【短編】虚双星レイ-At the game center-
「レイ―こっちー!」
私は、レイに向かって大きく手を振って自分の場所を伝える。
虚双星レイは私と同じ十五歳。
彼女は超毒舌で、あまり友達を率先して作らない性格だ。
数日前、ある所に行こうとダメ押しで誘ってみたところ、あっさりとOKを貰えた。
だから今日、何とかしてその子の全貌を暴こうと思い、私は一人でここのゲームセンターへと来た。
そして今、待ち合わせ体制で丁度レイも到着したところだ。
「…………」
取り敢えず、ゲームセンターにて最初のファーストコンタクトはレイの無視により失敗に終わった。
そんなレイの視線はこちらに向いており、気づいていないわけではなく完璧なる無視だ。
でも、ちゃんと待ち合わせ通りの場所、時間に来てくれたことに私は感謝する。
「レイっ! 来てくれてありがとー! じゃあ早速、ゲームセンター内を周ってみよっか!」
「…………」
私の意見にレイは無言で頷き、私の後をゆっくりと歩いて追いかける。
その歩くスピードは遅い、とてつもなく遅い、亀並みのスピードだ。
「えっ、待って! レイ歩くの遅すぎっ! もうちょっと早く歩けないの?」
「別に歩いてもいいよね、だって歩くのは個人の意思で判断したことだよね? だから私はゆっくり歩く……」
「でも、来る時はちゃんと歩いてたよね? 何時に家出たの?」
「午前三時……」
「はっ?」
私はレイの想定外すぎる発言に思わず声を漏らす。
レイとゲームセンターで遊ぶ約束をしたのは午前十時。
だが、レイは三時に自分の家を出たと言っている。
まさか三時から十時までの約七時間、その長い時間をずっと歩いていたとでも言うのか。
本当にそうだとすると、足が疲れているのかもしれない。
その影響で、歩くのが遅くなっていたと思うとしょうがないと思える。
「そんな夜遅く、よく警察に補導されなかったね……」
「中年の男の人に声をかけられたけど、無視して逃げて来たから大丈夫」
「…………」
私は笑い口調で言葉を発したが、レイの返した言葉により息がつまりそうになった。
その中年の人が悪い人だったとしたらそれはそれで問題だが、警察に声をかけられてなおかつ逃げるなんて言う行動をとったのなら、もっと問題だ。
警察に声をかけられたのに対して無断で逃げる、そんな態度をとったのなら完全に怪しまれる。
「で、その後はどうしたの?」
「その後って、何もないけど?」
私は何を期待してたのだろうか、帰ってきた回答は『何もない』。
警察が諦めてくれたのなら嬉しいんだけど、その後何も無かったら逆に心配になってくる。
それが、警察では無くてストーカーって言う場合も十分にある。
だとしたら逃げて正解、そもそも三時、四時辺りに声をかけて来た相手の男の方も怪しい。
それが変人だったら、レイが逃げても変ではない。
到底、私が実際に見聞きしたわけでは無いので、その全貌は見えてこないしこれ以上の深堀も良くないと思ったのでここで話題を変えてみる。
「あっ! あそこにクレーンゲームがあるよっ! せっかくこういう場に来たんだから一回やってみよ!」
「どうせ取れないからやめたほうがいい……」
誘いを聞いたレイは、私に聞こえる程度の小声でわざとそんなことを言って来た。
クレーンゲームは金の無駄、そう言いたいようだがそれには賛否分かれる。
上手い人もいれば当然下手な人もいる、それがこの世界の特性だ。
「一回だけ! 一回! 私がやるからレイは見てるだけで良いよっ!」
そう言ってクレーンゲームの台に駆け寄ると、レイも「お前だけならとっととやれ」とでも言わんばかりの表情をして駆け寄って来た。
「よっし、やるか!」
私はクレーンゲームの台に百円玉を投入し、一息意気込みを入れて一プレイ始めた。
「――――」
「…………」
アームでしっかり掴んだはずの人形は、上に持ち上がった時の衝撃でバランスを崩して下に落下した。
