第一話「青藍は、始まりの色。」その肆
藤崎恭華と名乗ったその女性は、とても綺麗な顔立ちをしていた。突然話しかけられて驚いた私は、
「よっ、よろしくお願いします!」
と間抜けな声で返事をする。
「ふふっ。よろしくね」
彼女は面白がるようにそう言った。なんだか恥ずかしくなった私は、慌てて次の言葉を探す。
「まさか、先輩に……藤崎さんに聞かれてるとは思ってなくて」
会話の引き出しから一つ選んでみたものの、結局恥ずかしさは消えないままだった。また、顔が熱くなる。
「あはは、恭華でいいよ。名前で呼ばれる方が好きなの。それにしても、バイト初日で店長とバツイチの話なんて。綾瀬さん、貴女面白いね。」
「失礼な子だって思いました?」
「いや、私も店長のことよくからかってるから大丈夫だよ。新しい仲間が増えて嬉しいくらい」
彼女の笑顔を見ていると、私も自然と笑顔になれた。
私達は北町でバスを降りて、そこから2分程歩くと店に到着した。
――― 味探訪 季里恵 ―――
ここが、今日から私が働く場所だ。宮崎の郷土料理が味わえるこの居酒屋は、昼はランチも提供していて、老若男女問わず人気のお店だ。
中に入ると、先にバスを降りたはずの店長が迎え出た。
「なんだ、二人で一緒に来たのか。やっぱり一人だと迷いそうだったか?」
店長はニヤリと笑いながら言った。
「もう子供じゃないから心配は無用だって、さっき言いましたよね?」
からかわれたのが気に入らなくて顔をしかめてみたけれど、真横から聞こえる笑い声を聞くと、自分がまだまだ子供のように思えて恥ずかしくなってしまった。