第七話 オークの森(2)
不定期更新もありますが、基本毎週、月、水、金曜日の0時過ぎに更新予定です。
次の日、陽が昇ってから、いつものようにマスクとフードで顔を隠して北の城門を潜った。この城門だけは、貧民のローブを着ている者たちの出入りに何も言わない。その後谷へ向かう代わりに、城壁に沿って東の森を目指した。
城壁際の、街の外を周回する街道を進んで行く。すぐ右手には、長方形に切り出された石が隙間なく積まれた高い城壁が聳えている。その石の表面は、風雪で滑らかになってはいるけれど依然ごつごつとしていて、この無骨で不愛想な壁が、ただ街を守ることのみを目的として建造されたことを思い知らされる。
道の左手には、最初は遠くに森があったのだけれど、それがだんだん近づいて来て、街の東側に来る頃には道脇にまで迫って来ていた。
更に進むと、森の奥へと続く道の前に来た。ここから奥へ入れば、そこがオークのテリトリーだ。ここは以前、街道として使われていたのだけれど、この奥にオークの群れが住み着くようになってからここを通る人がめっきりと減り、それに応じて道も少し荒れ出してきている。
背中の剣を腰に差して、エルと並んでその街道に入った。
二人とも動物に気づかれないよう気配を消し、そして気配察知が得意な私が、獲物の気配を探りながら進む。
少し先に、その場に横たわり動かないものの気配を感じた。死んでいるわけでも、瀕死になっているわけでも無さそう。
”眠っているのかな?”
オークよりずっと小さいから、若い鹿かもしれない。眠っているなら絶好の獲物だ。
それは目の前の街道が大きくカーブした先にいる。エルに目くばせして、より慎重に気配を消してゆっくり街道を進む。カーブを抜けてその先が見通せる場所に立ったその時・・・
“しまった”
少し先の道脇に、緋色のマントを着た集団がいた。
彼らも気配を消していたようで全く気づかなかったけれど、あちらも丁度気づいたようで、私たちを見て殺気を纏ったのを感じた。
「盗賊じゃないね。」
「あぁ。何者かわからないけど、俺たちを殺す気みたいだ・・・連携して追うのに慣れてるようだから、逃げるのは無理そうだ。」
確かに、目の前の敵の雰囲気から、彼らが高い精度で連携が取れる集団であることが分かる。狩人や盗賊たちとは比較にならないほどのやり手だ。ここで逃げても追跡され、追い詰められて狩られる想像しかできない。
「・・・ここで殺るぞ。姉貴、覚悟決めろよ。」
相手は五人。私たちがその場で立ち止まっているのを、恐怖で棒立ちになっていると思ったようで、その内の三人が近づいてきた。思惑通り。
前に二人、後ろに一人のフォーメーションを取っている。
前列の二人は革の軽鎧を身につけた剣士で、機動力重視のサブアタッカー、後ろは弓を構えているから中衛の弓士だろう。
前列の剣士たちがソロリと剣を抜いた。得物を見せつけて私たちを怖がらせるつもりのようだ。でも彼らはまだ、ローブで隠した私の剣に気づいていない。エルもローブの下で短剣に手をかけているはず。
剣士たちは、私たちを間合いのうちに納めると剣を構えた。剣士の一人が口を開く。
「怖がらなくていい。一瞬で終わるから苦しむ間もない。」
そう言うと同時に、二人は剣を振り下ろした。
速くて鋭い。だけど対応できる。私は横に飛び退いてそれをかわすと、レイピアを抜いて鋭く突き、革鎧を貫いて剣士の心臓を破った。
何が起こったか分からぬまま顔を歪める剣士の横をすり抜けて、すこし後ろに控える弓使いの目の前まで飛び込んで喉を突いた。
一瞬で対応する間もなかった弓使いは、弓を取り落とすと首を押さえて膝をつく。その横を通り抜けざまにこめかみを短く突くと、うぐっ、というくぐもった声を上げて、ばったりと地に突っ伏して動かなくなった。
エルは、体を半身にして振り下ろされた剣を避けた瞬間、目の前に晒された剣士の首を逆手の短剣で切り、頸動脈を裂いて即死させた。
これで二対二。この三人は油断していたけれど、ここからそうは行かない。
仲間がやられたのに残る二人は少しも動揺を見せない。彼らは道の脇から中央まで出てきて、そのうちの一人がそっと前に出て来ると、そのままじっとこちらの動きを待つ。自分達の勝ち筋に導こうとしているようだ。
僅かに魔力の動きを感じるから、その後ろに控えているのは魔術師だ。でもその乱れは密やかで、この間の冒険者よりも数段優秀なようだ。
エルと目で合図すると、私は相手の動きを見るために二人に向かって突っ込んだ。
途中、魔力の濃集を感じ急停止、少し先の足元に魔法陣が見えた。後ろに飛びのいた直後に地面から炎が上がる。あのまま突っ込んでいたら、ちょうどこの炎に焼かれていた。
炎が勢いを失った直後、それを通り抜けてエルが突進し、後ろの魔術師に向かう。
辣腕の魔術師はエルに任せ、私は手前の敵に向かう。彼も私が相手だと見極めてすばやく剣を抜いた。
硬度の高そうな鋼の長剣使い。気配から腕はかなり立ちそうなのが分かる。まず私の剣を受けてからのカウンター狙いか。
”何を企んでるか知らないけど、あんたに次の手は無いわ!”
後ろに従えるレイピアの細い刀身が青い気力に包まれて魔法陣が光る。その剣を高速で振ると、刀身に絡みつく気力の一部がとり残されて、剣筋に青く光る雫のような軌跡を描いた。
ガキッン!!
付与魔法で硬化され、水魔法で荒波のように凶暴な勢いを伴ったレイピアが、受け止めようと前に構えた硬鋼の剣を砕き、そのまま剣士の胴を両断した。
切り裂かれた上半身は宙で一回転して、そのまま頭から地面に叩きつけられた。
炎から飛び出した直後、エルの体は魔術師の魔法陣に貫かれた。何かの拘束魔法か?でもエルは、緑の光を纏った短剣でその魔法陣を切り、気力を流し込んでその発動を阻害した。
魔法が不発に終わると、想定外の事態に魔術師は慌てて次の魔法を唱えだす。その横をすり抜けざま、エルの短剣が首を襲った。
でも魔術師は、身体強化の魔法で自身の物理耐性を上げていて、首には掠り傷しかできていない。
それを見てエルは思い切り地面を蹴って無理やり急停止すると、反転して再度魔術師の首を払った。
二の太刀でも、やはり魔術師の首には致命傷とは程遠い僅かな傷しか出来なかった。
”こいつの軽い太刀では俺は殺せない”
魔術師はほくそ笑み、より厄介そうなレイピア使いが来る前にこの短剣使いを倒そうと、詠唱を終えた攻撃魔法を発動しようとした。
そのとき、魔術師の首を緑色に光る魔法陣が貫いた。
二の太刀で首にわずかな傷を作ったとき、エルは気力をその傷から首に流し込み、風魔法の魔法陣を構築したのだ。
魔術師はそれを両手で払いのけようと狼狽えるけれど
シャキッ
小さな風刃の魔法が発現し、魔術師の首が切断されてゴロリと地面に転がった。
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