落下したのはもともと人形の置かれていた台で、商品ゲットの落下口ではない。
クレーンゲームの結果は、失敗に終わった。
失敗した姿を見たレイは何か言いたげな表情をしたが、何も言ってこなかった。
それは気遣いなのかは分からない。
とにかく、黙ったままで何も言ってこなかった。
「――あのさっ! 今、私がやってみたいことに付き合ってくれたんだから次はレイがしたいことに私が付き合うよ!」
「――カラオケ」
しばらく沈黙の時間が続いたが、そこから切り出したのはやっぱり私だ。
何か言わないと始まらないと思ったのが私の原動力になった。
それに、私の失態を見たレイも、無言で何を考えてるのか分からないのもそれはそれで怖かった。
レイは、今までの経験からは「こいつ下手だな」とか「やっぱりやらない方がよかった」とかそんなことを考えてそうな人だ。
だから、それから一先ず逃げたかった。
レイから返って来た答えは『カラオケ』、即答だ。
「カっ、カラオケ⁉ レイちゃん歌えるの? 凄いっ! 私歌えないよっ?」
「――――」
とにかく褒めた、私は歌は上手くも無いしそもそも歌えない。
それだけを尊重してとにかく褒めた。
レイは無言だったが、内心喜んでいると願いたい。
レイの顔に今の気持ちは出ていない、ずっと真顔状態でボーとしてた
「場所、移動しよっか! カラオケボックス、すぐ近くだし!」
私とレイは場所を移動し、カラオケボックス内へと足を踏み入れる。
中は昼間にしてはガラガラ、ほぼ貸し切り状態だ。
「レイ、カラオケ歌いたいんだよね? はいっ、これ!」
私はすぐさまレイにマイクを手渡す。
「お前が歌え」何て言ってマイクを押し返してきたらひとたまりもないが、幸いレイはマイクを返してこず、選曲した歌を見事に歌い始めた。
「――凄い」
レイの歌の上手さに、私はあっけにとられて口を開ける。
さっきまでほぼ口数が無かったレイだが、流石に歌う時は口を大きく開け、ちゃんと真面目に歌ってる。
その声は本当にすごい歌声で、凄いとしか言い表せない。
綺麗な低音が、カラオケボックスの密室内で響き渡った。
本当に一瞬で時間が経過したように感じられて、すぐにレイは歌を一曲歌い上げた。
「……歌い、終わったけど、次は――」
レイは歌い終わり、こっちに自信なさげにマイクを差し出してくるが、それを防ぐべく私はレイを又もや盛大に褒め称える。
「凄いよレイっ! 何それ? 天使の歌声?」
「……天使な訳ない。私が天から使えた人とでも言うのか、馬鹿馬鹿しいっ。それより、さっさと歌え」
レイはふざけた質問に着実に応答し、その後再びマイクを私の方に向けて来る。
「私、歌わ……ないと、ダメですか」
「…………」
出来れば歌いたくなかった私だが、レイの無言の顔を見る限り、「こっちが歌ったんだから、さっさと歌え」と言う顔をしている。
クレーンゲームはこっちのみでカラオケはレイのみ。
「それでよくないか?」とも内心思ってしまう。
レイの目は本気だ、早く歌えと言っている。
「わっ、分かったよ――」
私はレイの手が握っていたマイクを振り落とすと、レイに抱き着いてみた。
これで分かり会える――そう思ったのだ。
「――――!」
レイは無言で色白の肌をほのかに赤く染め、歯を優しく噛みしめた。
※この後、私はレイにビンタされ一曲歌う羽目になりました。 おしまい。
最後までお読みくださりありがとうございました。
初のコメディー短編に挑戦してみましたが、無事に書き終えることが出来て安心しました。
何でタイトル名が『虚双星レイ』なのかは特に大きな理由はないですが、一つ言えるとすれば『虚しい双つの星』って意味で付けさせてもらったタイトルです。
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――by命廻零