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鉄屑拾いの剣姫  作者: エビマヨ
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第七話 オークの森(1)

 冒険者たちの襲撃から数日たった。その間、エルは奪った装備を売ったお金で街で食べ物を調達して来てくれた。


 街の食料品店はどれも貧民にまともに物を売ってくれないから、表口から店に入って買い物をするなんてとても許されないけれど、裏口にまわれば、お金さえ払えば売ってくれる店もある。


 私はというと、お金も得た事だし無理に外出せず、けがをきちんと直すようにエルに言われ、この数日家に閉じこもっていた。


 そのおかげで青あざも殆ど消えて頬の腫れもわからなくなったし、口の中の傷も痛みを感じなくなって、普通に食事を取ることが出来るようになった。


 でも気術の訓練はここ一週間やっていないし、そろそろ元の生活に戻りたい。私はベッドの上でエルに話しかけた。


「明日はどうする?そろそろ谷へ行ってみようか。」


 でもエルは難しい顔をした。


「あいつらがクラン入りしてたら厄介だ。」


 クランとは冒険者や冒険者パーティーの私的な相互扶助組織のことで、複数のパーティーで依頼を受けたり、個人では集められない高価な装備を共有したり、資金援助をしあったりしてお互いに協力し合う。


 だからもし、あのパーティーがどこかのクランに所属していて、そして私たちに対する報復を訴えでもしたら、そのクランから敵認定され所属する他のパーティーからも襲撃される可能性がある。


「明日、北部の様子を見に行って来る。谷へ行くのはそれで安全が確認出来た後だ。」


「私も一緒に行くよ。」


「・・・姉貴はおとなしく家で待ってろよ。」


 弟に過保護に守られているようで全然気に入らない。


「行くなら一緒に行こう。私もエルが心配だし。」


「あのな・・・」


 結局、喧嘩になってお互い反対側の壁を向いてベッドに寝転がった。



 気まずい雰囲気がしばらく続いたけれど、寝ころびながらエルがぼそりと口を開いた。


「今回の件で大分消費したし、干し肉がもう無くなる。」


 それを聞いて私はベッドの上で起き上がった。


「じゃあ、久しぶりに狩りに行こうよ!」


 お金もあるから、エルと一緒に街に干し肉用の肉を買いに行っても良いけれど、裏口から売ってもらえる食料は、割高で質の悪い物ばかりだ。それより、森に行って狩りをすれば新鮮な肉を手に入れることが出来る。何より、ずっと部屋に閉じこもっていたから、街に行くより体を動かしたい。


「明日は東の森で狩りをしようよ。あそこなら人も来ないし。」


「オークの森か・・・」


 これまで、街の東西に広がる森に、私たちは時々狩りに出ていた。


 でも本来は、森での狩りは街の狩人たちにしか許されていない。彼らは獲物を売ったお金の一部を街へ納めることで認可を受けていて、それ以外の者が狩りをしたら密猟となる。


 狩人にとっては密猟者の監視が、生業の狩りと同程度に重要な仕事だ。密猟者を見つけると彼らは問答無用で襲って来るし、その結果、殺してしまっても罰を受けることがない。


 それから、森は盗賊たちの住処でもある。彼らは大手を振って街には入れないから、森の中に拠点を作り、その付近を通る旅人や商人のキャラバンを襲う。


 そうやって金品を奪うことを目的としながらも、娯楽のない森の中に暮らす彼らは、人殺しを唯一の楽しみとしている。


 そんな危険があるから、万が一のための食糧である干し肉が心もとなくなったときにだけ、気配を消して細心の注意を払いながら狩りに出ていた。


 けれど、それでも狩人たちや盗賊には何度も襲われた。こちらが子供だと見るや、彼らは喜んで殺しにかかって来るから、私たちもそれに全力で立ち向かった。


 私はエルと自身を守るため、人を殺すことへの全ての逡巡を捨てた。そしてこれまで何人も殺して来た。



 それから森では、ゴブリンなどの魔物の群れと出くわす事もしばしばある。それに時々、奥地から流れてくる狼の魔物の群れなど、強い魔物と遭遇する事も稀にあった。そういう敵とも、エルと二人連携して戦い、生きて帰って来た。


 厄災の竜の前に立つため、私たちは強くならなければならない。森はそのための実戦訓練の場でもあった。



 でも最近、東の森の奥まった一帯にオークの群れが住み着き、以来そこには狩人も盗賊も近寄らなくなった。


 オークはそれほど知能は高くないけれど、力が強く基本群れて行動するから、経験を積んだ中堅冒険者のパーティーが連携して相手にするような魔物で、だから少人数で動く狩人たちや、自分たちより弱い相手を嬲り殺すしか能のない盗賊では手に余るのだ。


 それに他の魔物たちも、オークの群れとの間に不要な軋轢を生むことを避けて、この森にはあまり近寄らなくなった。


 でも気配察知が得意な私にとっては、乱暴で粗雑なオークの気配を察するのは容易く、だから大きな群れを避けて安全に森に分け入ることが出来る。


 こうしてこのオークの森は、今では私たちの格好の狩場になっていて、獣を狩ったり、小さなオークの群れを見つけたら、剣の修行のためにそれらと戦ったりしていた。


 情報収集をどうするかは決まらなかったけれど、とりあえず明日は東の森に狩りに行くことになって、訓練でも鍛錬でもない久しぶりの外出に、私の心は少し浮き立った。

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