第十二話 認定試験(2)
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ギルド職員の一人が、その鍛錬場の冒険者の所に行って話をしている。きっとここで試験をするから空けてくれと頼んでいるんだろう。でも暫くして、その職員が頭を搔きながら戻ってきた。
「大鍛錬場はクランで使ってるって。まだ戦闘訓練中だから空けられないとさ。」
「じゃあどうする?」
「しょうがない、中鍛錬場でやろう。空くのを待つまでもない。どっちみち受かる試験じゃないんだし。」
そう投げやりに言って、彼らは隣の鍛錬場、これが中鍛錬場というものらしいけれど、そちらに向かって歩き出した。そこは中心の一番大きな鍛錬場の半分もない広さで、その中に冒険者の姿は無かった。
職員たちのその会話を聞いて、受付の女性は怪訝そうな顔をした。
「ちょっとここで待っててくださいね。」
そう言うと、私たちを残してその職員たちを追って行き、彼らと一緒に歩きながら何か話を始めると、やがて中鍛錬場の前まで来て言い争いになった。彼女は職員が持つ魔道具を指さして抗議しているようだ。
しばらく押し問答をしていたけれど、やがて女性が青い顔をしてこちらに戻ってきた。
「試験はあそこの中鍛錬場で行うことになりました。ただその内容は・・・ギルドはあなた達を合格させるつもりが無いようです。こんな嫌がらせみたいなことをするなんて恥ずべきことです。」
そう言って私たちから視線を逸らせた。その口ぶりから、これから行われる試験が難易度の高いものなのだという事が分かった。私たちのような貧民の受け入れに反対している人がギルドにいて、合格できないよう無理難題を課したのだろう。
彼女は少し考えていたけれど、私たちを伴い試験の行われる中鍛錬場に向けてゆっくりと歩きながら、ほんとは受験者に教えちゃいけないんですけどね、と言って試験内容を詳しく教えてくれた。
「先ほど、見習い冒険者の試験なら、相手は最低クラスの魔物だって言いましたが・・・でも今回はそうじゃありません。」
敵はフレイムスライム。
スライムと言えば最低クラスの魔物だけれど、これはその上位種で、炎の魔法を使うそうだ。彼女は、フレイムスライムについて詳しく教えてくれた。
この魔物は魔法持ちで、使える魔法は地面から高温の炎の柱を上げる火炎魔法だけ。でも多重詠唱して一度に複数の炎柱を上げることが出来るので、それで足元から直接焼かれたら致死ダメージを負う。
それから、体の表面を硬い針のような棘に変形させ、それを伸ばして突いてくる。これも直撃すれば即戦闘不能になる。
体の中に魔核があり、倒すにはこれを物理的に破壊しなければならない。その点は普通のスライムと同じだけれど、魔法は無効で有効なのは打撃や刺突などの直接攻撃だけ。
彼女は淀むことなく説明する。仕事とはいえ、魔物に対する知識が豊富でビックリした。
フレイムスライム一匹だけの場合ならEクラス。少し経験を積んで、駆け出しを卒業した冒険者が相手にする魔物で、それでも戦闘経験が殆どない見習い希望者には手に余る敵だろう。
「でも・・・今回の試験では、そのフレイムスライムが八匹出てきます。」
フレイムスライムが群れていた場合、危険度は跳ね上がってCクラスになる。これは中堅からベテランのパーティーで討伐できるレベル。
「複数の場合、魔法と物理の連携攻撃をして来ます。それを決して忘れないように。物理攻撃を回避したと思ったら、必ず魔法攻撃が罠のように仕込まれていると思ってください。」
「試験を始めるぞ。君たち、早くこっちに来なさい。」
会場の調整をしていたギルド職員が促す。でもそれを無視して歩みはそのままに、受付の女性は早口で続けた。
「制限時間は二十分で、掃討が合格条件です。でもCクラスの魔物なんて、あなた達には絶対無理な話だと思うので、倒すことは考えないで、全滅しないことを目指してください。全滅してしまったら問答無用で失格となるので、その後に交渉の余地はありません。でも生き残りさえすれば、倒せなくても合格とされた例もありますし、私が何とか交渉して合格を認めさせますから。」
***
そうして、私たちは中鍛錬場の入り口に立った。鍛錬場を囲む板壁のそこだけが扉になっていて、ギシギシときしむ音を立てながらギルド職員が開き、促されて私たちが中に入ると、扉が閉じられて外から閂が掛けられた。
周りの職員たちは皆冷ややかで、閂を掛ける職員と目が合ったとき、彼はバカにしたような笑いを私たちに向けた。でもあの女性だけは、板壁の向こうから心底心配そうな顔をして私たちを見守ってくれていた。
彼女は”普通の”街の住人であるはずなのに、貧民である私たちにこんなに親切にしてくれた。それがとても有難くて、私がフードを外して彼女の方に向き直ると、エルも同じようにフードを取って女性の方を向いていた。彼も同じ気持ちなんだろう。そのまま、私たちは彼女に深々とお辞儀をして礼をした。
フードを取ったとき、彼女も、その周りの職員たちも皆、ビックリした顔をしていた。でもそれは、何かの拍子に私たちが顔を晒してしまった時によく見る光景だったので気にもならなかった。
私たちは振り向いて、エルは後ろ腰から双短剣を、私は腰からレイピアを、真っ黒なローブの下で抜いた。
二十分間生き残れば良いと言われたけれど、きっとそれではダメなんだろう。登録を許してもらうには制限時間内に敵を殲滅して、言いがかりをつけようのない完全勝利をもぎ取らなければいけない。
立ち位置はいつもの通り、私が右、エルが左。私とエルは、並んで鍛錬場の中心に向き直った。
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