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黒い心

「全身が割れるように痛い……」


 あの後、ディアに吐くほど投げられた。ガチで。

 僕は現在、今日の食事を作る為に厨房に来ている。

 しかし、脳にまだダメージが残っているのか耳の奥がガンガンとなっているので、暫く休まないととても料理を始める気になれない。


「まあ、おかげでステータスは上がったけどさ」


 僕は、先程ディアに見せてもらったステータスを思い出す


 名前 天条蒼 所属 ブラックハーツ

 筋力 4.07 体力 3.08 魔力 1.00 体術 4.09

 スキル 「異海の???」


 一週間で1ほどしか伸びなかった体術のステータスが、何と3近くも上がっている。

 これもひとえに、ディアの教え方が良いのだろう。


 最初に吐くほど投げられた後、次は投げられない練習をした。

 吐くほど投げられたおかげか、いつもよりも集中して良い動きが出来た気がする。

 そして、ある程度投げられないような立ち回りが出来るようになった後は、投げる練習だ。

 これも散々ディアに投げられた後だったので、やり方を何となく身体が覚えていたのかスムーズに出来た。

 あとはこのセットをループするだけで、みるみると体術への理解が深まっていくのを感じた。

 ディアには、やっぱり才能があると絶賛されたが、あのメニューだったら誰でも上達すると思う。


「……しかし、今日は何も食べられそうにないな」


 僕は食糧庫を漁りながら、溜息を吐く。


「そういえば、食料がもうないんだけど、今日の夕飯どうしようかな……」


 今まではある程度釣りなどで誤魔化してはいたが、それにも限界がある。

 一応、ゾアにはこの事を伝えてあるのだが、そうかと言われただけで何も伝えられていない。


「うーん、どっかの島にでも上陸しないのかな?」


 そもそも、この船は今どこに向かって進んでいるのだ?

 初日にディアから聞いた話では黒海の近くにいるらしいが、そろそろ上の海層に向かうのかな?


「大体、本当に黒海ってなん——」

「酔っ払いのクソガキ共ーーッ! 起きろぉぉおおおおおおッ‼︎」


 突然、甲板から凄まじい叫び声が聞こえて来た。

 すると、すぐにドタドタと今まで二日酔いで寝ていた海賊達が甲板へ駆け上がっていく音が聞こえる。


「ティ、ティザーッ! どうしたんだ⁉」


 僕は慌てて厨房を出ると、海賊達の中に混ざっていたティザーを見つけて合流した。


「あん? ……蒼、お前は引っ込んでろ」

「いや、でも、これただごとじゃないだろ⁉」

「ガキには早えよ」

「どういう意味だ!」

「チッ」


 舌打ちをすると、それ以上ティザーは何も言おうとはしない。

 一体、何だと言うんだ⁉

 僕はそのまま訳が分からず甲板に出ると、そこではゾアとディアが並びながら海を眺めていた。

 ……いや、その視線の先をよく辿ってみると、遠くには微かに船のようなものが見える。


「ガキ共、獲物が来たよ。あれを逃すと暫く飯抜きだからね!」

「「「おう!」」」

「な、なあ、ゾア! 何をする気だ⁉」

「あん?  んなもん、襲って食料をぶんどるに決まってんだろ。お前が足りねえって言ってきたんじゃねーか」

「お、襲うって、殺すのか⁉」

「それは、相手次第だね」

「な……っ⁉」

「お前の世界には、もういないようだから教えといてやるが……これが、海賊の流儀だ。覚えておきな」

「海賊の流儀……?」

「そうさ。欲しけりゃ奪え。邪魔なら殺せ。私らは、血の一滴まで他人から奪ったもんで出来ている。自分(てめえ)で持ってりゃいいのはただ一つ、黒い心のみだ」

「無茶苦茶だ……」

「無茶でもやれ。他人に同情なんてするな。お前にも、叶えたい望みがあるんだろ?」


 ゾアはそう言って、僕を睨む。

 その瞳の奥には、ディアと同じように吸い込まれそうなほどの黒い欲望が渦巻いていた。


「なら、アンタも黒い心を持ちな。他人からは全て奪え、自分の欲望(願い)は誰にも奪われるな。じゃなきゃ、天海に行くなんて夢のまた夢だよ」


 僕はゾアの放つ覇気に圧倒されながら、その言葉の意味を考える。

 これが、ディアの言っていた黒い心というものなのか……?

 でも、他人から物を盗むなんて……。

 僕はそこで、ようやく現実から目を背けていた事に気が付く。


 そうだ……海賊なんて、要はただの犯罪者集団なのだ。


 命を助けて貰った上に、居場所まで用意してくれたブラックハーツ海賊団は、もしかしたら漫画やアニメに出てくるような、人に優しく情に厚い正義の海賊なんじゃないかと、心のどこかで信じていた。

 ……しかし、違ったのだ。


 こんな事は、絶対に間違っている。

 間違っているのだが……もしも、この船を追い出されたら、僕はどうやって天海へ行けばいいのだろう?


 ドンッ!


 その時、いつの間にか遠くにあった船は目の前まで来ていて、激しい衝突音と共に二つの船は並んだ。

 すると、同時に海賊達が雄叫びを上げて向こうの船に乗り込んでいく。


「ほら、行くよ。蒼」

「お姉ちゃん……でも、僕は……」

「大丈夫。こんなに黒海の近くにいる船なんて、どうせまともな船じゃないよ。私達と同じようにね」

「……」

「それより、これは貴重な戦闘経験だよ。この世界で海賊としてやっていくには、絶対に逃せないチャンス」

「僕は……人を殺したくなんて……」

「誰が殺すなんて言ったの? 食料を奪うのに、別に殺す必要は無いんだよ」

「え?」

「要するにさ、戦闘が激しくなる前に蒼がさっさと食料を奪っちゃえば、私達が戦う必要はなくなるんだよ?」


 ディアは、ドヤ顔でそんな事を言う。

 貴重な戦闘経験とやらは、どうしたのだろうか?


「さっ、私も手伝ってあげるから早く行こ?」


 そう言って、ディアは僕に手を差し伸べてくる。

 僕は……ディアを信じて、その手を取る事にした。


「いい子」

「……もう少しだけ、お姉ちゃんを信じてみるよ」

「うん。今はそれだけでも、とっても嬉しいよ」


 僕達は手を繋いだまま、まるでこれからデートにでも行くように戦場へと乗り込んで行くのだった。


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