第十五話 装備の新調(2)
セバスさんのメッセージによると、マリエラ様の護衛任務に就く前に、彼女に失礼の無いよう私たちの装備を整えておくように、との事だった。
確かに、今の装備は谷で拾ったみすぼらしいものばかりで、身分ある人の目に触れさせられない代物だ。
セバスさんからは、指定された武器屋で装備を調達するよう指示があった。
「でも私たち、装備を新調するようなお金を持ってませんが・・・」
「それは大丈夫です。支払いの請求はセバスさんの所に行くそうなので、あなた達はその防具屋さんへ行って、装備を選んでくるだけで結構です。」
そう言って、その防具屋の場所を詳しく教えてくれた。
「あの・・・私たち、今までありあわせの物を使っていて・・・だから装備についてあまり詳しくないんですが・・・」
すると、ラシーさんの目がきらりと光った気がした。
「お二人とも敵の攻撃を避けて懐に入るというスタイルですよね。それなら装備は、防御力より軽量で動きを阻害しないこと重視でしょう。そうなるとライトアーマーの一択でしょうかね?」
ライトアーマーは要所だけを守る軽鎧で、全身を隙なく守るヘビーアーマーより防御力は落ちるけれど、格段に軽くて動きやすいそうだ。そんな説明を淀みなくしてくれるラシーさんの姿を、私は内心驚きながら見ていた。
昨日はフレイムスライムの詳しい説明をしてくれたし、魔物の知識も豊富そうだ。それらは受付として冒険者のサポートをするために蓄積した知識なんだろうけれど、それにしても彼女は、冒険者のサポートを単なる仕事というより使命としてとらえているように感じた。
「とにかく、店主さんとよくよく相談して決めてくださいね。」
最後にそう言って、彼女は私たちを笑顔で送り出してくれた。
***
その店は賑やかな商店街の中にあった。周りのお店の店先には様々な商品が並べられ、道行く人がそれらを手にとっては店主らしき人と談笑している。
でも指定された防具屋はとても簡素な佇まいで、入り口は無骨な樫の扉、そしてその横に鉄製の突き出しの看板がかかっているだけだった。看板には一方の面に盾が、裏にはとさかのついた兜鉢が描かれていたけれど、ここが防具屋と知らなければ素通りしてしまいそうだ。
店の中に入ると小柄な店主が迎えてくれた。
背は私より低く、ずんぐりとして小太りに見えるけれど、作業着から覗く太い腕はムキムキの筋肉質で、全身が筋肉で鎧われているのが分かる。真っ黒な髪と口ひげのおかげで若く見えるけれど、目じりのしわがそれなりの齢を重ねた人であることを物語っていた。
「あの・・・私たち、ローゼンハイム家の執事長のセバスティアン様から、こちらのお店へ来るよう指示を受けたんですが・・・装備の新調の件で。」
「あぁ、セバス様から聞いてるよ。」
店主は私たちを店の奥に手招いた。
店の中は、両側にスタンドに飾られた様々な材質の鎧が並べられていて、その間を進むと奥にカウンターがあり、その前は開けたスペースになっていた。
店主はそこに丸椅子を二つ並べた。
「ローブを脱いで座んな。」
言われるままに、ローブを脱いで座ろうとすると
「おい、ちょっと待て!おまえたち、なんだその装備は!?」
そう言って私たちの姿に目を剝いた。
「いくら見習いだからって、お前たちの出で立ちはなんだ?まるでゴミ捨て場から拾ってきたような装備じゃねぇか!」
店主は怒気を露にしていて、はい、拾ってきました、とは言えそうにない。
「装備に命を守ってもらうっていうのに、いくらなんでも無頓着が過ぎねぇか?どこまで素人なガキ共なんだ?」
店主は怒った顔で二人を睨んだ。
「・・・ん?」
でも探るように私の瞳を覗き込むと、おもむろに手を取ってグローブの手の平をじっと見つめた。
「ほう・・・」
そう声を漏らす店主の顔を恐る恐る盗み見ると、何かに感心するような顔をしていて、さっきの怒りは少し影を潜めていた。なぜ機嫌を持ち直したのか分からなかったけれど、ホッとしかけたとき、店主が私のその右手をひっくり返した。そして店主も私も、はっと息を飲んだ。計らずも同じ動作をしたけれど、店主のは驚きで、私のはヒヤヒヤしての事だった。
グローブの大きく破れたところから指の背が見えていた。恐る恐る店主の顔を見ると、苦虫を噛み潰したような顔で睨まれていて、さっきの怒りが復活していた。
それから店主は、明らかに不機嫌なまま胸当ての肩や背中を叩いたりしてなにやら確認し出し、その怒気に当てられた私は、立ったまま成すがままに任すしかなかった。
「・・・いや、このふざけた装備の割にゃ、お前さん、やり手だな。兄ちゃんも同じ軽戦士か?」
軽戦士とは、軽く素早い身ごなしで敵の攻撃を回避しつつ一撃を入れるスタイルの戦士を言う。店主は私の貧相な装備を少し見ただけで戦い方を見抜いてしまったようだ。
まぁ良い、座れ、そう言って私たちを丸椅子に座らせた。
「両手を上げろ。」
言われた通りに手を上げると、改めて胸当てを凝視しながら私たちの周りを歩きだした。
「ほう、こんなところに皴をこしらえるのか・・・どんだけ体をひねるんだ?」
そんな独り言をブツブツ言っている。
それから丸椅子をもう一つ出すと、店主は私の前に座り
「靴底を見せな。」
そういって足を上げるように言った。
でもその顔をただじっと見つめ返していると、店主は”早くしろ”という視線をよこした。私は観念して、目をつむりながら店主の前で足を上げたら・・・案の定だった。
「おい、貴様、なんだこのブーツは!靴底に穴が開きかけてるだろ!鎧はともかく、跳んだり跳ねたりするのが生命線なお前が、穴の開いたブーツを履いててどうするんだ!」
青筋を立てて怒鳴りだした。すぐ脱げ!そう言われて私は慌ててブーツを脱いだ。エルの靴底を見終わっても、店主はまだ怒りが醒めやらない様子だったけれど
「装備について何か要望があるか?」
明らかに怒った顔を向けて私に聞いてきた。
いえ、特にありません、と言いかけたけれど、それはきっと、ものすごく怒られるパターンだ。どうしようかと困っていたら、ラシーさんの言葉をふと思い出した。
「ら・・・ライトアーマーで・・・」
「あぁ、レザーライトアーマーか。まぁそうなるよな。お前たちの体の作りを見れば、相手の攻撃を避ける事を基本にしてるのが分かる。そうすると中途半端に防御力を稼ぐより、思いっきりお前たちの速さを生かす方に振り切った方がいいだろう。」
店主がラシーさんと同じことを言うのに驚きつつ、彼の機嫌が少し良くなったみたいですごくホッとした。
ちょっと待ってろ、そう言って店主は奥に引っ込んだ。




