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甲種合格から初年兵演習まで


 昭和11年2月雪の日であった。朝銀行へ出勤してみると何だか雰囲気が異常である。時間が経つのに従い東京麻布三聯隊の将兵が反乱を起し、時の内閣総理大臣大蔵大臣他重臣達が反乱兵の兇彈に斃れたのであった。然し間もなく沈圧され吾々の日常生活には特に支障はなく平静を取り戻した。


 満州事変、上海事変と突き進んで昭和12年徴集の吾々にも漸く軍人になる日が巡ってきた。徴兵検査の結果は「お目でとう」と云われる甲種合格であった。


 当時は既に軍國時代であり「軍人に非ずんば男子で無し」であった。徴兵検査に合格したら入営する迄の間に最低限軍人勅諭は丸暗記せねばならない鉄則があったが、入営の日には20数頁の内、未だ1〜2頁残っていた。


 甲種合格→入営の日の報が学校卒業生の間に伝わり元町三丁目在住島君(靴屋)の兄の知り合いで母校一回生の門脇少尉が篠山歩兵第70聯隊歩兵砲隊に居ることを知り入隊の日を待ち受けたのであった。


 型通りの入隊式を終り初年兵の編成が発表せられ、自分は大隊砲の構成員となり、日夜訓練を受ける身となったのである。


 訓練は毎日烈しく内勢と演習等総て時間的に機械的に、そしてその合間には感情的に気合いの入れっ放しであった。

 ところが前述の門脇少尉(後に中尉に昇進された)が週番将校の時には大いに助け舟を出してくれた。週番将校室に私を呼び寝台に腰を掛けさせ、中隊当番を呼び付け将校酒係から饅頭を買いに走らせ、そして私に与へて呉れたのであった。又彼は心中何かを考えて居たのであらうか?(後に想像したが彼は死亡したのか生死すら判明できない)


 内務班の編成1ヶ班約30名。他に初年兵係上等兵(予備役2名 現役1名)同一等兵(現役1名)


 予備役 河合上等兵(肉屋) 尼崎上等兵 現役 橋瓜上等兵 松田一等兵 以上4名が助手。


 演習は砲の取扱いに始まり、輓馬の手入れ、給餌、それに禁止事項の乗馬運動……

 吾が隊に配属されている馬はすべて輓馬であり、乗馬して走らせることはその性格上、絶対禁止なのである。

 砲を牽き、弾薬車を牽くことをもってそのその任務とする。輓馬に乗って走らせることは本末転倒と言わざるを得ず、厳に禁止されているのであるが、馬を運動させるために人間がそれ以上の体力を消耗させることは何とも理に適はず、渋々随ひ同調していただけであった。


 さて、本来の演習(訓練)は?

 今茲に砲の取扱い方、牽き方を述べても単に過去の記憶の再来であり、何の価値もないことであらうと思われるが、、尚声を大にして書き留めておきたいのは、自分の過去の人生は自分以外のものには殆ど知られていないので、微に入り細に及んだ後世の人の為、僅かでも参考になればと敢へて書き遺すことにした次第である。


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