店主は私の腰の剣を見て言った。
「お前、獲物はレイピアだろ?そしたら左手が開くよな。なら左に何か持ったらどうだ?スモールシールドもいいし、相棒のような短剣でもいい。」
その話を聞いて、左手用の手甲が見たいと言ったらいくつか持ってきてくれた。
その中から、今日あつらえてもらったグローブの上から装着する、手の甲と指の背を金属で覆うものを選んだ。
「材質はアダマンタイトだ。これなら相手の斬撃も、少なくとも数発は直接受け流せる。薄いからそれ以上の耐久は無いけどな。」
でも私は別の使い方を考えていた。
この手甲は金属なので気の力をよく纏うはず。エルは風の気力の盾を使うけれど、この手甲を使えば、水の気力で同じような盾を作れるんじゃないか、そう考えてこれを選んだ。今度試してみよう。
「もしも魔法の裁縫師と知り合いになったら魔法を付与してもらえ。この装備では魔法耐性が無いから、付与魔法でそこを補ってもらうしかない。」
裁縫師の中には、数は少ないけれど、金糸を使った魔法陣の装飾で、服や革鎧に魔法を付与する技術を持った職人がいるそうだ。
「普通の裁縫師だと金の糸で縫っただけの飾りにしかならないが、魔法の裁縫師なら魔力を練り込みながら縫うから、常時発動するパッシブ魔法の魔法陣になるんだ。でも、この街に常駐してる魔法の裁縫職人の話は聞かない。だから、そういう技術を持った職人がこの街に立ち寄るのを気長に待つんだな。」
最後にそうアドバイスしてくれた。
「お前らの装備の今の状態が俺の最善だ。死線を潜って生き残ったらその度に店に来い。調整はただでしてやるから。」
その言葉にお礼を言おうとしたら、もういいから早く帰れ、といきなり興味を失ったような顔で追い出されてしまった。




