第十四話 専属受付(2)
「はい。執事長様からの書簡にはそれについての書付も含まれていました。あなた達に対して護衛の指名依頼を出したいと。」
指名依頼とは、特定の個人や冒険者パーティーを指名して出される依頼の事だ。
「あなた達の見習い登録に関してはすんなり・・・というか、しぶしぶですけど・・・まぁ、早々に認める流れにはなったんですが、この件について紛糾してしまいまして・・・」
冒険者見習いに対する指名依頼は無い訳ではないらしい。
有力な商家や上流階級の家では、剣や魔法の素質を持つ三男、四男などを早々に冒険者に転身させることがあるそうだ。そして実戦を経験して一人前になったところで、家に呼び戻して護衛や警護の指揮を執らせる。
そういう者たちには経験を積ませる為に、見習いのうちから実家が指名依頼を寄こすことがしばしばあるらしい。
良家の子と聞いて、さっきのカイエンの顔を思い出した。彼もそうした事情で冒険者見習いになったのだろうか?
「その内容は簡単なものばかりで、ですからローゼンハイム様のように、見習いに要人の護衛を依頼するのは異例中の異例です。そういうのは普通、DとかCランクの正規冒険者に限定されますから。でも、さっきのあなた達の戦いを見れば、護衛の実力が十分ある事は分かるんですけどね。」
フレイムスライム達の認定試験は、本来Dランクへの昇級のもので、しかも合格率が極めて低い魔のランクアップ試験と言われているものらしい。
「あなた達、実質Dランクですよ。それにさっきの戦い方を見る限り全然危なげなかったから、もしかしたらCランクも行けるかもしれません。ほんと、規格外でビックリです。」
でもそう言われても、確かにすごく簡単という訳じゃなかったけれど、攻撃のバリエーションも少なくて、森で出会う狼の魔物の群れに比べてもずっと単調だった。だから厄災の竜を倒すという私たちの悲願からしたら、あの程度の戦いを褒められても、素直に喜ぶことは出来なかった。
「上層部にそのことをいくら訴えても全く聞く耳を持たなかったので、結局わたし、執事長様とお会いして、ローゼンハイム様に違約金を始め、依頼失敗の場合に生じる賠償権を全て放棄してもらう事に同意していただきました。それでようやく上層部もあなた達の登録を許可してくれたんです。」
その確約を得るために、ラシーさんはわざわざローゼンハイムのお屋敷まで行って来てくれたそうだ。
「執事長のセバスティアン様とお話しして来たんですけど、素敵な紳士でしたね・・・」
そう言いながらラシーさんは、何故か少し頬を赤らめて遠い目をした。
「そういう訳ですから、あなた達はローゼンハイム様からの指名依頼も受けられますし、それで例え何か問題が生じたとしても、誰からも責任を問われることはありません。安心して依頼を受けてくださいね。」
「他に何か聞きたいことなどありませんか?」
一通りの説明が終わって、ラシーさんは私たちにそう問いかけてくれたので、私はどうしても聞きたいと思っていたことを質問した。
「あの・・・さっきの地下の鍛錬場は誰でも使えるんですか?」
「えぇ、早い者勝ちですけどね。」
「じゃあ、私たちも?」
「もちろん。空いていれば使えますよ。」
今まで北の荒れ地まで行っていたけれど、それならここで剣の鍛錬が出来る。それに結界でダメージを受けないなら今までよりも安全だ。
「それから・・・あの・・・例えば、鉄屑とか金属片とか・・・持ち込んだら、こちらで買い取ってもらえますか?」
「え?ゴミ捨て場から回収したようなものですか?」
誤魔化そうとしていた事をそのまま言われて狼狽えつつ、私は頷いた。
「えぇ、可能ですよ。体を壊したり、ケガをして戦いに出られなくなった冒険者の方を救済するために、そういった資材の買取もしています。」
冒険者見習いになっても、谷での気術訓練が一番効率が良いから、これからも続けていきたいと思っていた。だから鉄屑をここで買い取ってもらえるなら、北部を使わずここで全ての用事が済ませられる。これからはこの中央のギルドハウスを活動拠点に出来そうだ。
「あの・・・」
最後に、今朝彼女に会ってからずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ラシーさんはこの街の出身なんですか?」
彼女はどうしてこんなに親切にしてくれるんだろう。この街の住民は、皆私たちのことを毛嫌いしているのに。
「えぇ、そうです。生まれも育ちもこの街です。ですけど、ちょっと色々あって・・・数年前のことですけど、私もあなた達と同じ境遇に・・・同じ街に追いやられそうになったんです。」
私の意図を先回りして答えてくれた。
「だからあなたちのことが、他人事とは思えないんです。」
でも、こんな綺麗で優しそうな女性が貧民堕ちしかけたと聞かされて驚いた。どんな事情があったのか聞きたかったけれど、私は彼女の話にただ頷いた。
私たちも、今に至った理由を聞かれたとしても答えられない。それに彼女はこれまで、私たちの過去について意識して話題に登らないようにしてくれていた。
だから私も、その詳しい事情は聞かなかった。
「そうは言っても、今日会ったばかりですし、私のことを信頼できないのは分かります。でも・・・どうでしょう?折角のご縁なので、私をあなたたち専属の受付にして貰えませんか?微力ですが、あなたちが見習いの間だけでもサポートして差し上げたいんです。」
考えておいてください、と言われたけど、私には断る理由が見つからない。エルは反対すると思ったけれど、私を見て頷いてくれた。
「是非お願いします。」
そう言って、私たちは改めて彼女と固い握手を交わした。




