第十四話 専属受付(1)
受付カウンターの奥の扉を開くと短い渡り廊下になっていて、その先がギルドの事務棟になっていた。
扉を開けると中は広い部屋になっていて、左手には作業机が幾つも並べられていた。そこでは十数人の職員たちが書類に向かったり、拡大鏡を目にはめて手に持った品を鑑定したりして、忙しそうに立ち働いていた。
そして反対側の右手の壁には扉が並んでいて、いくつかの小部屋に分かれていた。
「すぐに戻ります。ここで待っていてください。」
彼女は一番手前の部屋の扉を開けてそう言うと、他の職員と一緒に奥の階段で二階へと上がっていった。
***
部屋の中には、ローテーブルをはさんでソファーが向かい合わせに置かれていて、私たちはその一方に並んで座った。
女性はすぐ戻ると言っていたけれど、でもそこで思った以上に待たされた。試験が行われたのは朝の遅い時間だったのに、昼をとっくに過ぎて大分お腹が空いてきた頃になって、ようやく彼女が戻って来てくれた。
この小部屋で二人でいた時も、常に扉の向こうに人の気配がしていた。だからいつ知らない人が入って来るかもしれないと、フードを目深に被って顔を隠したままでいたけれど、女性が向かいのソファーに座ると、今朝からずっと親切に手助けしてくれた彼女に失礼だと思い、フードを脱いでマスクも外し、私たちは彼女に素顔を晒した。
すると女性は、一瞬私たちの顔を交互に見遣りながら驚いた顔をしていたけれど、直ぐに我に返って説明を始めてくれた。
「思いがけず難産でしたけど・・・やっと認めてもらいました。」
そう言って笑顔を向けてくれたけれど、彼女の奇麗な顔には明らかに疲れが浮かんでいた。
「これがあなた達の、見習い冒険者の識別標です。」
女性はソファーに並んで座る私たちの前に、白い陶器でできた長方形のプレートを置いた。あの男の子たちが首から下げていたのと同じものだ。
チェーンが通されていて、それを首から掛けてみると、真っ黒なローブの上で、真っ白なプレートが輝いて見えた。
プレートの表面には十桁の数字が彫り込まれていて、それが私たちの識別番号だそうだ。
エルの胸に顔を寄せてプレートを見ると、私たちの識別番号は連番で、彼の番号は私の一つ後。どうでも良い事とは分かっていながらも、姉の私の番号が先で少しホッとした。
「私はラシーヌと言います。これから、私のことはラシーと呼んでください。一文字しか短くなってませんけど・・・そう呼んでくださると嬉しいです。」
そう言って、彼女は私に手を差し出した。
おどおどしながら手をそっと出すと、彼女はテーブルの上に身を乗り出して、両手でその手を包む様に握って力強く握手してくれた。その手の温もりを感じて、私は思わず彼女に微笑みを返した。
誰かに笑みを向けるなんて何年ぶりだろう。少なくとも、貧民街に移ってからは笑いかけるどころか、そもそも誰かの顔にきちんと向き合うことすら無かったと思う。
一方、エルは事務的にラシーさんと握手しただけで、今日会ったばかりの彼女に気を許していない。街の住民たちから向けられる悪意を考えたら、寧ろその方が当たり前だ。またチョロい奴だと思われる、そう思って急いで笑顔を引っ込めた。
それから、ラシーさんはギルドのことを色々と説明してくれた。
「受付カウンターの手前の壁に掲示板があるんですけど、さっき見ました?あそこには毎朝、ギルドに寄せられた依頼の依頼書が掲示されます。冒険者の方たちは受けたいものをそこから取っていくんですけど、あなた達が来たよりもう少し早い時間には、毎朝争奪戦が起こってます・・・」
依頼内容は、魔物の討伐から荷物や手紙の配達などの便利屋のようなものまで多岐にわたるそうだ。
「但しそれぞれの依頼には、受注できる冒険者のランクに制限が設けられています。」
例えば、危険な魔物の討伐依頼の場合、受注できる冒険者は高ランクの者たちに限られる。
また商隊の護衛にも高ランクの制限が掛けられる。商隊は、彼らが運ぶ商品、所持金、或いは身代金目当てに商人の身柄そのものを狙い、盗賊や山賊の襲撃を度々受けるから、実力のある冒険者でなければ務まらない。
でも依頼のランク制限には、冒険者の戦闘力だけでなく、その人柄をも選別する意味を持つ。
問題のある冒険者たちは、厄介ごとを起こす度にペナルティーで評価を減じられるので、結果ランクアップのために求められる業績を稼ぐことが出来ない。そう言う意味で高ランク冒険者たちは、戦闘能力の他にも、誠実さや協調性といった社会性も含めて評価されている。
だから護衛の依頼が高ランク冒険者を求めるのは、信頼できる冒険者の選別の意味もある。素行の悪い者は、諺通り盗賊狩りが盗賊に成りかねない。
「そうした依頼のランク制限は各ギルド支部で設定されているんですが、全ての依頼には、暗黙の内にFランク以上の受注制限が掛けられています。つまり、冒険者見習いの方達は依頼を単独で受けることが出来ません。」
冒険者見習いは、他の商業系のギルドで言ったら徒弟に当たる。だから弟子の失敗の責任は、親方であるギルドが全て負わなければならない。それを嫌って見習いには依頼を受けさせないのだ。
「その代わり、どこかの冒険者パーティーに声を掛けてもらって、サポーターの仕事につくことが殆どです。」
その仕事内容は、武器、防具のメンテナンスや、遠征の際の荷役、テント設営、料理番・・・そうした雑用を通し、冒険者パーティーの仕事を間近で見て学び、得た知識と経験を正規冒険者になったときに自身の活動で活かす。
「でも私たち、ローゼンハイム様から護衛の依頼を受ける事になってるんですが・・・」
昨日のマリエラ様との話では、ギルド経由で彼女の護衛の依頼を優先して受ける事になっている。するとラシーさんは、ローテーブルに置かれた書類の中から、セバスさんの封書に入っていた一通の書付を取り出した。




