第十三話 フレイムスライム(2)
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でも私たちは、そのどちらでもなく目の前の魔法陣の中に飛び込んだ。
壁の向こうの人々の顔が視野に入った。魔法陣の只中に踏み入るのはやけくその自殺行為に見えただろう。バカにしたような、或いは呆れたような彼らの表情は、直後に視界を覆ったオレンジの光で掻き消えた。私たちを呑み込む炎の柱が上がったのだ。
炎は一瞬で最高潮となると、次の瞬間衰えだし、空にむかって昇り始めた。その時、そうしてできた炎と地面の隙間から、黒い塊が二つ前に飛び出して来た。
炎柱の発現を見て、これで敵はいなくなったとスライムたちは安堵して、前列は毬栗の棘を引っ込めていた。だからその炎の下から出てきた何者かに成すすべなく懐に入り込まれ、そして鋭い衝撃を感じたと同時に魔核を砕かれた。
炎の柱が上がる直前、私とエルはローブの下の、青と緑の光を帯びたそれぞれの剣で地面を刺し、周りの魔法陣たちに気力を流し込んでその発動を阻害した。
先の三度目のアタックのとき、私は魔法陣の一つを刺して気力を注ぎ込んでいだ。その結果、その魔法陣は発動せず、気力による魔法の阻害がフレイムスライムの魔法にも有効であることを確かめていたのだ。
だから炎の柱が上がったとき、私たちの周りに空白が出来ていて、そこでローブで守りあって一瞬の高熱に耐えた。先の攻撃より広い範囲に魔法陣を構築したせいで、その密度が低くなっていたことも私たちの利になった。
そして炎と地面の隙間から、ローブで身を護ったまま姿勢を低くして飛び出すと、私たちは前列のスライムを一匹づつ襲った。魔核を失ったスライムは体液を吹き出しながら萎んで皮だけになった。
私はそのまま後列のスライムも一匹突いて斃したけれど、背後に棘が迫る気配を感じ、後ろに飛び退いて板壁まで退いた。エルも、ほぼ同時に私の隣に戻ってきた。
これで三匹倒し、あと五匹、残り時間八分。
残ったスライムたちは、今度は急いで後退しながら、仲間が倒されてできた隙間を埋めて鍛錬場の中心で横列を再構成した。数が減っても今までの戦い方を続けるようだ。前列ニ、後列三。
短く言葉を交わし、今度はエルが前に出て棘の間合いの中まで進んだ。
先ほど油断に付け込まれたことに懲りたスライムたちは、今度は素早くエルの動きに反応する。前列は即座に棘を作り、それと同時に、その棘を避けて飛び退くであろうエルの後方に後列が赤い魔法陣を展開した。
スライムから無数の棘が繰り出され、エルの体を串刺そうと迫る。
でも前列のスライムの数は今やニ匹、数が少なく棘が覆う横幅は狭い。エルは横に飛んでそれを避けた。
敵が後退することを見越していた後列のスライムは、エルの想定外の動きに混乱し、魔法陣の発動の機を逸した。私はその上を駆け抜けて、着地して屈んだエルの肩を蹴って宙を跳んだ。
体を伸ばし空中に逆さま立ちの状態で、前列のスライムの真上からレイピアで魔核を突く。そして体を回転させ、そのまま後列のスライムの上をすれすれで飛び越えて、その真後ろに着地すると振り向きざまにその魔核を砕いた。
その時、視界の隅でエルがスライムの核を壊すのが見えた。私が跳んだあと、それに気を取られて動きが止まった棘の横を走り、もう一匹の前列の懐に飛び込んだのだ。
これで三匹倒し、残り二匹。
残った二匹のスライムは、目の前の私たちに対し棘を作るか魔法を練るかで混乱した。その一匹の後ろにエルが回り込んで倒し、それを見て混乱の極みに達した最後のスライムの核を私が突き壊した。
タイマーが止まった。残り時間は二分だった。
***
鍛錬場の出入り口に戻ると、受付の女性が驚いた顔をしながらも、興奮して出迎えてくれた。
「今のあなた達の戦い、すっごくカッコよかったです!まさか・・・まさかこの試験をクリアしてしまうなんて・・・本当にすごい!」
胸の前で両手を握り目をキラキラと輝かせる彼女の美しい顔は、それとは不釣り合いなほど真っ赤に上気していた。
「あなた達がスライムの火炎魔法に包まれたとき、もう駄目だと思ったんですけど・・・あれをどうやって避けたんですか?」
エルに言われているから、気力で魔法をキャンセルさせたとは言えない。答えを待つ女性に、私は困った顔を向けて首を傾げた。それを見て察してくれたようで、それ以上の追及はやめてくれた。各自の技や能力は、軽々と他人に教えられるものではない。
「ともあれ、制限時間内に完全殲滅、これはもう、文句のつけようのない結果です。見習い登録は確実です。横やりを入れる余地も無いでしょう。」
そう言って喜色を振りまく彼女の後ろに、他の職員たちはトボトボと集まって、見るからに戸惑った様子で互いの顔を見合わせていた。私たちを不合格にするよう命じた誰かに、この結果をどう報告したものか思案しているのだろう。でも彼女はそんな思惑など意に介さず、彼らに元気に号令した。
「さぁ皆さん、試験の結果を報告しに行きましょう。」
そして私たち二人にも顔を向けた。
「あなた達二人も一緒に事務棟まで来てください。」
そう言って、依然困惑顔を浮かべる職員たちを、牧羊犬が羊を追い立てるように地下室の出口へと向かわせた。
その後を付いて行きながら、立ち止まってふと後ろを振り返ると、中鍛錬場の板壁の外で私たちの試験を見学していた冒険者ばかりでなく、大鍛錬場の冒険者たちまでが、私たちに値踏みするかのような視線を向けていた。
その中にカイエンの姿もあって、でも彼だけはすごい形相で私たちを睨んでいた。それを見て、慌てて受付の女性たちの後を追った。




