第九話 交渉(2)
開けましておめでとうございます!!
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マリエラは・・・いや、マリエラ様は私たちの顔を見ながら話し始めた。
「森であなた達の戦いぶりを見たけれど、とても強かったわ。それに稀有な力もお持ちのようね。あなた達の剣が魔法陣を纏うのを見たわ。」
やっぱり、気を失っていたというのは嘘だったようだ。それに私たちが力を使ったところも見られていた。
「セバスティアンは昔、冒険者だったのだけれど・・・そうなんでしょ?」
マリエラ様が隣の執事長を見ると、彼は目礼を返した。
それを聞いて先ほどの違和感の正体が分かった。この執事長は、執事らしい穏やかな雰囲気をもっているけれど、その片隅に血なまぐさい剣の気配も同居させていた。かつて戦いの場にいた人が、別な路を歩んで大分時間を経た、そんな感じなんだろう。
「この二人は最上級の剣士だって言ってたわよね?」
「そうですね、恩寵を与えられている者となれば、それだけで一流の剣士です。それにこの方たちが倒した賊は、当家の護衛兵団の精鋭部隊を倒した手練れです。それだけで、かなりの腕をお持ちと分かります。」
普通、私兵を持つのを許されるのは貴族だけだけれど、ローゼンハイム家ほどなら、護衛の兵士団を自前で持っていてもおかしくないのだろう。
”でもその精鋭部隊が倒されて、マリエラ様が誘拐された・・・”
「あ、あの・・・今回は相手の油断を突けたので・・・そうでなければ勝てていたかどうか・・・」
過大に評価されては、どう考えても厄介なことになると思い、おどおどしながらそう言うと、執事長は微笑みながら答えた。
「その最適な戦略を採れるのも、剣士の強さの一端ですよ。」
執事長を横目に見ながら、確かめるようにその言葉を聞いていたマリエラ様が、私たちに視線を戻して口を開いた。
「それでね、どうしてもあなた達にこの話をしたくて、家まで来ていただいたのだけれど・・・」
でもその直後、扉をノックする音が聞こえ、女中たちが入って来て私とエルの前に前菜のスープとサラダを並べ始めた。
「話の前に、さぁ、まずは食べて頂戴。お腹がすいたでしょ。」
***
私たち二人が食事を終えた後、お茶が運ばれてきた。マリエラ様の前に置かれたティーカップにも女中がお茶を注いだ。
それを一口飲んだ後、ティーカップを机に戻して彼女が口を開いた。
「ねぇ、リズ、エル、さっきの話の続きだけど・・・」
そう言って少し居住まいを正した。
「あなたたち、私の護衛になって下さらないかしら?私専属の護衛として、この家に雇われてほしいの。」
机の上で軽く手を組んで、上品でにこやかな微笑みを向けるのだけれど、その気配からは、是非とも私たちを護衛にほしいという強い想いが感じられた。
「この家の娘と言うことで、私を狙う輩も多いの。中には命を狙う者もいてね。だからあなた達のような優秀な剣士に守ってもらえたら、とても安心できるわ。」
その申し出に対し、エルは冷静で冷めた声で答えた。
「貴方の命を狙うのは、今朝のマントの集団ですか?」
「あら、やだ。その賊はあなた達が倒してくれたじゃない。」
「彼らは単独の襲撃者では無いと思いますが。」
「そう?仲間が他にいたのかもしれないけど、所詮烏合の衆よ。それに集団といえるほどの規模じゃ無いと思うわ。きっと身代金目当てのならず者の集まりでしょ。」
マリエラ様は、エルに指摘されても慌てたそぶりも見せず、さも些細な事のように、終始変わらない様子で受け答えした。
でも彼女の様子が変わらなかったことで、却って今朝の男たちの後ろに組織がいることを確信した。
あの五人は訓練を積んだ優秀なパーティーだった。そんな彼らが属す組織は、間違っても烏合の衆などではない。
「でもね、これからも、ああいう輩が襲ってくる可能性があると思う。だからあなた達に護衛してもらいたいの。」
そしてマリエラ様は雇用条件の良さを早口でアピールし始めた。
