第十三話 フレイムスライム(1)
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鍛錬場の中からは板壁の外がすこし霞んで見えて、周りに結界が張られているのが分かった。職員が魔道具を作動させたようで、鍛錬場の中心が陽炎のように揺れて、そしてその揺れが消えたときオレンジ色のスライムたちが現れた。
召喚されたフレイムスライムだ。
大きさは普通のスライムよりだいぶ大きく、背の高さは私の腰くらい。体の中に赤くて丸い球体が見えるけれど、これが受付の女性が言っていた魔核なのだろう。彼女が教えてくれた通り、その数は全部で八匹。彼らは鍛錬場の中心で四匹づつニ列の横列を作ると、その場で動かなくなった。
壁の外の残り時間を告げるカウンターが動き出した。制限時間二十分。
初見の魔物や初めての場所での戦いでは、まず私が前に出て敵の動きを探る。エルに目くばせして飛び出そうとすると、彼はそれを留めて耳元で囁いた。
「冒険者やギルドの人間に、俺たちが恩寵の授与者であるのを知られるのは良くない。だから気術を使わないか、使うにしても隠して使おう。」
その言葉に頷いて、私はフレイムスライムの横列の前に走り出た。
すると前列のスライムの体が俄かに波打ち、一瞬で針のような細い棘が表面に無数に出来て毬栗のような姿になると、その棘が伸びて私を突いてきた。
これも彼女に教えられた通りだ。早く鋭い無数の棘による突き。前列四匹のスライムから一斉に繰り出されるそれは、横に並んだスライムが陣取るのと同じ横幅を持つから後ろにしか逃げ場がない。それを避けて後ろに飛び退いた直後、面となった棘が私が立っていた地面を突き刺して土煙を上げた。
でも飛び上がった宙で、真下に異常な魔力の濃集を感じた。着地して足を付けようとする地面が一面、赤く輝く無数の魔法陣で埋め尽くされている。後列のスライムたちの魔法だ。
足が着いた瞬間、そのまま地を強く蹴って背面から宙返りして後退すると、直後に全ての魔法陣から炎が吹き出て巨大な炎の柱となった。その熱を避けるため、顔を腕で覆いながら着地した。
私のその動きを見て、外のギルド職員が驚いた顔をしているのが一瞬目に入った。
今の炎の攻撃で体に異常はない。ダメージは受けなかったけれど、でも鍛錬場の広さが十分でなく、着地したすぐ後ろに板壁が迫っていた。
近づいたら前列が棘で穴だらけにする、それを避けて後退したら後列が炎で焼く、それが彼らの戦い方のようで、しかも魔法の間合いを考えると、炎の熱から逃げられる安全地帯は板壁際の狭い領域しか無い。逃げ場が限られるこの中鍛錬場では難易度はより高くなるようだ。でも私たち近接の二人でスライムの核を壊すには、安全地帯から出て何とか敵の懐に入り込まなければいけない。
「もう一度敵の攻撃を引き付けてくれ。俺はあいつらの後ろに回り込む。」
エルに言われ、再度スライムの前に出た。敵が棘を繰り出した瞬間、エルが板壁に沿って走る。
でも棘を避けて飛び退いた私の足元に魔法陣は無かった。その代わり今度は、スライム達の真横に差し掛かったエルの足元を無数の魔法陣が覆った。エルは体を落として短剣を地面に刺し、地をガリッと削り急停止すると、地を蹴り片手で地面をはたいて宙返りしながら後退した。その直後に炎柱が上がって、それを寸でのところで避けたけれど、更に追い打ちの魔法陣を仕込まれて元の私の隣にまで戻されてしまった。
脳も持たないスライムに高い知能は無い。フレイムスライムと言えどその点は変わらい筈なのに、こちらの動きに臨機応変に応じてくる。個としてではなく、魔核に蓄積された記憶に基づく集団としての知性だろうか。
六分経過、残り時間十四分。
「確かめたいことがある。もう一度アタックするから見てて。」
再度前に出て、今度はスライムの魔法の間合いの中で足を止めた。前列が棘を作って牽制する中、足元に魔法陣が現れた。すぐに後ろに後退しながら、地面をローブの下に隠した青く光る剣で突いた。気力を帯びた剣は周りのギルド職員たちには見えなかっただろうけれど、エルには気術を使ったことが気配で分かったはず。その直後に上がる炎の柱を見て、エルは隣に戻った私に向って頷いた。
九分経過、残り時間十一分。
三度の攻撃で私たちが倒れないのを見て、鍛錬場の中心に陣取っていたスライムに動きが出てきた。ナメクジのように地を這いながら前に躙り出て来たのだ。
”壁に追い詰めて炎で焼くつもりだ”
エルを見ると、彼も分かっているようで小さく頷いた。スライムに合わせてジリジリと後退するうち、すぐに背中がトンと板壁に当たった。
ギルド職員たちはこれで試験は終了だと思ったようだ。
「馬鹿な奴ら。」
「素人共が。もう終わりだ。」
いつの間にか大鍛錬場から何人かの冒険者が見物に来ていて、その彼らも冷笑を浴びせてくる。そして彼らの予想通り、無策なまま追い詰められた私たちの周りの広い範囲で赤い魔法陣が現れて地を埋め尽くした。
逃れるには板壁に沿って走り魔法陣のエリアから逃れるか、目の前のスライムの上を飛び越えなければならない。けれど、前者を採ったら逃げ切る前に炎に焼かれ、後者なら下から棘で刺される。絶体絶命。
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