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鉄屑拾いの剣姫  作者: エビマヨ
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第八話 マリエラ(3)

不定期更新もありますが、基本毎週、月、水、金曜日の0時過ぎに更新予定です。

 私たち三人は、一番奥の立派な部屋に案内された。司令官が、部屋の手前ですれ違おうとした門衛に命令した。


「この方たちにお茶を。それからこの女性に外套をお持ちしろ。賓客が視察するときにお渡しする上等な奴だ。」


 そう言ってマリエラを振り返った。その門衛は、彼女と、その後ろにいる私たちの姿を頭から足元まで見やりながら、不思議そうな顔で通り過ぎて行った。


 部屋の中でソファーに座らされたけれど、知らない人たちに髪を晒すのが居心地悪くて、マリエラにローブを返してもらおうと思った。元々、城門の手前で返してもらう約束だった。


 けれど、隣のソファーに座るマリエラに言い出せずにいるうちに、先ほどの門衛が、持ってきた外套をマリエラに渡すと、私のローブを雑巾を持つような手つきで受け取って持って行ってしまった。私には、ソファーに座ったまま彼の手のローブを黙って見送るしかなかった。


「もうすぐ迎えの馬車が来るわ。あなた達にはそれに乗ってもらうのだけれど、申し訳ないけどあなたのそのローブ、脱いでもらうわね。この街では、それはあまりいい意味を持たないみたいだから。」


 そう言ってエルのローブに目をやった。


 マリエラにそう言われると、ソファーに座ったエルはフードを外し、マスクの黒い布も解いて出されたお茶を手にした。つられて私もマスクを外して、目の前に置かれた立派なティーカップに手を伸ばした。


「あら、あなたも銀髪。お兄さんもビックリするほど奇麗な顔をしているのね。お姉さんも思った通り、とても美しいお顔だわ。あなた達、瞳の色は違うけど、御兄弟なの?」


「いいや」


 私は、はい、と答えようと口を開いていたのだけれど、そのままビックリしてエルを見た。あんた、私の弟でしょ?


 どういうつもりだろう・・・本当は血がつながっていないことを言ってるんだろうか?


「兄弟じゃないの?」


「いえ、この子は私の弟です。私たちは兄弟で、姉と弟です。」


 そう言って慌てて説明した。マリエラが高い身分の御令嬢だと思うと、自然と敬語になっていた。


「なんだか複雑そうね。詳しく詮索するつもりはないけど。」


 そう言ってティーカップを口に運ぶ彼女の指に、さっきの指輪が光った。金の土台に紋章らしきものが、赤の象嵌ではめ込まれていた。



 迎えが到着したというので、兵士に導かれて表に出ると、黒塗りの立派な馬車が二台控えていた。馬車の扉には、指輪と同じ紋章が装飾されている。


 マリエラは前の馬車に、私たち二人は後ろの馬車に乗せられて東の城門を後にした。そのとき、騎乗した門衛の一団が馬車の前と後ろを護送した。このことからも、この紋章の家の家格の高さが伺えた。


 馬車に乗るとき、エルのローブも、私たちのマスクの布も御者に取り上げられてしまった。その姿で家の中以外で過ごすのは落ち着かなかったけれど、エルと二人だけで、真っ赤なビロードの心地良い座席で馬車に揺られるうち、少し心が落ち着いてきた。すると疑問がつぎつぎと言葉になった。


「ねぇ、エル?これどうなってるの?私たち、どこに連れていかれるんだろう?それに何でさっきはあの子ににあんな風に話しかけたの?それから・・・」


 でもひとしきり聞き終えてから、エルが短く答えた。


「・・・姉貴はチョロすぎる。」


 私の問いに関係ないことを言われてポカンとしていると、マリエラの縄を解いたのも、助けることになったのも、彼女の誘導にまんまと嵌められたのだと説明された。


「だからあの女と喋るときは気をつけろよ。」


 そして最後にそう言われた。


 それを聞き終えて、私の顔は真っ赤になった。


 もちろん生意気なことを言われたことに対する怒りもあったけど、それよりもチョロいと言われた恥ずかしさの方が遥かに優った。


 それからしばらく、エルと話すことも、目を合わす事もしてあげなかった。でも車窓の外に見える家々の門構えが立派になってきて、不安が急に湧き上がって心を占めた。


「ねぇ、マリエラって何者なんだろう?」


 たまらずエルに聞くと


「分からない。かなりいい家のお嬢様だな。でも貴族では無いようだ。紋章が違うから城主じゃないし、その連枝でもない。」


 この街の貴族は城主とその親族たちだけだ。


 私は、城主と聞いて気持ちが暗くなった。父さんと母さんを罪人と断じた張本人だ。


「・・・私たち、大丈夫かな?」


「それも分からない。とにかく俺たちをお屋敷に連れて行きたいらしい。何か狙いがあるようだけれど、それに乗るつもりはない。でもあちらも危害を加えるつもりはないだろう。森で否定はしたけれど、結果的にあのお嬢様の命を助けた訳だし。」


 エルはそう言って、ビロードの背にもたれ、ゆったりと体を預けた。私は向かいの席でそんなエルを恨めしそうに見ていた。


「どうして城門であの娘について行ったの?あそこでサヨナラしておけばよかったのに。」


「あっちの思惑通りにはならないけれど、森からの護衛の報酬だけはしっかりもらおう。交渉次第で数年暮らせるくらいの金を手にできるかもしれない。」


 それを聞いて、そんな交渉が私にできるだろうかと今度は別の不安が心を占めた。交渉事は私の担当だけれど、エルにチョロいと言われた私に、マリエラお嬢様と上手に交渉が出来るだろうか?でも、もしまとまったお金が貰えたら、今度こそエルと街に買い物に行こうと思った。


 やがて馬車は街の中心に近い大きな屋敷の門を通り、その敷地の中に入っていった。

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