第八話 マリエラ(2)
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森の中の街道を抜け、街の外周を周回する道に出たけれど、ここまで心配していた追手に遭遇することもなかった。
あの緋色のローブの男たちは、かなりのやり手だった。その死体を見て、別動隊は一旦引いてくれたのかもしれない。
”でも勝てたのは、最初の三人が私たちを侮っていて、そして残りの二人が、私たちが恩寵の授与者であることを知らなかったから”
剣士達と弓使いが、前衛、中衛できっちり後衛の魔術師を守りながら向かってきていたら、私たちの勝ちはきっと無かった。でも、そんな戦い慣れたパーティーが属する集団なら、主力が殺されたとしても、拉致したはずのマリエラが居なくなっていたら必ず偵察を出すはず。だから森にいるときからここまで、こちらに近づく敵がないか必死に気配を探ってきた。
でも、今いるこの周回道は、街の守備隊が移動のために使うくらいで、一般の人が使うことはまずない。だから敵はおろか、誰の気配も感じられなかった。
”あの五人の気配も感じ取れなかったけれど・・・”
そんな不安な気持ちを押し殺し、とりあえず東の城門に急いだ。
陽がいちばん高くなる頃になって、東の城門が見える所まで来た。それで安心したのか、マリエラから漂う雰囲気が和らいできた。
「ところで、お姉さん達は街の中に問題なく入れるの?」
「・・・とりあえず、あなたをあの城門まで送るから。そこまで行けば安全だと思う。門衛の兵士もいるし。」
「そう。でも、もしも城門を通ろうとしたら、門衛の兵士はあなた達を通してくれるのかしら?」
「ど、どうかな・・・」
答えを避けたかったのだけど逃がしてもらえない。エルに視線を向けても、こちらを見てもくれない。
貧民である私たちを、東の城門の門衛が通してくれるはずがない。街に入りたければ北へまわれ、と言われるのがおちだし、私たちも北の城門まで帰るつもりだった。
でも、この子はそんなことも知らないようだ。もしかしたら、顔の印象通り本当にまだ幼いのだろうか?
「あのね、お姉さん達には私の家まで一緒に来てほしい。命を救ってもらったんだから、私の家で是非そのお礼をさせてほしいの。」
かわいらしい申し出に、お礼をしてくれるなんてありがとう、そう言おうと思ったとき、後ろから声がした。
「奴らを斃したのは自衛のためで、お前の命を救おうとした訳じゃない。」
エルがいきなり話し始めたので驚いてしまった。
「エル・・・あんた・・・急にどうしたの?」
他の人がいるところでエルはまず喋らない。それがいきなり、しかも冷たい感じで言うから、フードで隠れたエルの顔を見ながら固まってしまった。
でもそんな私に構わず話を続ける。
「だから対価を貰うなら今の護送についてだけだ。依頼された護送に対する報酬なら貰おう。」
するとマリエラも、私には構わずに振り返ってエルのフードの中を覗いた。
「あら、随分欲がないのね。あげるというのだから貰っておけばいいのに。」
エルに話しかけるマリエラの雰囲気がいきなり変わった。
「お前が家まで送ってくれと依頼して、こいつが頷いて受けた。この契約関係だけでいい。」
「分かったわ。この護送が完了したら報酬を支払うわ。だからあなた達には、是非私の家まで来て頂かないと。」
「後で取りに行くのでは?」
「いえ、依頼完了後、私の家で。報酬の支払い方法は普通、依頼主の裁量でしょ?」
「報酬は?」
「こういう行きずりの依頼は受けた方が要求するものよ。だから考えておいて。家に着いたら聞いてあげる。」
彼女のクリクリの可愛らしい目は、今は落ち着いた大人の女性の目に変わっていた。
私は何が起こっているのか分からなくて一人戸惑っていた。いきなりマリエラと普通に会話を始めたエルにも驚いたけれど、マリエラの豹変にはもっと驚いた。
さっきまで、マリエラを少女だと思っていたから気にも留めていなかったけれど、改めて彼女の気配を観ると成熟した大人の女性のようにも感じられて、その得体の知れなさを不安に思った。
そのままエルとマリエラは、目を合わすこともなく無言で城門へと向かった。いつの間にかマリエラが先頭を歩き、その後ろにエルが続き、そして私は二人の後をオロオロしながら付いて行った。
やがて周回道と広い街道との交差点に出た。この街道はローグタウンの東にある街町を繋ぐ主街道で、ここに立って右を望むと目の前に東の城門が聳える。
二本の巨大な円塔に挟まれた壁にアーチ状の門があり、それは馬車が余裕ですれ違う事が出来るほどに広く、ニ階建ての建物よりも高い。そして樫板と鉄で出来た分厚く重そうな扉が外に向かって開け放たれていた。久しぶりにこの城門まで来たけれど、これを見たら北の城門が如何に簡易なものかが分かる。
アーチ門の中で門衛の兵士が数人、こちらを伺っていた。貧民らしき者たちが近づいてきたのだから、彼らからしたら何事かと思っただろう。東の城門を貧民が通ろうとするなど、まず無いことだ。
「あなた達はここで待ってて。」
マリエラは握っていた左手を開いた。するとその掌には指輪が握られていて、それを指にはめて、貧民のローブを着たまま城門の方へ歩いて行った。
「ねえ、エル、今のうちに行こうよ。」
マリエラはここで保護してもらえるだろう。このまま去ろうとエルのローブを引っ張ったけれど、私を見て頷くだけでエルは動かない。
マリエラが門衛と何か話をしているうち、城門の奥から立派な鎧を着た別の兵士が出てきた。マリエラがその兵士と話しながら先ほどの指輪を見せると、周りの兵士たちの動きがあわただしくなった。
「あなた達、一緒に来て。」
マリエラが振り返って私たちを呼んだ。
私はこの場から去る事しか考えていなかったので、どうしたらいいか戸惑ったけれど、エルが迷いなく彼女の方へ歩いて行ったので、しかたなくその後を遅れてついて行った。
立派な鎧の兵士は私たちを見ると
「おまえら、貧民か?」
鋭い視線を向けたけれど、その後ろにいたマリエラがすかさず声を掛けた。
「さっき言ったでしょ、丁重に、ね。」
兵士は、彼女に礼をして私たちに改めて向き直った。
「・・・お前たちも、ついてこい。」
そういってマリエラと兵士は、門の脇の石作りの建物に向かって歩き出した。ここは門の守備隊の詰め所のようで、私たちも彼らの後をついて行った。
立派な兵士の後ろを歩くマリエラの背中を見て不安が膨らんだ。
彼女はどこかの御令嬢だとは思っていたけれど、私の貧民ローブを着る彼女に、立派な兵士が・・・装備からするとここの司令官クラスだろうか?そんな人が礼を尽くしている。一体彼女はどんな身分なんだろう?
なぜ彼女について行ったのか、司令官とマリエラの後ろを歩くエルに聞きたかったけれど、他の人の前で話しかける勇気はなかった。
詰め所の廊下を俯きながら歩いていたら、不安になって涙が滲んでしまった。昨日から今日の狩りを楽しみにしていたのに、もう普通の一日では無くなってしまった。
”何を間違えたから、こんな事になってしまったんだろう?”
緋色のローブの男たちと戦ったこと?
マリエラを森から連れて帰ると決めたこと?
それとも、彼女に呼ばれて城門に入ったこと?
”こんなことになるなら、エルと街に買い物に行っておけばよかった・・・”
そう考えて、私は心底後悔した。
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