表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

薬売り

作者: 長万部三郎太

19世紀。古き伝統は蒸気機関車の音でかき消され、農村は町へと発展し線路が東西をつないだ。そんな時代の話。



ある小さな町に薬売りがやって来た。当時はまだ珍しかった自動車で颯爽と現れた背広の男は、わざとらしくエンジンを吹かして注目を集めると、このような謳い文句で客を煽った。


「塗ればたちまち怪我が治る、科学の結晶! さぁ、いかがですか!?

 1瓶たったの2シリング!」


決して安くはない価格に、集まった人たちは落胆した。その場を去る者もちらほらといる。


「その話、本当だな!?」


見物人が振り返ると、少し離れたところに声の主と思われる男がいた。

彼は大きな杖をつき、片足を引きずりながら薬売りにゆっくりと近づく。


「ええ、もちろん。あなたは最初のお客様だ。この1本はサービスいたしましょう」


そう言うと薬売りは男に瓶を渡した。

彼は躊躇う素振りを見せつつも、瓶の中身を一気に飲み込んだ。


するとどうだろう?


「足が!? 戦争の古傷が……ウソのようだ!」


男は杖を投げ捨て、雄叫びをあげながらその場を駆け回る。


薬売りはすぐに町の人々に囲まれ、『科学の結晶』は飛ぶように売れた。


あっという間に荷台を空っぽにした薬売りが、町の人に別れの挨拶をしようとすると、さきほどの杖の男がこう申し出た。


「旦那、こんな素晴らしい薬を譲ってくれたお礼に、俺を雇ってくれないか。

 当分給料はいらない、このままその自動車に乗せて連れて行ってくれ!」


薬売りは心を打たれ、男の手を掴むと助手席へ引き上げた。居合わせた町の人たちはそのやり取りに感動を覚え、自動車を見送ると満足して家に帰っていった。



帰路、助手席に座っていた男はこう言った。


「旦那、塗り薬じゃなくて “飲み薬” ですよ? 今日はバレなかったから良かったものの、あれじゃ俺がバカみたいじゃないですか……」





(すこし・ふしぎシリーズ『薬売り』 おわり)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こういったブラックジョークの効いている作品、好きです。 軽快にサクサクと読むことができました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