「専属護衛と言ってもね、一日中私に張り付いてなくても良いのよ。むしろ、働いてもらうのは僅かな時だけ。私が外出したり、遠出したりするときにだけ、私のそばにいてくれればいいの。」
マリエラ様の話ぶりはだんだん熱を帯びてきた。
「そういう時は家の護衛が出るわ。傭兵も雇うつもり。彼らに厚く護られている中で、私のそば近くにいてくれるだけでいいの。要するに保険ね。心の安寧を得るための薬よ。凄腕に護られている安心が欲しいの。あなた達みたいなね。」
私兵団による警備の中での外出と聞いて、城主の行列を思い出した。何度かそれと鉢合わせしたけれど、あれと同じような物々しい護衛に護られるなら、緋色のマントの集団でもマリエラ様に危害は加えられそうにない。
「今回はね、どうしても事情があって警備を手厚く出来なかったの。それで不覚を取ったのだけど、でもそんなのは今回だけ。本当に今回だけの特別な事情だったのよ。」
相変わらず早口で言うと、そこで彼女は身を乗り出した。
「あなた達の生活は保証するわ。この家に部屋を用意するから、自由に使ってもらって良い。食事も、それから装備も、最高級のものを提供する。もちろん給金も十分払うわ。それで働くのはわずかな期間だけ。どう?良い条件じゃない?」
彼女のとても情熱的な話しぶりもあって、なんだかすごく良い話に思えてきた。
「あなたのそば近くで仕えるということですが・・・」
でもそこでエルが相変わらず冷静な声で話し始めた。
「今お嬢様に、この使用人の部屋までお越し頂いていますが、普通は有り得ないことのはずです。それは身分が低すぎて、私たちが謁見の間に入ることを許してもらえなかったからなのでは?」
私はマリエラ様の後ろの汚れた壁を眺めた。確かに、目の前の奇麗な身なりのお嬢様が、この部屋で席についている様子は異様な光景に見えた。
「そのような身分の者を、あなたのそば近くに置くことが出来るのですか?それをあなたの家の方や、他の護衛の方たちが納得するでしょうか?」
そう言われて、彼女は相変わらずの上品な微笑みを、ほんの少し歪ませて腕を組んだ。
「確かに、あなたの言うように、私の意向だけであなた達を雇うことも、ましてや近くで仕えさせることも難しいでしょうね。」
でもね、と言って彼女は少しずるそうな笑みを浮かべた。
「もしあなた達が、ローゼンハイム家令嬢の命の恩人になってくれるなら、この家が直接恩義を返すべき者として、話を通しやすくなると思うの。この家が、あなた達を私のそば近くに置くために雇って、それで十分な報酬と快適な暮らしを提供して恩に報いるの。」
それに対して、エルは彼女の顔を真っすぐに見据えながら答えた。
「折角ですがその件はお断りします。この家に縛られるのは私たちの望むことではありません。それに、無理を通して私たちを雇ったとしても、敵視する方々に囲まれた中で暮らす過酷さは、あなたにも容易に想像できるでしょう。」
この家のお嬢様が雇った貧民・・・お嬢様以外の人々に冷たい目で見られる様子が目に浮かぶ。そこでエルが別の話を始めた。
「それより、森からの護送の報酬の話をしたい。」
「あぁ・・・その件ね。」
護送の報酬と聞いて、彼女は一気に興が醒めたような顔をした。
「そうね、約束してたわね。では、まずはそっちの話を片付けましょう。いくら欲しいか、二人で話し合った?」
そう言われてドキッとした。その話もしたかったのに、エルが会話をしてくれないから出来なかった。まだ何も決めてないのにエル自らがその話を振るなんて・・・俯きながら隣のエルを密かに睨んだ。
"交渉は私の仕事だから、私から何か言わなければ・・・"
頭の中で思考がぐるぐる回った。
"金貨10枚?一人10枚で20枚?そう言ったらこのお嬢様は怒るかな?でも少ないと今度はエルに怒られそう・・・”
「身分を与えて頂きたい。」
エルがいきなり答えたのでビックリして飛び上がりそうになった。
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