表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき

八月の引越し

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくごじゅうよん。

お題:引越し・気まぐれ・まどろみ



 八月に入り、ただでさえ酷かった熱は、さらに本格的になってきた。

 じりじりと肌を焼く日差しは、日中には攻撃性を増して、全力をもって襲ってくる。

 なんの恨みがあるんだと言いたくもなるが。そもそも、その日差しが強くなっているのも、人間のせいだと言われてしまえば、ぐうの音も出ない。―そういう環境問題とかには、あまり興味がないから、詳しいことは知らないが。

 それでもまぁ、自然の頂点にいるつもりの人間様のせいでは、あるだろうよ。自業自得もいい所だ。

「はぁ…」

 しかし、その暑さにその人間が耐えられるかというと、そうでもなく。

 暑さが増せば増すほど、クーラーを使うし、扇風機を回す。電気使い放題だ。―これもよくなかったりするのか?まぁ、生きていくには、生活していくには、これを無くすのは惜しいので、辞めようがないのだが。

「……」

 だが今は、その冷房機器すら稼働していなかったりする。外の室外機は静かだし、扇風機のモーター音も聞こえない。

 ただ、窓が開け放たれ。時折生ぬるい空気が通っていくだけ。

 半そでをまくり上げ、ノースリーブのような状態にして。極力動きやすく、且つ涼しいハーフパンツを履いて。出せる肌は、むき出し状態。ジワリとかく汗はそのまま。 そのうち畳にシミができそうだ。それは避けたいところではあるが。

「……」

 通り過ぎる風は、ザワリと肌をなぜる。涼しくもないので、ただただ気持ち悪さが残る。 かと言って、窓を閉めると、もうこの部屋がサウナ状態になるので却下だ。

 ならば冷房を入れろと言う感じだが、まだそれらがそろっていない。残念ながら。

 クーラーはまだカバーがついたままだし。扇風機は、多分どこかの部屋にごみ袋でおおわれたままに置かれている。

「……」

 その扇風機だけでも取りに行こうかと、思いはしたのだ。が。目の前に広がる段ボールの山と群れに、一気にやる気が失せた。

 今からこれを開いて、中身を出しながら整理して、段ボールをつぶして…という過程を考えただけで、もう駄目だった。

「…めんど…」

 この八月。

 私は、私の家族は引越しをしていたのだ。あっついのに。

 夏の。中途半端といえば、中途半端なこの時期に。

 ちなみに私自身の荷物と言えば、せいぜい段ボール2,3個分で済んだ。他の家族分もこうして並んでいるから、山になってるし、群れている。

「……」

 その家族と言えば、昼食を買いにコンビニに行っている。

 私は、もう、なんというか、体力が限界だったので、こうして1人留守番をしているのだ。

 まだましな、涼しさがある部屋に。1人。積まれた段ボールに、ぐったりと寄りかかり、足を放り出している。手はもう動かないぐらいに、だらりとなっている。

「……」

 これなら、一緒に外に出て、クーラーの効いているところにでも行けばよかったな。と、今更ながら後悔している。遅すぎる後悔だ。もう、あの時はほとんど思考が回っていなかったんだな…と思いつつ。

 実際今でも、たいして鮮明ではなかったりするが。

「……」

 全く。

 もともと、体力も気力もないのに。半端に手伝いなんてするんじゃなかった…。

 家族はそんなこと、承知の上なので、手伝わなくてもいいと言われてはいたのだが。

 ここで私が、素直に手伝わないという選択を選ぶわけもなく。気にしいで気まぐれなのだ、私は。今日発揮するものでもなかったが。大人しくしとけばよかったのに…。なんで手伝いなんかしたんだろう。 ただでさえ、引越し業者という他人が居て、気が張っていて、それだけでも疲れるのに。そのうえで、気まぐれまで起こして、手伝ってやるか…なんて。どこのどいつだお前は…。

「……」

 おかげで、周りに人が居なくなった途端これだ。

 体力も切れて、気力も尽きて。

 ただぼーっとしてるのが関の山。暑さも相まってなおの事。どっと疲れに襲われてしまって、立っていることもままならない。もう動きたくもないし、眼球を動かす事すら億劫になってくる。呼吸動作でさえ、面倒になってきそうだ。

「……」

 しかし。

 少しずつ。少しずつ。

 疲労は、眠気へと変わっていたりする。こんな暑い中で、眠れるもんかと思いはするが。もう瞼は落ちつつある。思考はすでに停止作業に入っている。

「……」

 どろり―とした眠気に襲われ。

 私はそのまま、それに身を任せ。

 まどろみの中に、落ちていく。

「……」

 遠くで、ガチャリと玄関の開く音がしたが。もう私は起きて居られない。空腹より。食欲より。睡眠欲だ。

 まどろむ思考の中で、ただいまという声を聞き。

 私は意識を手放した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