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鉄屑拾いの剣姫  作者: エビマヨ
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第十五話 装備の新調(1)

 次の日、久しぶりに谷で気術訓練をして、そのまま中央支部のギルドハウス、通称“中央”へ向かった。セバスさんにもらった黒のローブを着ていたけれど、北の城門でギルドの識別標を見せたら何も言われなかった。


 北部までの道のりに比べ、中央までの距離は倍以上になった。けれど、今までのような裏路地ではなく街路を歩いたら、人通りが比較的少ない路を選んだので多少遠回りにはなったけれど、人々の靴で僅かずつ削られ続けた滑らかな石畳は、思った以上に歩きやすく寧ろその道程は楽になった気がした。


 フードで顔を隠して鉄屑を満載した籠を背負う姿に、すれ違う人たちは怪訝そうな目を向けたけれど、その視線には、昨日までの貧民のローブを身に纏っていた時ほどの強い悪意は載せられていなかった。



 ギルドハウスに私たちが着いたとき、昨日よりも時間が早く、中は厳つい冒険者たちでごった返していた。彼らはラシーさんが言っていた争奪戦でもぎ取った依頼書の受注を完了するため、受付カウンターの前で列を作っていた。


 カウンターの中にはラシーさんもいたけれど、その前にも冒険者達が列をなしている。


「ラシーさんの前の行列がなくなるまで、みんなの邪魔にならないようにここで座って待ってよう。」


 入り口脇の壁際に籠を置いて蹲ると、エルも私の隣に腰を下ろした。


 フードで隠れて見えないけれど、エルは蹲って目を閉じているようだ。私は昨日貰ったばかりの真っ白なプレートを弄りながら、ラシーさんの前の行列が掃けるのを待った。


 そんな二人を怪訝そうに見る冒険者もいたけれど、殆どが気にすることもなく通り過ぎて行った。



 ラシーさんの列の最後の冒険者達が笑顔を見せながら立ち去った後、彼女のところに行くと今日は指名依頼は来ていないと告げられた。


 昨日、ギルドハウスを辞す際に、セバスさんやローゼンハイム様からの連絡は、専属受付である彼女が窓口になって取り次ぐ事を申し出てくれていた。


「ところで、その資材は売却をご希望ですか?」


 背中の籠を見た彼女は、私たちを奥の事務所へ連れて行き、そこでメガネを掛けた査定官を紹介してくれた。


 ラシーさんから話を聞いた彼は、二つの籠から鉄屑を一つ一つ作業机の上に取り出しては、査定してその場で値をつけていった。


「ほう、これは高純度のアダマンタイトですね。砕けた斧の一部でしょうか?重さを計ってみましょう。」


 純度の高い希少金属は、鋼に練り込んで、より安価だけれど汎用的な武器、防具に鍛え直したりするそうで、欠片程の大きさの物であっても需要は高いのだそうだ。査定官は、手にした金属片の汚れを布で落として計りに乗せた。


 こうして、二人でこの早朝に集めた資材は、手数料を引かれても合わせて銀貨一枚に小銀貨ニ枚で買い取ってもらった。北部での買い取り額は二人で銅貨十枚、つまり小銀貨一枚で固定だったから、それはこれまでの十二倍の額だった。


 今まで、貧民という最下層であるが故に、不当に搾取されてきたことを思い知った。



***



 マリエラ様からの依頼もないし、贅沢しても数日は過ごせるお金も得て、今日をどうやって過ごそうかと考えていると、いつもなら今は、荒れ地で剣の鍛錬を始めている時間であることに気が付いた。


 地下室を覗いてみたら、中央の大鍛錬場では冒険者パーティー同士で模擬戦を行っていて、その左右の中鍛錬場でも冒険者達が剣を交えていた。でも更に奥の四つの鍛錬場、大・中に次ぐなら小鍛錬場だろうか?その一番端の一つが空いていた。


 板壁の中に入ってみたけれど、端から回転しながら跳んだら三回で向こうの壁に届く。思いっきり宙返りしたらニ回だ。正直、あまり広くない。


「追いかけっこの訓練をしようか。」


 私はレイピアを抜き、それを体の前で垂直に構えた。それを見てエルは短剣を抜き、私の前で低い姿勢を取って身構えた。


「始めて!」


 私が号令するとエルは前に飛び出し、私は後ろに飛び退く。着地したとき、エルは短剣を払って私の剣の真ん中に当てた。キンッと短い金属音が響く。


 最初の一回は当てさせてあげた。


 それから剣を垂直に保ったまま、今度は板壁に沿って後ろ向きで逃げると、エルはそれを追ってまた剣を振った。


 でも彼の短剣がレイピアを捉える間際、私は地を思い切り蹴って後ろに飛び退き、エルを無様に空振りさせてやった。


 フードの中のエルの悔しそうな目が視界の隅に見えた。いい気味。


 そのまま板壁を蹴って宙で一回転し、鍛錬場の中央に逃げた。


 でも着地する地点の真横でエルが待っていて、驚く私が着地すると同時に短剣を当てられた。またキンッと短い金属音が響いた。


・・・まぁ、このくらいは想定内。でも次は簡単に当てさせてあげない。


 一方が剣を固定しながら逃げ、もう一方が追いかけて相手の剣の同じ場所に当てる。これは父さんが生きている頃にやっていた剣技の訓練だ。あの頃は、これを二人で朝から夕方までひたすらやっていたこともあった。


 途中、エルの短剣の刃がレイピアを持つ手の指を掠めた。右のグローブは拾ったときから破損していて、中指と人差し指の背が顕になっている。そこで血が滲んでいるはずだったけれど、何の傷も出来ていなかった。


 訓練を一旦止めて、エルは私の手を取って刃が掠めた指をさすった。


「・・・痛かったか?」


 激しく動いた後だったから、荒い呼吸をしながらエルが問うのに、私は同じく荒く呼吸をしながら頭を振って返した。これで、結界が機能していてダメージが確かに無効化されているのがわかった。


 そこで目が合って見つめ合う。直後、私は地を蹴って背中で一回転して後退した。エルが、左手に持ち直していたレイピアを狙って不意打ちしてきたのだ。卑怯だと非難してやりたかったけれど、息が苦しすぎて声が出せなかった。



「百回!」


 エルが私の剣に百回目を当てた。


 ここで小休止。


 この訓練の間は全力で逃げ、全力で追い、絶えず体を過酷に動かし続けるから、二人ともその場に立ち尽くし、地面を見つめながら激しく肩で息をした。


 汗が滴り、熱くて思わずフードを外すと、板壁の外でざわめきが起こった。いつの間にか板壁の向こうを取り囲んで、冒険者たちが私たちの訓練を見学していた。


「エルさん、リズさん。」


 その時、ラシーさんの声が後ろから聞こえた。


「たった今、セバスさんからメッセージを頂きました。」


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