1-1 出会い物語
佐藤 寂は無職の無色である。
これは社会が僕に張ったレッテルであり、呪いだ。
無職というだけで、どこかかわいそうなものを見る目をされる。
被害妄想かもしれないが、それでもどこか腫物を扱うような節を感じる。
そんなことを考えながら 佐藤 寂は、また今日も貯金を切り崩し、酒を買うために家から一番近いコンビニへと向かうのだった。
いつもの道を歩き、いつもと同じように空を見上げ、愚痴を脳内で吐きながらコンビニへと向かうこの時間が楽しいと思えたらどんなにいいか。
そして、目的のコンビニへと到着する。
「.......」
しかし、そこにはコンビニは無かった。
車が12台ほど停まれるほどの広さを完備したコンビニの駐車場には、いつもの見慣れた姿ではなく闇があった。
暗闇だ。
触れたら飲み込まれてしまいそうなほどに禍々しい闇だ。
「近づいてく......る.....!!」
闇は 佐藤 寂を飲み込み、その場から消えた。
寂が手に持っていた財布のみを残して。
『君は選ばれたんだ。??に、だから、君のこれからの活躍を期待しているよ』
飲み込まれる瞬間に、そう声が聞こえた気がした。
闇に飲み込まれ、感覚的には数分が立ったころ。
瞼ごしにでもわかるほどの光を感じた。
目を開けるとそこには、一面の赤空と黒煙が広がっており、僕は地上数千メートルからリンゴが木から落ちるよろしく、重力の力により空を自由落下していた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
何が何だかわからない、でも着実に死へのカウントダウンが始まっている現状に僕は驚きを隠せないでいた。
「死ぬ~~!!」
あぁ、お母さん。
ごめんなさい、20歳にもなって無職で。
懺悔の気持ちと走馬灯が見え隠れし始めた。
地面までもう間もなくというところで僕は目を瞑った。
地面とキスをして死ぬ。
これが僕の死因か......情けないな。
が、一向に地面にぶつかる衝撃が頭上に感じられない。
それとも、もう、とっくにぶつかっていて死んでいるのか。
目を開けようかどうか迷ってると唐突に、ほわほわとした声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
目を開けるとそこには、青を基調とした軍服のような服装をした少女?がいた。
「あ、はい。大丈夫です?あれ、僕、自由落下していたと思うんですけど......」
そこから先の言葉が続かなかった。
なぜなら、僕は地面すれすれのところで浮遊していたから。
「自由落下?なんですかその独特の言い回しは、あなたは落下していたんですよ」
「それは、わかってます。なんで、僕は地面すれすれの状態で浮いているんでしょうか?」
「それは、わたしが重力魔法で反重力魔法を使用したからです」
「魔法?」
魔法?まほうってあのゲームやアニメなんかでよく聞くあれですか?
魔の法則と書いて魔法と呼ばれるあれですか?
そんな~まさかね。
「もしかしてですが、魔法を知らないんですか?」
「え、はい。知らないです」
そう言うと彼女は驚いた顔を一瞬のぞかせたがすぐに戻り、やれやれといったように魔法について教えてくれた。
「魔法は大気中に存在する魔力を媒介として使用者のイメージに合わせた現実壊変を行ってくれます。
現実壊変能力には個人差があり、現実壊変能力によってイメージの具現化レベルが変わってきます。
そして、この世界に存在する人間はそのすべてが多かれ少なかれ魔法を扱えます」
説明をしている途中に彼女は僕を地面におろしてくれた。
「そうなんですね。それよりも、その服装を見るかぎりあなたは軍人ですか?」
話題を逸らそう。
「はい。私は軍人です。北魔法都市-エルダーテイル-所属、独立魔法遊撃部隊隊長 フワ・ルリルと言います」
「そんなに小さいのに?」
「殴りますよ!!小ささは関係ありません、私たちの都市は戦争の中なのです。そして、私のように、現実壊変能力が高い人たちはそのほとんどが戦争に駆り出されています」
「そうなんだ。大変なんだね」
「そうですね。ですが仕方ありません、これも国のためですから」
小さい少女はそう言ってどこか遠くを見つめる。
こんな小さい少女にここまで悲しそうな眼をさせる。
これが戦争なのか。
平和な現代日本で生きてきた僕にはわからない感覚だ。
「ところで、ここはどこ?」
「ここは、前回の戦争跡地です。ほら、そこに体の一部が炭状になった遺体がありますよ。それに......」
少女が指をさす方向に振り向いた寂はそこで、無数の死体を見ることになった。
「...うぅ、うげぇー」
無造作に転がっている人であったであろう者の亡骸は、無残に焼けこげウジ虫がたかっている。
それだけならばまだしも、そこには無数の少女たちの生首が鎮座されていた。
「彼女たちは私たち北魔法都市の魔法師団たちです。南魔法都市との戦争で捕まりおそらくここで見せしめとして処刑されたのでしょう。見知った顔も何人かいます」
なぜ、そんなに冷静にこの状況を説明できるのか僕にはわからなかった。
ただ、胃から逆流してくる胃酸を垂れ流すのに僕は一生懸命になっていた。
ここが戦場だということの意味を無理やり理解させられることになった。
「大丈夫ですか、このような光景は日常茶飯事でしょう?」
「いいや、少なくとも僕は初めてだ」
「不思議なことを言いますねあなたは、まるで戦争がないところから来たような口ぶりですね」
「そうだよ、僕のいた国では少なくとも今は戦争なんかない」
「そうなんですか、羨ましいものです」
「......」
「長く話過ぎましたね。あなたはいったい何者ですか?怪しい動きをしたら殺します」
ルリルはそう言い放つと、心を失った人形のように冷たい瞳になり寂に向けて右手を突き出した。
「......僕は」
なんていえばいい、異世界から急に転移してきましたとか言えばいいか?
信じてもらえないよな、流石に。
僕自身も突然ん暗闇に呑まれて目を開けたらこの世界に来ていたから説明のしようがない。
これは......詰みましたね。
「僕にもわからないんだ!!」
「そうですか、残念です。あなたからは敵意や悪意を感じなかったので本当は殺したくないのですが、自分の素性を話せないというのなら仕方ありません。私も軍人です。不確定要素は一つでも積んでおかなければなりません。それでは、さようなら。名前も知らない人......」
ルリルの右手から光をも通さない小さな黒い球体が生み出され、寂に向かって飛んでいく。
それは極小の地球上ではブラックホールと呼ばれる物体が寂の鳩尾部分部分に触れる。
触れた場所から穴が開き寂の心臓を吸い無くした。
バタリ...と、音を立てて倒れる寂の遺体。
その遺体を静かに見守るルリル。
「戦争状態でなければもっと長く気軽に会話できていたのでしょうか?」
ルリルのその言葉は誰の耳にも届かない。
ここで、佐藤 寂20歳無職の命は消えた。